40 中央終戦

 2月中旬の寒風吹きすさぶその日は、狼人生イクシィが決戦に臨んだ日であった。



 1月上旬の入試期間開始から魔術転送所で大陸の各地に移動し、西部での入試を終えたイクシィは講師ユキナガと4人の仲間たちと共に大陸中央部へと帰還した。


 その後は事前の出願通りにウェンリッヒ魔術学院、エンペリアル魔術学院、シュトルム魔術学院、オイコット魔術学院、聖メリエン魔術学院、ジュテンダ魔術学院を受験し、すべての私立魔術学院の中で入試難度が最も高いケイーオ私塾魔術学院とそれに次ぐジーケ会魔術学院、女子学校であるオイコット女子魔術学院を除いては大陸中央部にある全ての魔術学院を受験していった。



 そして今日この日は、残る最後の出願校でありイクシィが最も入学したい魔術学院であるエデュケイオン魔術学院の入試当日だった。


 エデュケイオン魔術学院はケイーオ私塾魔術学院・ジーケ会魔術学院と並んで私立魔術学院御三家と称される学校であり、3校の中では最も学費が高く入試難度が低いものの「御三家」以外で匹敵する入試難度を持つ学校は大陸西部のカッソー魔術学院のみであった。


 私立魔術学院は入試難度が高い、すなわち他の魔術学院の滑り止めとして扱われにくい学校ほど入試日程が遅い傾向にあり、私立魔術学院御三家とカッソー魔術学院の入試日程はいずれも2月の中旬から下旬に設定されていた。


 エデュケイオン魔術学院の入試をもって今年度のイクシィの魔術学院受験は終了となり、既に大陸東部のイシェリア魔術学院とチアジス魔術学院、大陸西部のウェポニス魔術学院への合格を勝ち取っているためこれ以上狼人生活を続ける悲劇も回避できている。



 その上でイクシィはこの学校にぜひ入学したいという意気込みを忘れず、エデュケイオン魔術学院の入試に全力を尽くした。





「……お帰り、イクシィ君。今は何も言わず魔進館に帰ろう。既にお父様も迎えに来られている」

「ありがとうございます。どの問題もものすごく難しかったですけど、全力で戦ってきました」


 中央・東部・西部群に属する生徒5人のうちエデュケイオン魔術学院を受験したのはイクシィのみであり、他の4人は既に入試を終えていたがユキナガは1人で決戦に挑んだイクシィを正門の前で待っていてくれた。


「そうだ、それでいい。イクシィ君には今更言うまでもないが、魔進館では志望校という言葉はあえて使わない。嬉しい知らせもあるから、校舎に戻ったらお父様と一緒に伝えるよ。本当によく頑張った」


 これまでの入試と異なり、ユキナガはイクシィに今日の受験の感想を一切聞かなかった。


 どこの学校になるか分からないが、来年度からは魔術学生となる以上は魔術学院合格のための受験生活を振り返る必要はない。



 それはその通りだと分かった上で、イクシィはこの1年間の狼人生活で自分がいかに成長できたかを痛感していた。


 「魔進館」に入っていなければ、入試期間の中盤の時点で複数の魔術学院への合格を確保していることなどあり得なかったのだから。

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