第289話 呪いとの対峙

 正直、私の父親はロートント男爵と私たちを引き合わせる事には消極的だった。ただ、呪いの事が事実であるのなら、この男には元に戻って欲しいという思いを抱いたのである。そもそもロートント男爵はかなり優秀な部下だったので、父親としては惜しいというわけである。

 前日、ロートント男爵と出会う場所は城の中だと父親から告げられた私たち。単純にロートント男爵が父親の部下として城の中で働いているからそうなったらしい。私たちも城には出入りしやすいというのもあるだろう。

 そんなわけで、学園での授業が終わった私たちは、私とエスカの瞬間移動魔法で……と思ったけれど、余計な魔力の消費を避けるために馬車でお城へと向かった。モモには悪いけれど、一人で帰ってもらう事になった。前日の夜に説明はされてたし、今回はモモはしっかり納得してくれた。

 私たちは馬車でお城へと向かう。ミズーナ王女と一緒の馬車に乗り込んだ私たちだったけれど、みんな黙り込んでいて馬車の中は重苦しい状態だった。ここまでの経験上、この呪いには散々苦しめられてきたので、ロートント男爵が本当に呪いに掛かっていたのなら相当に厳しい展開になるのは間違いなかったからだ。気軽に会話なんてできるわけがなかった。

(呪いだというのなら、必ず解いてあげますからね)

 私たちは強い決意を秘めて、馬車に揺られながら城へとたどり着いたのだった。


 城の中を、兵士の案内で進んでいく私たち。

 やって来たのは城の中にある会議室だった。

「ファッティ伯爵殿よりお話は伺っております。どうかお気を付け下さい」

「……ありがとうございます」

 部屋に入る前に気遣いを受けた私は、言葉を掛けてきた兵士にお礼を言う。そして、ひと呼吸してから会議室の中へと入っていった。

 部屋の中では父親とロートント男爵の二人が待っていた。父親は思い詰めたような顔をしているし、ロートント男爵はかなり怖い顔をしている。父親に対していい感情を持っていないようだし、なによりもこけ落ちた顔がもうミイラのようで怖いったらありゃしないのよ。

 これは私と同じ転生者であるエスカとミズーナ王女も同じだし、この世界の住民であるサキですら同じように感じたみたいだった。うん、怖すぎる……。

「……なんだ、小娘どもを呼んで一体何をするつもりだ? 説明してくれ、ファッティ伯爵」

 ロートント男爵は父親を睨み付けながら言う。顔のこけ落ち具合からして、かなりの迫力である。

 だけど、父親は怯まなかった。

「悪いな、ロートント。しばらくはじっとしていてくれ」

「なんだと?」

 父親はロートント男爵を後ろから羽交い絞めにする。そして、私たちに対して叫ぶ。

「マリー、こいつを早く浄化してくれ」

「何をする、ファッティ伯爵!」

 バタバタと暴れるロートント男爵。体は痩せているというのに、父親が振りほどかれそうなくらいな勢いで暴れている。

「早く、してくれ! 思ったより力が強い!」

 限界と言わんばかりに叫ぶ父親。私たちはこれに呼応するように、浄化の魔法を使い始める。

 転生者三人分の浄化魔法を掛けられて、ロートント男爵が苦しみ始める。浄化魔法は本来人間には害がない。苦しむという事は、呪いを受けているかそれに準じた存在であるかのどちらかという事になるのよ。

「サキ様もお願いします。私たちの浄化魔法では、動きを封じられても完全な浄化はできませんから!」

「わ、分かりました!」

 私の声に応えて、サキもロートント男爵に向けて浄化魔法を使う。すると、ロートント男爵はより一層の叫び声を上げていた。

 さすがは聖女の浄化魔法。私たちの浄化魔法とは比べ物にならない力を持っていた。

 それにしても、夏休みの合宿の時よりも強力になってないかしらね。

「ぐわああっ!」

 苦痛の声を上げるロートント男爵。これには思わずサキは力を緩めてしまいそうになる。

「ダメですわよ、サキ。あれはロートント男爵ではなく取り付いている呪いの声。緩めてしまえば呪いを祓う事はできません」

 ミズーナ王女が注意をする。その声に、サキはぐっと堪えて浄化の魔法を使い続ける。

 声を上げて暴れるロートント男爵。それを必死に押さえる父親。浄化の魔法を使い続ける私たち。全員が必死になっている。

「オノレ……、コノオレヲ、ハラウツモリ、カ……!」

 突如として響き渡る重い声。それは、明らかに先程までのロートント男爵の声ではなかった。

「出ましたね。呪いの本性……!」

 エスカが叫ぶ。それを受けて、私たちはさらに浄化の魔法に魔力を注いで行く。

「グオオオ! コノテイドデ、オレヲ、ハラエルト、オモウノカ?!」

 それ抵抗するように、ロートント男爵の体からどす黒い魔力が放たれていく。

「お父様、ロートント男爵から離れて下さい!」

「分かった! 任せたぞ、マリー!」

 危険を察知した私は、父親に対して叫ぶ。それを受けて、父親は羽交い絞めを解いて、ロートント男爵から素早く離れた。

 それと同時に、私はロートント男爵の体を取り巻くように防護壁を展開させる。自由を許してなるものですか!

 いよいよ本格的にロートント男爵に取りついた呪いとの戦いが始まる。

 呪い一体に対して私たちは四人がかり。それでも状況は均衡している。

 はたして、私たちは無事にロートント男爵の呪いを解く事はできるのだろうか。

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