第291話 女神の世界
私たちの意識が沈む。
ロートント男爵に取りついた呪いというのはそのくらいに強力なものだった。
私、エスカ、ミズーナ王女、それに聖女であるサキ。この四人がかりでもギリギリ釣り合いくらいの力だったのだから。
しかし、一体ここはどこだというのだろうか。周りは真っ白で何も見えない。
ただよく見ると、エスカ、ミズーナ王女、サキの姿が見える。どうやら私たち四人だけがこの空間に居るようだった。しかし、目を覚ましたのは私だけのせいか、他の三人はぴくりとも動いていなかった。
私は一人だけその場から起き上がると、倒れ込む三人向かって歩き出す。しかし、普通に歩いているはずが、この空間の中では不思議な感覚に陥ってしまう。まっすぐ歩いている感じがしないのだ。
(な、何なのよ、この感覚……。うう、なんだか気持ち悪い……)
私は吐き気を押さえながら、どうにかサキの元にたどり着いた。
そして、座り込んでサキの体をゆする。
「サキ様、サキ様、目を覚まして下さい」
しかし、サキは反応を示さない。ぺちぺちと頬をいくら叩いても反応がなかった。とはいえ、呼吸をしている様子があるので、生きてはいるようだった。
仕方ないので、私はサキを抱えてミズーナ王女の方へと移動していく。
それにしても、改めてここはどこなのだろうか。
どうにかミズーナ王女のところまで移動した私は、周りを見回す。本当に気の遠くなるくらいな真っ白の空間だ。もうなんていうか吐きそうな感じになってくる。
「うーん……、あたたたた……」
私が座り込んで頭をぐるぐるとさせていると、エスカが目を覚ましていた。
「な、なによここ! 何で真っ白な空間に居るわけ? まさか……死んだの?」
エスカは取り乱している。
その気持ちはとても分かるというものだ。目を覚ましたら真っ白の空間に四人だけで放り出されているのだから。
でも、私は不思議と死んだという感覚を抱かなかった。気持ち悪いのは事実なんだけど、それと同時に妙な安心感すら抱いたのだから。
『目を覚ましましたか、世界に愛されし者たちよ……』
突如、どこからともなく声が聞こえてくる。
その声が響くと同時に、目を覚まさなかったサキとミズーナ王女も目を覚まして勢いよく体を起こしていた。
「あう……」
しかし、当然ながら急に起き上がった事で目眩を起こしていた。立ち上がってはいないけれど立ち眩みだった。
「ああ、よかった。二人も目を覚ましたのね」
「アンマリア、ここは一体どこなの?」
「……私にも分からないわ」
ミズーナ王女の問い掛けに、私は顔を逸らしながら答える。
『ここは、私の世界です。愛し子たちよ』
また声が響き渡る。愛し子というのは一体どういう事なのだろうか。
『急にお呼び立てして申し訳ありません。私はこの世界の神の一人です。世界では女神という風に認識されている存在です』
「女神……様?」
この声に反応したのはサキだった。サキだけはこの世界の住民だから、よく知っているわけである。
まあもちろん、私たちだって知らないわけじゃないけれど。どれだけこの世界の事を勉強させられたと思ってるのよ。それでも、異世界からやって来たせいで、いまいち信じられなかったといったところかしら。
『いろいろと思うところはあるでしょうが、今は私に事情を説明させてもらえませんか?』
どうも私たちの思考を読んでいるらしく、断りを入れてくる女神である。聞くだけなら問題ないので、聞く事にしましょうか。
『ありがとうございます。それでは、あの男に巣食っていた魔王の力について説明させて頂きます』
うん、思考を読んでいるのは間違いない。何も答えていないのに話が進んでいく。
女神と名乗る存在の説明によれば、世界のあちこちに魔王の力の断片が散らばっているらしい。
今回ロートント男爵が使ったブローチもそういう断片の一つなのだそうだ。これは鑑定魔法ではっきりしていたけれどね。
それが、最近になって魔王の復活を目論む動きが活発化しているらしい。そのために、異世界からの清らかな魂を呼び寄せたり、聖女を生み出したりして備えているというわけなのだそうだ。
つまり、私たちは女神によって選ばれた存在という事らしい。いまいち信じられない話だわね。
ところが、今回のロートント男爵の一件で、私たちの力が不足していると分かったがために、こうして自分の領域に呼び寄せた。それが今回のこの事態というわけなのだそうだ。
『世界を恩恵で満たして魔王の力を弱めようと思ったのですが、かなり不足してしまっているようです。目に見える形で溜め込もうとしたのですが、こうもあっさりと吐き出してしまうとは予想外でした』
あっ、これって、私やミズーナ王女が太った原因って女神のせいなわけか。なるほど、魔王の力を封じるために恩恵を集めて一気に浄化しようとしたわけか。
でも、女性にとって太っているってかなり問題なのよね。私たちがダイエットに走った結果、恩恵の力が足りなかったわけなのね。そういう事ならもっとしっかり説明してほしかったわね。
『それは弁解のしようもありません、すみませんでした』
女神が謝罪してきた。本当に人の思考を完全に読み取ってるわ。
それにしても、本格的に魔王の話が出てきてしまい、ただの乙女ゲームの世界と思っていたのに方向性が怪しくなってきてしまった。
一体私たちはどうなってしまうというのだろうか。
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