オーンの章 ~自宅作るぞ!~
01 スローライフしたい
街を出た俺は
まだ村にいた頃、かくれんぼの時間にちょっと遠出して場所決めをしたことを思い出す。
あの頃はとにかく必死だった。
冒険に飢えていたし、村人のままでいたくはなかったから。それも今ではいい思い出……ではないな。思い出したくもない。
ちょっと嫌な気分になった俺は街から十分に離れたことを確認して、一歩空中へと踏み出す。
そう難しいことじゃない。ちょっとバランスを取るのが難しいけど、村でこっそり練習はしていた。
土に
本来、土に
でなければ当時擦り傷
そうやって、俺はその疑似大地を踏みしめ、階段状に登っていく。命綱なんてものは無いから、慎重そのものだ。
これまでに一度も失敗してないからって、これからも失敗しないとは限らない。
一歩一歩を確実に踏みしめて、ある程度の高さまで登った俺は地上を見下ろして大きくため息をついた。
「……はー」
別に初めて見る景色というわけじゃない。
けれど、完璧に自由になった俺の視界は、いつにも増して広く見える気がした。
そして、俺の視線の先には巨大な湖がある。
遥か上空から見ても点ではなく円に見えるのだから、その大きさは推して知るべし。
__その
ぶくぶくと、水中に沈む。
湖の真上まで『道』を引いた俺は、そこから飛び降りた。あとは適当に
このちょっと変わった魔法__名前がないと不便だから、アルカナから取ってルカナにするか。ぱっと思いついただけで、意味は分からんけど__は後始末する必要がほぼ無いから、楽チンでいい。
真っ直ぐに体を伸ばし、頭は下。両腕はピタリと耳の横。保険で両手を軽く堅実の魔素で覆って、着水した。
大きく沈んだ俺の体は、水中の魔素を操り上へ上へと押し上げることで上昇していく。
カナヅチではないが、泳ぎはともかく、潜りは初心者だからだ。ここで体力を使うつもりはなかった。
当然だが、湖に人に害を
水面に顔を出し、岸に辿り着いた俺はそこから湖畔へと上がる。
この陽気なら服はすぐに乾くだろう。前世みたいな湿度が高くて蒸し暑いような厳しい気候じゃないのはとても助かる。
きっと避暑地の夏はこんな感じなんだろうな。カラッと晴れて今日もいい天気だ。
といったところで、俺の目には見覚えのないものが映っていた。
どうやら古びた掘っ立て小屋のようだ。
経年劣化でガタが来ているのか、人の住んでいる気配は無いように思える。
となれば空き家か。以前来たときには見落としていたみたいだ。
それもそうか。この湖は広いし、湖畔を全て見て回ったわけでもないのだから。
俺はその周りをぐるりと回って、現状、人の気配が無さそうなことを確認した後、そこから少し離れたところに屋敷を立てることにした。
そう、屋敷だ。
いわゆる洋館や豪邸と呼ばれるそれだ。
だが、そんなクソ広い家を建てたら維持にかかるコストが
当然、人里離れた所に立てるんだから人も雇えないし雇うつもりもない。
では何故そんなデカブツを建てようと思ったのか。それにはきちんと理由がある。
かつて、俺は村人だった。それも5兄弟の末っ子。
もう、ここまでで察しのいい人は分かってしまうだろうが、村人だから子供の部屋なんぞ無いし、末で下が居ないもんだから、滅茶苦茶窮屈な思いをした。
その反動、も理由の一つではあるけど、それだけじゃない。
それは俺が子供の頃に遊び場兼考え事をするための場所に関係している。
そこはたぶんなにがしかの遺跡だったんだと思う。っていうのは、土に埋もれた廃墟、ということ以外は何も分からなかったからだ。
そこにはお決まりのように何かの像が
それからも、瞑想やら考え事やらをしていく内に、その謎パワーが体に
……もしかしたら、考え事のついでに毎日チマチマ掃除してたのが功を奏したのかも。
で、その謎パワーだが、どうやらそれはちょっと変わった魔素のようだった。
そいつは魔導士で、まぁそこそこ色々な話を聞かせてもらった。
昔は魔法を一つ一つの性質を見極めて使っていたらしいが、最近では随分と簡略化されて、多少の魔力と詠唱さえ出来れば使えなくはないとか。
まぁ、そんな話は置いといて、その魔素はその像から
当時からそこそこ魔素が見えていた俺はその性質を色々と試した結果、大体、その性質が見えて来たわけだ。
どうやらその性質というのが『保存』らしい。
だから作ったものにこの魔素を定着してやれば、新品同様のままずっと使える。
その上、この俺の体に定着したと思われる魔素は、体内の魔力から作り出すことができてしまうのだ。
これはもう、建てるしかなかろうよ。めっちゃでっかいのを。
大は小を兼ねると言うし、何に使うかは作ってから決めよう。そうしよう。
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