第2章 異世界?②
その後、もう一度状況を確認することにした。
まず携帯電話。4台とも圏外で電波も届いていなかった。ただ、電波を使わないものに関しては、いつもと同じように使うことができた。
次に時計だが、これが不思議なこと携帯電話も里穂姉が持っていた腕時計も16時34分で止まっている。何かの拍子に壊れてしまったのか…ただ腕時計はわかるが、携帯電話の時計が止まってしまうのは謎だ。
持ち物は、俺と里穂姉については部活中だったため、携帯電話だけ。海斗兄と若葉は移動中だったので、学校に必要な物(教科書類など)と水筒が入っていた。
人間水さえあれば数日生きられるので、ひとまず安心だ。
持ち物等を確認した後、建物をもう一度調べてみる。
まず2階だが、海斗兄と俺で壊れた階段を登ろうとしたのだが、半分くらい登ったところで上部から崩れてしまい完全に登れなくなってしまった。
1階はというと、窓には鉄格子をはめられていて、顔を出すことは出来なかった。外は見ることができたのだが、一面原っぱが広がっており、改めてここが自分達の知らない場所だということが分かった。
場所の手がかりになるような物はなかったのだが、錆びた長い金属棒が2本見つかったので、護身用として持っていくことにした。
「この建物、外側から大きな力がかかったみたい。窓ガラスは全部内側に割れてるし、鉄製の柱が少し歪んでるし。でも、何があったんだろう……」
「里穂が分からないものは、俺達にも分からないよ。
まあ、ここで考えてもあれだし、腹も減ってきた。そろそろ外に出てみようか。」
今度は若葉の方から里穂姉にくっつく。
男勝りでいつも強気な若葉だが、実は人一倍怖がりで、甘えん坊なことは、3人とも知っている。
里穂姉はよしよしと若葉の頭を撫でた。
「鍵がかかっていないのは確認済みだ。まず、俺がドアを開けて外を確認する。それが終わったら、今度は俺と太陽で外を確認。十分安全が確認できるまでは、2人はそこから出ないこと。オッケー?」
「うん、わかった。わかちゃんは私とお留守番だね。大丈夫大丈夫。」
コクっと頷いた若葉は、俺と海斗兄の服の袖を掴み、俯きながら、
「…気をつけてね。」
と一言呟いた。
「よし、それじゃあ行くぞ。3、2、1…」
ガチャ、ギーー…
扉がゆっくりと内側に開く。もう随分と長い間開けられてなかったのだろう。
軋み音が建物中に広がる。4人の中で一番体が大きく、力もある海斗兄ですら、開けるのに苦戦している。
扉が開くと、海斗兄が顔を出して確認に入った。
1秒、2秒…15秒ほどして、俺に手招きをする。
「太陽は左を頼む。」
「了解。」
息を合わせて、同時に外に出た。
「まぶしっ!」
薄暗い建物の中にいたことで太陽の光に目が眩むが、そうも言ってはいられない。
すぐに左側を確認しなければ。
見たところ、やはり窓から見た通り一面原っぱだ。特に何か生き物がいる様子もない。
原っぱも、たんぽぽやオオバコ、クローバーなど、よく知る植物ばかりだ。
この風景だけ見れば、異世界だとは思えないのだが…
「こっちは特に危険はなさそうだよ。海斗兄、そっちは?」
「あぁ、こっちも大丈夫そうだ。よし、1回建物の周りを回ってみようか。」
それから海斗兄と一緒に建物の周りを回った。俺達が出てきた扉の正面には、小高い丘があり、その先は見えなかった。
右側と左側は原っぱが続いており、建物後方には大きな森が広がっている。
とはいえその森も、くぬぎやかしの木など、身近にある木ばかりなのだが。
「よし、一応危険はなさそうだな。里穂と若葉を呼んでこよう。」
2人とも外に出ると、同じように太陽の光に顔をしかめる。周りをぐるっと見回した後、
「私たち、どれくらい気絶してたんだろう。だって、旧校舎に駆け込んだのって、16時半ごろでしょ?」
と里穂姉が首を傾げる。確かに太陽の位置が真上であることを考えると、今は正午ごろのはず。丸1日気絶してたんだろうか…
「それにしても、見れば見るほど異世界だとは思えないな。ここにある植物、俺でも知ってるものばかりだぞ。」
「やっぱり誘拐?でも、なんでこんなところに俺達を連れてきたんだ?」
「あっ!」
今まで口をつぐんでいた若葉が急に声を上げる。びっくりして3人ともそちらを向くと、ニコニコしながら何かを持っている若葉が立っていた。
「見てみんな、四葉のクローバーだよ。」
その言葉と笑顔に音が聞こえるくらい肩から力が抜けた。四葉のクローバーって…
「急に大声出してびっくりしたぞ若葉。」
「だって、なんかドキドキが続いてたから、なんだか嬉しくなっちゃって。しかもね、いっぱい生えてるんだよ!!」
地面を注意深く見てみると、確かに四葉のクローバーがそこら中に生えている。
あれ、でもクローバーって三つ葉が普通じゃなかったっけか?
「本当ね、四葉のクローバーだらけで、むしろ三つ葉が全く生えてない。それに、よく見てみると他の植物も少し変ね。たんぽぽの葉っぱが真っ直ぐだったり…」
「確かに、なんかおかしいな。それに俺気づいたんだけど……こんなに暖かくて、植物もたくさん生えてるのに、生き物が1匹もいない。」
海斗兄の言葉に背筋が寒くなる。
本当だ。今まで気付かなかったが、こんな広い原っぱに虫一匹飛んでいない。
「うーん、これじゃあここがどこだか判断することは難しいわね。どうする?」
「じゃあさ、あそこの丘を登ってみようよ!何か見えるかもよ!」
いつもの世界のようで、いつもの世界じゃない現状に不安な気持ちでいっぱいの俺は、その気持ちを早く一掃したいという一心で提案する。
「そうだな。あそこに登れば何か見えるかもしれないし、少なくとも後ろの森よりは安全だろう。」
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