四月の教室におけるあなたの居場所についての問い
渡海
以下の設問に答えよ。
四月三日 月曜日。
昇降口の廊下の窓にクラス分けの表が掲示してあった。一年生は赤、二年生は青、三年生は緑の紙で色分けされている。学年の色と一致させて視覚的に分かりやすくしているのだろう。
紙の最上段に大きな字でクラス名が書かれ、その下に生徒の姓名が縦方向に列挙している。一クラス四十人前後、掛ける一学年に六クラス、掛ける三学年。約七二十人の名前がずらっと並んでいる光景はなかなか壮観だった。
幸運にもぱっと見上げてすぐに浅野は自分の名前を発見した。浅野瑞生は、一年一組の出席番号一番だった。
赤いゴム底の真っ白なシューズを鳴らし、浅野はこれから一年間通うことになる教室に向かった。
最上階の一番奥。表示プレートの「1年1組」の文字を確認してから扉を開ける。教室の中にはまだ誰もいない。浅野が一番乗りだった。それもそのはず、始業時間までまだ一時間以上余裕があった。
小学校一年生のころから今までずっと出席番号が一番だった浅野は、一番という数字に誇りを持っていた。クラス名簿では一番上、整列をすれば先頭。一位を取ったかのようで鼻が高かった。そのため何かにつけて一番に拘るようになった。誰よりも最初に登校するのもその一つだ。
それに、誰も居ない朝の教室の、澄んだ空気を吸うのも好きだった。朝日が差し込む教室を見回す。
思い出すなぁ、この教室。
高校の入学試験。雨が降った影響で上がる不快指数。効き過ぎた暖房で朦朧とする意識。緊張による腹痛。問題用紙をめくって真っ白になった頭。震える鉛筆の先――。
――……うん、あんまり思い出したくないな。
ネガティブな記憶は頭の隅に追いやり、気持ちを切り替えて自分の席に移動する。鞄の中から荷物を取り出し、机の上に置いていく。今日は入学式がメインなので教科書の類は無く、ペンケースと入学のしおりだけだ。
「……あっ」
机の横のフックに鞄を掛けようとした拍子に、鞄の底にペンケースが当たり、床に落ちる。余計なことを思い出したせいで動揺がぶり返したのかもしれない。机の下に潜り込んで落ちたペンケースを拾い上げる。また落とさないよう、机の中に収めようとペンケースを物入れに差し込もうとすると、かさっと音がした。驚いて物入れを覗き込む。中には単語カードサイズの紙が三枚と、A4サイズの紙が重ねて入れてあった。
「……なにこれ。どういう意味?」
一番上にあった単語カードサイズの紙には、こう書かれていた。
『第1問 グループで一つの答えを探し出せ。答えの数字が示す場所に、次の問いがある。』
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