#3 レイラの治癒

 とんでもない美人を手に入れる事が出来た。


 既に頭の中では紳士的な妄想が止まらない。


 だが、まずは彼女を奇病から解放してあげないと。


 人目につかない場所に移動して、彼女を治癒しよう。


 しかし、レイラはまともに歩くことが出来ず、人目を引いてしまう。


 その美貌で既に人目を引いているが……。


 なので俺は彼女を抱えて移動することになった。


 移動中、抱えている柔らかいものに意識が向いてしまうのを抑えるのに必死だった。


 街角の人通りの少ないところを見つけ、彼女を下ろす。


「レイラ、ちょっとじっとしておいて」


 彼女はコクンと頷く。


 彼女の両肩に両手を置き、目をつむる。


 病が治るイメージをする。


 すると、自分の中からレイラに向かって力が流れていくのがわかった。


 力はどんどんとレイラに流れていき、次第に力の流れが弱くなり止まった。


 完了かな?


「レイラ、立ち上がってみて?」


 レイラは商館でみたような奇怪な動きをせず、スッと立ち上がった。


 だが、彼女はまだうつむいたままだ。


「少し歩いてみて」


 彼女は少しためらった後、歩き始めた。


 彼女は一歩、二歩と歩くうちに自分に起きた変化に気づき始めた。


 歩いてと言ったのに、彼女は今走っている。


 その目には涙が溢れていた。


 そして、自分が治ったのだと理解したのか、その場に座り込み、声をあげて泣き始めた。


 俺は彼女の元に向かい、隣に一緒に座り込み、彼女の背中をさすって、落ち着くのを待った。


「ご主人様が治してくれたのですか?」


「ああ」


 ハンカチを渡す。


「ありがとうございます。

 ご主人様」


 レイラは座り込みながらも深々とお辞儀をした。


「治ってよかったな」


 そう言ってレイラの頭に手をポンと置いた。


「今後の事を話そうか」


 レイラは顔を上げ、コクンと頷く。


「俺が君を買ったのは、俺の護衛をしてもらいたいのとその……夜の相手をしてほしいからだ」


「はい、ご主人様」

 

 素直に言ったが引かれてはないようだ。


 若干、レイラの顔が赤い。


「あと、俺は世間知らずだからそこを支えてほしい」


 俺はこの世界のことがまだまだわからない。


「わかりました、ご主人様」


「元冒険者と聞いたがどれほどの強さなんだ?」


「当時、ランクは4級まで届きました、ご主人様」


 冒険者のランクを言われてもわからん。


「冒険者をよく知らないから教えてくれない?」


 そうしてレイラが冒険者について教えてくれた。


 ランクには1から6級があり、1と2がベテラン、3と4が中堅、5と6がビギナーらしい。


 護衛は一般人相手は問題ないらしいが、実力者相手では厳しいかもしれないと。


 それに彼女は身体が元に戻ったばっかりだ。


 感覚を取りも出さないといけないようだ。


 彼女は簡単な魔法を幾つか使えるが、剣が得意らしい。


「そのうち俺に稽古を付けてくれ」


 最低限ぐらい戦えるようにしておきたい。


「はい、ご主人様」


「ところでお腹は空いてる?」


「大丈夫です、ご主人様」


 ぎゅーと腹の音が聞こえた?


 レイラは顔をそらす。


「お腹空いてないの?」


「私は大丈夫です、ご主人様。

 お気になさらず」


 どう考えてもお腹空いてるよね?


「俺は奴隷を持つのが初めてだからわからないけど、奴隷としてはそのふるまいが正解なんだろうね。

 でも、俺はそういうのは嫌だな。

 嘘はつかなくていいよ」


「ご主人さまを不快にして申し訳ありません。

 なんなりと罰をお与え下さい」

 

 レイラは頭を下げて謝る。


「こんなことで罰を与えるつもりはないよ。

 気にしなくていい。

 ほら、ご飯食べに行くよ」


 頭を下げた彼女の手を引いて案内の獣人少年に教えてもらった店に向かう。







「ご主人様、奴隷の私が同じテーブルを囲うのはおかしくありませんか?」


「そうなのか?

 主人の俺が気にしていないから別にいいんじゃないか?」


 レイラは恐る恐る俺の対面に座る。


 メニューを見るが料理がわからない。


 レイラならわかるかも知れないが、遠慮しそうだし店員に聞いたほうが早いか。


 店員を呼び、おすすめを注文する。


 注文を終えて見渡すと、俺たちに視線が向いてるのに気づいた。


 正確にはレイラだ。


 確かに薄い服で大きな胸をはだけさせる美人が店内に居たら見てしまう。


 だが、レイラはそれは奴隷の自分が店内に居て不快だから見られていると判断したようだ。


「ご主人様、やはり私は外に出ています」


「それはダメだ。

 俺はレイラと一緒に食事がしたい。

 それに見られているのは奴隷だからじゃなくて、レイラが綺麗だからだろう」


「そんなことは……」

 

 彼女は戸惑っていた。


 しばらくすると料理が運ばれてきた。


「いただきます」


 こっちの世界の料理も悪くない、おいしい。


 しかし、レイラは食べようとしない。


「どうした?

 お腹が空いてるんじゃないのか?」


「食べて良いと命じられなかったので」


 そこも主人の許可がいるのか。


「食べていいぞ。

 今度からレイラの為に出された食事は確認取らずに食べていいぞ」


 毎回言うのは、めんどくさくなりそうだ。


「ありがとうございます、ご主人様」


 彼女は恐る恐る一口目を口に入れる。

 

 それが美味しいとわかったのか口の端に笑みが溢れる。


 そんな彼女をみて俺も嬉しくなる。


「普段はどんなものを食べていたんだ?」


 彼女は慌てて口の中のものを飲み込んでから答えた。


「もちろん、このように美味しいものは食べられませんでしたが、奴隷にしては良いものを食べさせてもらっていました。

 マルロス様はあんな状態の私でもしっかり面倒を見てくれました」


 マルロスさんがしっかりしてそうなのは分かる。


「食事が終わったら、生活用品を買いに行こう。

 着替えとかレイラも俺も必要だからな」


「ご主人様、私にそのようなものは必要ありません。

 今着ているもので十分です」


 レイラは今着ている、使い込まれた薄い服を指差す。


「確かに今着ている服もいいかも知れないが、俺は他の服を着ているレイラが見てみたいんだ」


「わかりました、ご主人様」


 うつむきながらそう返事をした。


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