タイマンと瞬殺

 ここはダグル迷宮付近にある広間。

 ここでは、エルとラクドサスが対峙していた。

 二人の対戦をみるため、周囲に人が集まって来ている。

 その中には、シルフィアとログスとララファもいた。


「ほう、口だけかと思ったが……よく逃げずに来たな」

「こい、と言われたから来ただけだけど」

「なるほど……いい度胸だ。じゃあ、俺が勝ったらシルフィアを返してもらう」


 そう言いラクドサスはエルを睨んだ。


「傲慢だな。それを選ぶのはシルフィアだろ」

「フンッ、そんなのは知らないな。強者は、なんでも欲しいものを手に入れることができる。特にここではだが」

「なるほど……だけど、俺はそう云うのって嫌いだ」


 それを聞きラクドサスは、大笑いする。


「欲がないのか?」

「欲……いや、普通にあると思うけど」

「……」


 返って来た言葉が意外だったため、ラクドサスは何も返答できなくなった。


「えっと……どうするんだ?」

「フゥ……まあいい。お前がどう思っていても、俺のルールでやらしてもらう。それに勝つのは俺だからな」

「ああ、どっちでもいい……サッサと終わらそう」


 流石の能力を使っていないエルであっても、イライラして来ている。


「そうだな。それで、対戦のルールだけ言っておく。武器や魔法の使用は禁止、お前もその方がいいだろう」


 そう言いラクドサスは、ドヤ顔をした。


 ――いや、ラクドサス……お前がな。


 それをみてエルは、呆れて何も言えなくなる。そして、とりあえず頷いた。

 その後エルは、身構える。

 ラクドサスは、ファイティングポーズをとった。っと同時に、エルに殴りかかる。

 それを察知しエルは、素早く避ける。すかさずラクドサスの右手を掴んだ。

 するとラクドサスは、エルの腹を蹴り上げる。


「グハッ……」


 流石は最強パーティーのリーダーだ。

 エルは蹴られ後退し腹を押える。口の中を切ったらしく、ペッと血を吐いた。


(へぇー……口だけじゃないみたいだ)


 なぜかエルは、笑っている。


(なんで笑ってる? なんだ……全身を襲う寒気は……。まぁ……気のせいだよな)


 そう思いラクドサスは、エルに突進していった。

 エルはラクドサスの動きを観察している。

 そして掴まれそうになりエルは、即座に避けるとラクドサスの頭を目掛け回し蹴りをした。

 ラクドサスはその蹴りを真面に喰らい、バタンっと地面に倒れる。それは一瞬だった。

 そのため周囲でみていた者たちは、何が起きたのか分からず呆然と佇んでいる。


「ハァハァ……これで終わりか?」


 息を整えながらエルは、地面に血を流し気絶しているラクドサスを覗きみた。


(もっと楽しめるかと思ったんだけど……呆気ないな)


 エルは物足りなそうだ。

 我に返ったシルフィアとログスとララファは、ラクドサスが動かなくなったことに気づく。そして、エルのそばへと駆け寄る。


「エル……終わったの?」

「ああ、シルフィア……そうみたいだな」

「えっと……エル、やっぱり強い。あのラクドサスが一瞬で……」


 そう言いながらログスは、気絶しているラクドサスをみた。


「うん、アタシも……ビックリした。本当に強いんだね……」


 目を輝かせララファは、エルをみる。


「あーえっと……どうだろうな……ハハハ……」


 そう言われエルは苦笑した。

 周囲の者たちも我に返り、辺りには歓声が湧いている。

 そして物陰から体格のいい男が、その様子をみていた。

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