ダグル迷宮地下二階層……二体のオーパーツ①

 眠っているシルフィアのそばで、エルは座り考えていた。


(……父さんが、オーパーツの所持者だった。それで、父さんは死んで母さんが……。それを狙って、誰かが母さんと村を……。

 だけど、そもそもどこにそのオーパーツがあったんだ? 多分、俺の目の触れない所に隠してたんだろうな)


 そう思考を巡らせる。


(考えても、分からない。それに、それが分かったとしても……母さんや村のみんなが生き返るわけじゃないしな。

 それよりも、待ってる間……ここまで調べたことを報告しておくか)


 エルはそう思いバッグからプレートを取り出し、ここまで調べたダグル迷宮のことを書き込んだ。

 因みにこのプレートは、旅立つ前にカルネアからもらったあのプレートである。


(これで、いいか。でもここにくるまでの間も、色々調べて送ったよな。偶に、そんなこと送らなくてもいいって返って来たこともあったけど)


 その時のことを思い出し苦笑した。

 そして書き終えると、再びバッグに仕舞う。その後、また色々と考え始める。


 ∞✦∞✧∞✦∞


 ……――ここは、グリモエステルスが創り出した空間。辺りは夜空のように青黒く、無数の星が至る所で輝いていた。


 その中央には黒っぽい赤紫色の光球が、ホワンホワンと浮いている。

 そしてその隣では黒っぽい青の光球が、ダラダラと汗を流していた。

 黒っぽい赤紫の光球がグリモエステルスで、黒っぽい青の光球はバスターへルギアである。

 バスターへルギアはどこかに逃げる隙間がないかと探していた。


「まさか、逃げるなんて考えてないよね」

「……ま、まさか……そんなことを考えている訳がない!!」

「いや、嘘だな。儂に誤魔化しは効かない。知っているよね……それとも忘れたのか? あーそうか、君にはそういう頭が備わってなかったっけ」


 そう言いグリモエステルスは、クククッと馬鹿にしたように笑う。


「相変わらず、人を馬鹿にした物言いだな。ああ、確かに逃げようと思ったよ。だが、恐れてではない……お前と関わると面倒だからだ!」

「ほう、まあいい。話を先に進めたいのでね。流石の君でも、呼ばれた意味は分かっているよな」

「ああ、勿論だ。オレの所有者の眷属をお前の所有者へってことだよな」


 そう言われグリモエステルスは頷いた。


「そういう事だ。だがそれだけじゃない、気になったんだが……。現在、君の所持者はだれだ?」

「なんで、それを言わなきゃいけない。これと何か関係があるのか?」

「ない……と言いたいが、儂の所有者に関して気になったのでな」


 それを聞きバスターへルギアは、少し間を置き話し始める。


「そういう事か。今、シルフィアから感じ取ったが。お前の所有者は、エルムスの子供って訳か」

「そう、そして……もしかしたらと思ったんだが」

「ああ、死ぬ間際にエルムスに言われていた。エルが十八になったら、所有権をマルセから移せとな」


 バスターへルギアは重い口調でそう言った。


「やはりな……。エルは眷属ではないが、関係者の子供だ。そのためだろう……儂をみつけだした」

「そうか……だが、お前の所有者になったな。そうなると、オレはその権利を放棄しても問題ない」

「うむ、そうだね。それでだ……今の所有者が知りたい」


 そう問われバスターへルギアは不思議に思う。


「なぜそこまで知りたい? 意味が分からん」

「所有者のためって言ったら?」

「なるほど……だが、珍しいな。お前が、そこまで肩入れするとは……」


 そう言われグリモエステルスは一息吐いた。


「そうだね……でも、エルは自分を犠牲にしても復讐したいと思っている。それは、表には出していない。だが、心の奥底には……」

「そういう事か。お前は、エルに復讐して欲しいと思っている。だが……当の本人は、その気持ちを心の奥底に蓋をして理性を保ってなぁ」


 バスターへルギアがそう言うとグリモエステルスは深い溜息をつく。


「そういう事だ。儂は、嘘が嫌い」

「いや、それだけじゃないな。元々、人の魂を好物にしてきた。そんなお前が、沢山の魂を食らうことのできるこんな好機を逃す訳がない」

「……確かに、そう思うだろうな。でも、今回ばかりは……所有者のエルのことが気に入っているんでね。その意味が分かるかな?」


 そう言いながらグリモエステルスは、バスターへルギアを一周する。


「どういう事だ? あり得ん……お前が」


 そう言い放つとバスターへルギアは、深く考え始めたのだった。

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