第26話 魔樹の森②
夢での出来事や、白撫の論理によって俺はメンタルがやられているのを理解し、声に出すことによって何とか保っているが、俺自身が白撫の言っていることを理解してしまっていた。
実際には暴論に近いがそれを完全に否定するには、俺自身が自力で魔法(体外魔法)を使うこと、もしくは魔法、魔法の起源を解明することだ。でも後者は魔法という物的証拠がないために絶望的だと思う。また、前者も後者よりも希望があるが、現状はあまり良いとは言えない。
それらの現実を踏まえた上で、俺はなんでも良いから強くなろうと決意した。色々考えた上で白撫の言う通りになっているが、気にせずに努力していくだけだ。
「さて、ここはどこだ?」
やるべきことが大まかに決まったが、今この状況に対応することが俺のやりたいこと、いや生きるために重要だと思った。
「これは、魔樹だな。初めて見たが写真より随分小さいな」
俺はあえて声に出して、俺の中にある記憶と目の前にあるものを比較した。それをする狙いは二つあり、一つは声に出すことで記憶を整理しやすくすること、もう一つはこの森の中で自分を見失わないことだ。
「そう、俺はなぜか森に居る!」
「これって、瞬間移動?」
「いや、あの後気絶した白撫が俺をここに運んだ可能性が」
俺の中での話題は目の前にある魔樹ではなく、どうやってここに来たのかに変わっていた。そうして10分ほど自問自答していくうちにひとまずの結論が出た。
「てか、今ここでそんなの考えてる暇ないよな!」
俺は若干イラついて叫んだのは、こんな状況においても白撫が邪魔してるように思ったからだ。
「あ〜、無駄な時間だった。てかもう日が沈みそうだ! 林間学校きてサバイバルって笑えねーよ! てか火、火、火、まずは火がないと!」
そう言って俺は、焚き火の材料となる落ちている枝を薪にするために視界が悪い中、薪拾いをしにいった。
「こんだけあれば、十分でしょ!」
薪拾いの道中で見つけた良さげの場所に、俺は拾った枝を集めた。薪拾いをしていた俺だが、思ったより見つからず夜までかかってしまった。そして夜の森を徘徊していると、一際明るい場所があり、この場所が明るかったのは、月明かりが入り込んでいたからだ。
「今日ほど、月に感謝する日はないだろうな〜」
そう言いながら俺は月明かりの元で、火を起こす準備をした。
「マジで、もらっておいてよかったわ」
そう言って俺は、佐藤さんからもらった魔道具を枝の方に向ける。もちろん焦がさないように、火力を調節しなければならないが、そんなことできないために俺は俺と枝との距離で火力の強弱をつけることにした。
「散々、打たせてもらったからこれくらい夕飯前だぜ!」
そう言って俺は魔道具に魔素を送り込み、魔法を発動させて絶妙な加減で枝に火をぶつけさせた。
「よし!」
思わずガッツポーズをするが、枝は火がつくどころが焦げてさえもいなかった。
「ちょっと、火力が弱かったかな」
そう言いつつ俺は何度もやるが、ついには俺と枝との距離がほぼ0距離の時点でやってみてもダメだった。
「あ〜、何で火がつかないんだ? しまいには身体強化忘れて火傷したし」
俺は丈夫すぎる木の枝に悪戦苦闘しつつも、いつかはできると思ってやっていたが全くダメだった。火種ができないとダメと途中で気づき、魔道具と共に俺について来てくれたリュックの中から、しおりを見つけ、それを火種として使って見たがダメだった。
「火は諦めることにしよう! 夕飯にしよう!」
火がつけられず、俺のサバイバル生活は出鼻をくじかれたが夕飯としてリュックに入っていたチョコを食べた。普通の夕飯としては地味すぎるが、今までの疲れと空腹のせいか、とてもうまく感じた。疲れた頭に糖分が行き渡ると、俺は急に眠くなってきた。
「はあ〜ぁ、眠くなってきたな。寝た起きたらベットの上……ってならないかな」
ありえないことに巻き込まれて俺は、そんなありえないことばかり考えるようになり、それに縋るようになっていった。
「俺、生きれるかな?」
森に飛ばされてから何度も頭によぎった言葉だが、声に出さないことにしていた。でも夜の森に1人でいると言う孤独感からつい口を滑らせてしまった。
「言わないって決めていたのにな。もう言っちゃったよ。ほんとっ、こんなんで強くなれるのかな……」
どんどんと気持ちが落ち込み、ネガティブな発想になってくるのがわかっていたがどうしても止めることができず、俺はそれを遠ざけようと目を瞑り、寝ようとした。
「何だこの音は? 焚き火の音に聞こえる」
俺はしばらく目を瞑り寝ようとしたが、遠くの方からパチパチと音がなっているのが耳に入ってきた。気になった俺は寝ることを止めて立ち上がり、拾った枝を全てリュックにいれ、魔道具を前に構えつついつでも魔法を打てるようにしてから、音のする方向に歩を進めた。
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