第5話 赤味噌と白味噌を合わせて使う家は多い





 友達……友達……。


 今日一日、布留川さんや坂本さん、古神がやたらと絡んでくるとは思っていたが、まさか俺は三人から友達と思われていたのか?


 いや、いやいや。それは無いだろう。


 今朝まで名前もろくに知らなかったんだし、いきなり友達認定とか有り得ない。


 これはあれだ。


 友達になったと思って元気に挨拶したりしたらドン引きされちゃうやつだ。


 俺はぼっち。友達のいない寂しい男。


 自分にとって都合の良い思い込みは身を滅ぼすということを忘れず、謙虚に生きなければ。



「でも……友達かぁ!! 良い響きだなぁ!! どう思う、だいふく!!」


「わふっ」



 長いようで短い学校が終わり、俺は自宅に帰って飼い犬のだいふくと庭で遊んでいた。



「おい、兄貴。もう夕飯でき……何ニヤニヤしてんだ? キモイぞ」


「べ、別にニヤニヤはしてないが!?」



 相変わらず妹が辛辣で困る。



「兄貴、もうすぐ夕飯できるんだけど、ちょっとスーパーまで行って味噌買ってきてよ。白味噌な。切れちゃってさ」


「ええ? 今からぁ?」


「嫌ならアタシは良いんだぞ。味噌汁が透明な味噌汁になるだけだから」


「それはただの汁では? まあ、分かった。だいふくの散歩がてら行ってくるかぁ」



 俺はだいふくの首輪にリードを付けて、少し離れた場所にあるスーパーまで向かう。



「あれ? かずかず?」


「え?」



 スーパーの入り口。


 その前でばったり出会ったのは、布留川さんだった。



「わー、奇遇!! もしかしてかずかずもこのスーパー使ってる感じ?」


「あー、うん、まあ。布留川さんも――」


「おっ、でっかいワンコ!!」



 人の話を聞けやい。



「わ、わふっ?」


「だいふく、俺のクラスメイトだから大丈夫だ」


「……わっふ」



 だいふくは警戒心が強い。


 俺や晶のような家族以外には、常に警戒して唸るのだが……。


 敵意や悪意のようなものを一切持たず、わしゃわしゃ撫で回してくる布留川さんに困惑しているのだろう。


 ひとしきりだいふくを撫で回した布留川さんは、その場から立ち上がる。



「よし。お待たせ、かずかず」


「あー、いや。別に待ってないよ。犬、好きなんだ?」


「というか動物が好き!! 猫も好きだし、鳥も好きだし、爬虫類も好きかな」


「は、爬虫類って、亀とか蛇とか? ちょっと意外」


「えへへ、よく言われるー」



 だいふくは店の前で待たせておく。


 スーパーの店長さん曰く「だいふくちゃんがいると売り上げが伸びる」らしい。


 お店から許可を貰っているので、問題ない。


 俺は昔からお世話になっているスーパーの自動ドアを潜った。



「布留川さん、カゴ重くない?」


「全然? あ、納豆が半額になってる!!」



 早々に白味噌を買って帰れば良いのだろうが、俺は惜しいと思った。


 だって偶然とは言え、これは友達と買い物というシチュエーションなのでは? と思ってしまったのだ。


 放課後、友達と、買い物……。


 人生で一度はやってみたかった、あの友達とお買い物である!!


 いや、まあ、向こうが俺のことを友達と思ってくれているかは分からないけどね? でも、ちょっとテンション上がる!!


 なんて感動していると、布留川さんが半額になっている納豆を見つめながら、呟くように言った。



「……納豆ってさ。最初に食べた人、めっちゃ勇気あるよね」


「え?」


「だってほら、納豆って腐ってるんだよ? それを食べるって正気じゃないよ」



 全国の納豆食べてる人に謝りなさい。


 その後も半額や割引になっている食品をカゴに放り込む布留川さん。



「あれ? かずかず、あんまりカゴに物入れてないけど、何か目的のものでも?」


「あー、白味噌。切れちゃったらしくて、妹に買ってこいって言われたんだ」


「奇遇ー!! 私の家も白味噌切れちゃって、お母さんに買ってきてーって言われたんだ。ついでに明日の食材も買ってきてって感じで」


「そうなんだ? 偶然だね」



 相槌を打つ。おお、これ凄く会話っぽい!!



「かずかずの家は白味噌派なんだねー」


「布留川さんの家は?」


「うちは両方かなー。合わせて使うこともあるし、それぞれ使うこともある」



 そんな雑談を交えながら、味噌等の調味料があるスペースにまでやってきた。


 しかし、ここでトラブル発生。



「あれっ!? 白味噌一つしかない!?」



 そう、白味噌が一つしかなかった。



「発注ミスで赤味噌しかないんだって。赤味噌は二千個あるらしい」


「うーん、困ったなぁ。――あっ」



 布留川さんが指をパチンと鳴らす。



「半分こしよう」


「え? 味噌を?」


「そう!! お金半分ずつ出せば、それでおっけーでしょ!!」



 な、なんだ、それ。なんか友達っぽいな!!



「でも、半分ってどうやって? 容器が無いよ?」


「あ、そだね……。じゃあ、今からかずかずの家に行こう!!」


「え?」


「家まで行けばタッパーとかあるでしょ?」


「そ、そりゃああるけど、え? 俺の家に来るの?」


「うん。私の家、こっから結構遠いところにあるしね」



 きゅ、急展開過ぎやしないか!?


 困惑する俺に対し、布留川さんは決定事項と言わんばかりに歩き始めた。


 ま、マジかー。いや、いやいや。何も困ることは無い。


 友達(多分)が家に来るとか、ちょっぴり緊張するだけで何も問題はない。……多分!!


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