#18 シルネ

 今日はマルロスさんの所に来た。


 奴隷たちの治療だ。


 この仕事は週一程度に気の向いた時にしている。


 患者は逃げないからね。


「こんにちは」


「こんにちは。

 いつもの部屋で待っていてください」


 どうやら忙しそうだ。


 俺とレイラはいつも治療をしてる部屋に向かう。


 ソファーで密着してイチャイチャ待っていると、マルロスさんが部屋に入ってきた。


「お待たせしてすみません。

 今日観ていただきたいのはこの子達です」


 俺はリストを受け取る。


 今日は4人だ。


 診る患者は中程度の症状が多い。


 特別重症の人は滅多に治療しない。


 凄い治癒魔法が使えるやつがいると教会に気づかれやすいとマルロスさんに言われたからだ。


 だが今日の最後の1人は違った。


 彼女は身体をほとんど動かすことが出来なかった。


「おそらく、レイラと似た病だと思われます」


 金髪碧眼の美人エルフだった。


 エルフはもっと貧相な身体をしていると思っていたがバランスのとれた綺麗なスタイルをしていた。


 レイラと違い彼女の目は死んでいなかった。


「あなたを治しに来たんだ。

 診てもいいかい?」


「本当にあたしの症状を治せるのか?」


 語気もしっかりしていた。


「わからないけど、やれるだけやってみるよ」


「そうか、頼む」


 俺は彼女の背中に触れ、治癒の力を使う。


 彼女に力が流れ込んでいく。


「終わったよ」


 突然、彼女は腕を振り上げた。


 俺はその腕で叩かれそうになったがギリギリ避けれた。


 その部屋に居る皆が驚いていたが、何よりも驚いていたのは本人だった。


 目を見開いて驚いている。


「本当に……」 


 彼女は俯きながら感謝の言葉を呟いた。


「ありがとう……ありがとう……」


 だが、それに続く言葉に驚いた。


「あたしの主人になってくれないか?」







「え?」


「言葉通りの意味だ。

 奴隷になったあたしを引き取って欲しい。

 あたしはそこそこ優秀な魔法使いだから役に立つはずだ」


 奴隷からアプローチしてくることがあるんだな。


 でもよくよく考えてみれば良い主人だったら立候補したくなる気持ちもわからんでもない。


 でもなぜ俺?

 

 身体を治したから?


「なんで、俺が良いんだ?」


「あたしを治したその力について知りたい。

 あたしは魔法の研究もしているんだ」


 俺の「治癒の力」目当てか。


「この力を知ってどうするんだ?」


「どうするかはその力について理解してからじゃないとわからん」


 確かにこの力はまだ未知数だ。


 俺も詳しく知りたいと思っている。


「優秀な魔法使いだと言っていたが何ができる」


「空間収納などの特殊な魔法が扱える。

 魔導具の作成も出来る。

 新しい魔法の開発もしている」


 聞いた所、だいぶ優秀なようだ。


「優秀なのになんで奴隷になったんだ?」


「病気に罹ってしまって……」


 優秀ならその知識欲しさに引き取って貰えそうだけどな……。


 あまり突っ込むのは止めておこう。


「わかった。

 ちょっと相談する」







 俺はレイラを連れて一旦部屋を出る。


「レイラ、彼女を買っても良いかな?」


「なんでそんな事を聞くのですか、ご主人様」


「レイラが嫌ならやめておこうかなって」


「私は気にしません。

 私はご主人様に愛してさえ頂けるのでしたら何も文句はありません」


 いい子過ぎるよ、レイラ。


「俺があの人とそういう関係になっても良いの?」


「力ある男性が多数の女性を身の回りに置くのは普通のことですから」


 もうちょっと嫉妬して欲しかったな。


 それを察したのか言葉が続いた。


「……でも、私のことを一番愛してくださいね?」


「ああ、もちろん」


 俺は彼女を強く抱きしめた。







 部屋に戻り、マルロスさんに確認する。


「彼女を買ってもいいですか?」


「お支払い頂けるならどんな奴隷でもどうぞ」


 そういえば彼女の名前を聞いていない。


「君の名前は?」


「シルネだ」


「俺はヨシユキ。

 よろしく、シルネ」







 シルネを買うことにしたが、引き取るのは後日にした。


 こんな俺を受け入れてくれたレイラと今日は二人っきりで過ごしたかった。


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