22 連鎖店

「店長、700ネイのカルビクス定食を2人分。飲み物は水で頼む」

「承知致しました。お水はすぐにお持ちしますね」


 魔術師ノールズに連れられて転生者事務局を後にしたユキナガは街道沿いにある飲食店に入っていた。


 転生者事務局からノールズの職場までは徒歩で30分ほどかかるらしく、ユキナガは途中の休憩と昼食も兼ねてノールズの行きつけの飲食店らしい「1000ネイ焼肉ペーチル 中央ヤイラム店」に案内されていた。


 店長から直々に一番奥の座席を指定され、ノールズは椅子に勢いよく座ると向かい側に腰かけたユキナガに話しかけた。


「安い店で申し訳ないが、何分今はまだ収入がなくてな。貯金をはたいて開塾の準備をしているから正直生活も苦しい」

「いえ、私はご馳走して頂く身分ですから。この店は有名なのですか?」


 まだ転生したばかりでエデュケイオンという世界に焼肉という文化があることも分かっていないユキナガは周囲を見渡しつつ尋ねた。


 今は昼過ぎのようだが店内は若年層を中心とした多くの来客でにぎわっていて、「中央ヤイラム店」という表記からも個人経営の飲食店ではなさそうだった。


「ああ、このペーチルは大陸でも有名な焼肉の連鎖店で、お前と同じ転生者の力で全大陸規模にまでのし上がったんだよ。1000ネイ焼肉という名の通り安価で焼肉が食べ放題という便利な店だ。まだ通貨の価値は分からないだろうけどな」

「そうですね。ノールズさんは魔術師ということですが、この世界では魔術師というのはどのような社会的地位にいるのでしょうか?」


 ユキナガに前世の記憶はないが、特殊な技能を持つ専門職は一般の職種に比べて待遇がよいということは常識として分かった。


「いい質問だ。俺がお前を召喚させた理由もそれにつながってくるから答えるが、今のエデュケイオンで暮らしている人間族の平均年収は400万ネイ程度、一方で魔術師の年収は最低でも1000万ネイだ。同じ魔術師でも職種や勤務先によって給料は違って、一番年収が高いのは治癒魔術を専門とする魔術師、特に施術院せじゅついんの経営者だと言われている。年収が一番低いのは魔術研究者だな」


 この世界の通貨はネイという単位らしく、一口に魔術師といっても様々な職種があるらしい。


「俺は元々ケイーオ私塾魔術学院という私立の魔術学院を卒業して、地元であるここ中央ヤイラムの魔術兵団で戦闘魔術師として働いていた。魔術学院で戦闘魔術の才能があると言われたからその道をきわめてみようかと思ったが、実際やってみるとあれだけ勉強して魔術師になったのに命がけで働くなんて馬鹿らしいと気づいてしまった。それで卒後5年で仕事を辞めて、教育の世界で生きてみたいと思った訳だ」

「なるほど、そういったご事情だったのですね。お聞きしたいことは様々にありますが、まず、この世界の教育制度はどのようなものなのですか? そして、魔術師はどのような課程で養成されるのですか?」


 最も気になっていたことを尋ねると、ノールズは頷いて説明を始めた。



 この世界の学制は6・4・4・4制と呼ばれており、子供たちは6歳までは学舎まなびやと呼ばれる私設教育機関に通い、それから10歳までは公立の幼年学校に通う。


 14歳まで通う尋常学校も同様にすべて公立であり、人々は生まれた子供を尋常学校までは必ず通わせるよう定められている。


 尋常学校卒業後に引き続き学問を修めたい者は18歳まで高等学校に通うことになっており、高等学校を卒業しているだけでも将来的な社会的地位は高くなりやすい。


 高等学校よりもさらに上位の学校としては士官学校、魔術学院、商業学校、工業学校といった学校が存在するがこれらは専門職を育成する教育機関という側面が強く、まとめて上級学校と呼ばれる。


 高等学校と上級学校には尋常学校までと異なり入学試験があり、地方都市が運営する公立の学校の他に私設団体が運営する私立の学校も存在していた。

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