39 合否通知

 その日は日が暮れ始める頃まで地方都市カッソーの高級な焼肉と飲み物を楽しみ、酒こそ自粛したもののイクシィたち生徒は心から癒しの時間を味わった。


 宿屋に帰った後は記憶が薄れやすい亜人語の入試問題のみ復習して寝床に就き、5人の生徒は一仕事をやり遂げた達成感を感じつつ深い眠りに身を委ねた。



「……君たち、そろそろ起きなさい。今から大事な話がある」

「むにゃむにゃ……あっ、おはようございます。何でしょう?」


 翌朝、ユキナガは外着に着替えた状態でイクシィと同室に泊まっている女子生徒を起こした。


 万が一の寝過ごしを避けるべくユキナガは宿屋の職員に自分たちを毎日朝早くに起こしに来てくれるよう依頼していたが、ユキナガ自身はいつも職員が来室するより前に起きていた。


 ユキナガは別室に泊まっている3人の男子生徒を既に連れてきており、寝間着のままの5人の生徒にユキナガは特殊な材質でできた紙の文書を差し出した。


 この紙は念写紙と呼ばれる魔力を封じられた用紙で、魔術を応用した短文送信技術である魔伝報は魔術師が遠隔地に置かれた念写紙に魔力を送ることで任意の文章を念写するという仕組みだった。



「これは昨日君たちの保護者を通じて魔進館から魔伝報で送られたものだ。ここには君たち5人のイシェリア魔術学院とチアジス魔術学院への合否結果が書かれている」

「先生、これって昨日の時点で届いてたんですよね? それなら昨日見せてくれても……」

「それはその通りだが、まず言っておくと君たち全員がこの両校に合格した訳ではない。全員少なくとも片方には受かっているが、昨日は君たちの心身を休ませてあげたかったから動揺を与えないよう黙っておいた。それでは早速発表する。ティート君、両校合格。エズルス君、イシェリア魔術学院合格……」


 男子生徒の質問に手短に答え、ユキナガはすぐさま合否結果を知らせ始めた。


 全員少なくとも片方には受かっていると言うが、できればチアジス魔術学院に合格していて欲しいと思ったイクシィは宿屋のベッドの上で緊張を感じた。



「……最後にイクシィ君、両校合格。チアジス魔術学院に合格したのはティート君とイクシィ君だけだったが、イシェリア魔術学院も受験者数が多く決して簡単な学校ではないから皆よく頑張った。これで少なくとも来年度は魔術学生になれるぞ」


 やったー! と声を上げて喜ぶ4人の生徒たちを笑顔で見ながら、イクシィは自分がチアジス魔術学院に合格できた嬉しさを噛みしめていた。


 イシェリア魔術学院は地方都市イシェリアの郊外にある一方でチアジス魔術学院は比較的都市部に近い地域にあり、大陸中央部の魔術学院に一つも合格できなかった場合は進学したい魔術学院の筆頭候補だった。



「喜んでくれるのは講師として大変嬉しいが、君たちの最大の目標はあくまで中央部の魔術学院に合格することだ。滑り止めを確保した安心感を持って、このまま最終決戦に向けて頑張ろう。魔術転送所は昼過ぎに予約しているから今から朝食を取ったらウェポニス魔術学院の数術と理論魔術の入試問題を復習しよう。……改めて言うが、本当によく頑張った。君たちには紛れもなく実力が身に付いているから、最後まで私に付いてきて欲しい」

「もちろんです。ユキナガ先生と一緒に、俺たちは合格を勝ち取ります」


 生徒たちを改めて賞賛したユキナガに、イクシィは力強くそう答えた。



 自分たちが最終的にどの魔術学院に進学することになるかは分からないが、少なくとも最後まで後悔のない戦いをしたい。


 5人の生徒たちはそれぞれ異なる経緯で受験生活を送ってきたが、その思いだけは全員が一致していた。

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