大罪の聖女

風間 シンヤ

プロローグ1

  緑の聖樹を抱えし緑の国エメラルシア。エメラルシア王都広場にて、世界の忌むべき存在黒の魔女の処刑が行われようとしていた。


「民よ!これより!我が婚約者であり!我が国の宝である!聖女レティシアを誑かした大罪人!黒の魔女の処刑を執り行うッ!!!」


エメラルシア王国の王太子が高らに宣言すると、広場に集まった民衆達が歓喜の声を上げる。皆が「早く殺せ!殺せ!」ただ1人、エメラルシア王国の聖女レティシア・フォンティーヌは、叫ぶ民衆達を必死に押しのけ、断頭台にいる者に向かって叫ぶ。


「止めて!?止めなさい!?彼女は何も悪くない!?悪いの私よ!?だから!処刑するなら私にしなさい!?」


レティシアは必死に叫び、断頭台へと向かうとするも、広場にいた兵士達に邪魔され阻まれてしまう。故に、何度も叫んで訴えてみるも、断頭台との距離と民衆の叫びもあり、レティシアの声は断頭台にいる者に誰一人届かない。


  が、ただ1人、処刑される本人である黒の魔女マナが、ゆっくりと顔を上げ、レティシアの方を見た。その顔は、拷問官に拷問されたのか、至る所に傷や腫れが出来ており、レティシアは息を飲んだ。


  そして、マナはそんなレティシアを見て……微笑んだ。ある言葉を発して……





「マナはさぁ〜……なかなか私に愛の言葉をくれないよねぇ〜……」


「あっ……その……えっと……ごめんなさい……」


「いやいや……!?謝罪の言葉じゃなくて!『愛してる』の一言だけでいいのよ!?」


「えっと……その……ごめんなさい……」


「えっ!?まさか私!振られた!?」


「違ッ!?そうじゃなくて……!?その……私が黒の魔女だから……まだその……シアちゃんを好きになっちゃいけないんじゃないかって思っちゃって……」


「……はぁ〜……あのねぇ〜!マナ!私は黒の魔女とかそんなの関係ない!私がただ!マナを好きで愛してるの!それとも、私の言葉信じられない?」


「そ!?そんな事ないよ!?ただ……やっぱり長く染みついた黒の魔女っていう言葉は……なかなか消えてくれないから……だから……待ってて欲しい……私の中で黒の魔女という蟠りが無くなった時……必ずシアちゃんに私の気持ちを伝えるから……」





『私も……愛してる……シアちゃん』


それは、誰も聞き取る事が出来ない程小さな一言。たが、確かにレティシアの耳にはマナのその一言が入ってきたのである。


  それが、彼女が首を落とされる前に放った最後の言葉だった……


「皆!たった今!大罪人の黒の魔女の首は確かに落とした!!!」


王太子の宣言で再び民衆が歓喜の叫びを上げる。レティシアはその場に崩れ落ち、悲痛の叫びと涙を流した。


  何が聖女だ!何が紫の国の大聖女と同じ、白銀の髪色抱く最高峰の聖女だ!何が人々を導く救世の聖女になるだろうだ!


  たった1人……心から愛した人すら救えない……本当に自分のどこが聖女だというのか……


「やっぱり……この世界は醜くて汚いよ……」


愛する人の首を刎ねて民衆を扇動する、勝手に婚約者にされた王太子も、王太子から離れた席でニタニタと笑っている自分の父親も、愛する人の首を刎ねられ歓声を上げてる民衆も……

この国も……この世界も……みんな……醜く……汚い……


「…………壊してやる……こんな醜くて……汚い世界……ぶっ壊してやるッ!!!!」


レティシアがそう叫んで放った魔力が、エメラルシアを支える緑の聖樹に放たれ、聖樹は瞬時に枯れて消えた。


  これにより、歴代最高峰の聖女になるだろうと言われた聖女レティシア・フォンティーヌを生み出した緑の国エメラルシアは、聖樹が枯れて消えた事により崩壊した。

 そして、その聖樹を枯らした張本人であり、エメラルシア王国を崩壊、そこいる民達全てを惨殺した元聖女レティシア・フォンティーヌは、各国から来た聖女達によって取り押さえられた。


  こうして、聖女でありながら大罪人となったレティシア・フォンティーヌは、世界最大の監獄島に収容された。

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