道の歩み方

潮珱夕凪

プロローグ

 とん、とん、とん。

 三月の朝。空気を吸い込もうとするとまだ鼻の奥がつんと冷たい。青み始めた空には、綿毛を集めたような雲がぷかぷかと浮いている。この制服を着ていられるのも、片手で数えられるほどしか残っていない――そんなことが昨日の学年集会で言われていた気がする。ハンカチで顔を覆っている生徒、マイクを握りしめながら涙を声に滲ませる先生を何人見たか覚えていない。誰もが、中学校生活の最後の時間を惜しんでいるのだろう。一方の私としては、恩人が既に去ってしまった今、私はこれ以上惜しむものも何もなかった。

――大村先生がいない中学校生活なんて、あってもなくても変わらないよ

 次第に校門が見えてきて、首を大きく右に曲げると、玄関が見える。目を瞑れば、玄関前に立っている大村先生が笑いかけてくる。きっと、今の私にも「粟屋おはよう。元気?」とでも聞いてくれるのだろう。だが、当然ながら目を開けると、そこには昨日から出しっぱなしで、苔が生えかけた傘立てがあるだけだった。あの日は、もう戻ってこない。

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