第24話 林間学校⑫

「僕は、魔法が使えてこそ人であると思っているんだ。だからこそ君を含め魔法が使えない人……いや別の生物だと思っている」


「それって、差別ってことですか?」


 上げてからすぐに落とされたことに対して驚き、なんとか俺は言葉を発した。そんな白撫さんはまるでこの世の常識かのように答えた。


「差別ではないよ。ただの分類だよ。それに君も不思議だと思わないか? 人はこんな魔法って便利なものを持っているのにも関わらず、魔法よりも蒸気機関や電球などの化学が発展してることを」


 白撫さんの質問に俺は、シンプルに答えることができなかった。


「わかりません。でもそれは俺みたいに魔法が使えない、もしくは苦手な人も快適に過ごせるようになるためでは?」


「確かに、そう考えることもできるよ。でも、なんで人は魔法の能力が無くならないんだ? 人が服を着て体毛が少なくなったこととか、視力、筋力が落ちたこと、他にも色々ある。それらが無くなった理由のほとんどが、使わなくなったことだ。じゃあなぜ使わなくなったんだ? 

 ……それはそれ自体をすることが少なくなったんだ。視力は、遠くの場所を見ること、筋力は、動くこと、他にもあるがそのように人は進化してきたんだ。

 しかし魔法はどうだろう? ここ最近は使うようになったが、昔の人にとってはそこまでのものではなかった。それこそ、マッチが魔法殺しなんて呼ばれていた時代もあったんだよ。話が逸れたけど、今の世界は魔法の代替品なんていくらでもあるんだ。それでも、魔法は無くなるところが発展してきている。まるで、神様が人に魔法を忘れるのを恐れているようにね。

 だからこそ、逆説的に魔法は人であることを示していると言える。でも、そんな考えの中で君のようなものはとても歪と言える」


 白撫さんの話に俺は圧倒され、同時に俺というのは何者であるか(?)と考え始めてしまった。白撫さんはそんな俺のとはお構いなしに話を続けた。


「以上から君は人間ではないと結論付けることができたが、何か質問でもあるかな?」


 白撫さんはそう言って、先ほどと変わらない笑顔を見せたが俺にはそれがとても不気味に映った。そして何も喋らない俺に、また白撫さんは喋り始めた。


「ではそんな君にプレゼントを贈ろう。このプレゼントはきっと君とっても世界が変わるはずだ。その魔道具よりも役に立つよ」


 その瞬間、真っ白だった部屋が真っ黒に変わった。いや部屋が真っ黒に変わったと言うより、俺自身の視界が閉ざされたほうが近いかもしれない。どこを見ても真っ暗であり、その上水の中にいるような奇妙な浮遊感も感じた。俺は白撫さんからの言葉と形容したがい感覚に陥って、孤独感に襲われた。


 その状態が続き、何時間経ったかもわからなくなった頃に白撫さんの声が聞こえた。なぜだかわからないが、こんなことをしたのは間違いなく白撫さんだ。白撫さんには悪感情を抱いていたが、五感がろくに働かない中での白撫さんの声は藁にも縋る思いだった。


「白撫さん、ここから早く出してください!」


 そう言うが、白撫さんは聞く耳を持たなかった。


「まだ、1分も経ってないよ。それにここまでやちゃったら戻れはしないよ」


「じゃ、じゃあ俺どうなるんですか?」


 俺はただただ、この奇妙な空間から逃げ出したく震える声で白撫さんに聞いた。


「言ったでしょ。これは僕からのプレゼントだよ。佐藤が魔道具をプレゼントしたように、僕は環境をプレゼントしてあげるよ」


「いいから早く出してください! プレゼントとかいいですから、早く出してください!」


 俺は、ひたすらにここから出たい。


 早く出たい。


 それが頭の中を満たしていた。


 だが現実は、俺の願いを聞いてはくれなかった。


「だからさっき言ったでしょ。もう出ることはできないって」


「じゃあ、なんでこんなことを……こんなことを! するんですか!」


「君がこの世界で魔法を使って欲しくないからだよ……いや学んでほしくない。それが理由だね」


「そ、そこまで俺お゛!」


 言い終わる前に、俺は全身に強烈な痛みを感じた。全身を引っ張られたり、殴打されるような痛みを感じた。それで俺は嘔吐してしまったが、口に出た瞬間、吐瀉物の感覚がなくなった。


「そろそろだね。これで君はこの世からいなくなる。これで僕の企みは成功したと言えるかな」


 何か言い返したかったが、全身に感じる激痛によってうまく口にすることができなかった。


「最後に一言だけ、君はなぜこんなことされるかは今はわからないだろう。でもそれは君が弱かったからこうなったんだ。強ければこうはならない。そう、人間ではない君にも通じる弱肉強食ってやつさ」


 俺はどうにかして、白撫さんいや白撫に向かって叫んだ。


「ぶん殴ってやる! いつか強くなってお前をぶん殴ってやるからな」


 すると白撫は満面の笑みでこう言った。


「楽しみにしてるよ、くん♪」


 この憎たらしいセリフが、俺が意識を失う前の最後のセリフだった。


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