第六章 2年目後半
第287話 ミズーナ王女の調査報告
2年生の後半が始まった。
父親から進捗を聞かされたけど、呪具の調査は思ったより進んでいないらしい。
ロートント男爵はますます機嫌悪そうにしていて人付き合いが悪いそうだ。なにせ、父親が話しけようと部屋に顔を出しただけで怒鳴りちらすくらいらしい。まったくどういう事なのかしら。
ただ、父親の見た感じでは、ますますロートント男爵は痩せてきている上に頬がこけ落ちたり、目の周りにクマがあったりと、心配になる姿になっているそうな。これは何かやばくない?
昔は人付き合いもよくて、テールに対しても優しかったというのだから、変わってしまった事に対して、何か引っ掛かりを覚えてしまう。
「アンマリア・ファッティ。どうしたのですか?」
「ふえっ?!」
しまった、今は授業中だった。ロートント男爵の状況を聞かされた私は、つい授業中だというのに上の空になってしまっていた。いけないいけない、ちゃんとTPOを弁えないと……。
それにしても、ずいぶんと間抜けな声を出してしまったわね。周りはもすごく複雑な表情をしていた。私が王子の婚約者であるために、笑うに笑えなかったのだわね、きっと。
その日の昼休み、私はいつものように魔法型の面々に加えて、サクラや王女たちと一緒に食事をする事になった。
いつもの面々だけなら普段通りだけど、やっぱりエスカとミズーナ王女が居るのは場の空気がかなり違った。なんというか、重い。
「おほほ、私たちは同じ学生です。学園の中ならあまり身分を気になさらないで下さいませ」
ミズーナ王女はこう言うものの、みんなそれなりに牽制し合ってしまって、言葉が出てこない。まったくどうしたものかしらね。
「誰も話さないのでしたら、私から話題を振りましょう」
見かねたミズーナ王女が私の方を見る。
「テールさんの様子はどうでしょうか、アンマリア、エスカ」
ここで私たちにテールの話題を振ってきたミズーナ王女。その表情はいたってにこやかだ。
「ここのところは安定していますね。状況がゆえに家から出られませんので、少々退屈されているようですけれど」
「そうですか……」
私の答えに、ミズーナ王女はそうとだけ呟いて紅茶を飲んでいる。
「みなさんでしたら信用できますので、少しお話させて頂きますね」
そして、急に表情を引き締めると、辺りの空気が一変した。何が始まるのか、私たちはつい息を飲んでしまう。
ごくりと息を飲む中、ミズーナ王女は話し始めた。
「実は、ミール王国での一件以降、本国と連絡を取りまして調査を始めました」
「ああ、あの魔物の襲撃の件ね」
「はい。魔物の数を見ても異常だという感想を頂きましたので、気になって依頼を出したのです」
ミズーナ王女は真剣な表情で淡々と語っている。
「そもそも、フィレン殿下の誕生日パーティーの時から怪しく思っていたのですが、すぐにミール王国へ行かねばならず、調査の開始が遅れてしまったのですよね。あの時に指示を出しておけば、もう少し情報が入ったと思うのですが……」
とても悔しそうな表情をするミズーナ王女である。
「それで、何か分かりましたのですか?」
ラムがミズーナ王女に問い掛ける。すると、ミズーナ王女は無言で頷いた。
「どうやら、我が国の隠密部隊が関わっているみたいです。一部の者が怪しい動きをしているとの報告がありました」
「何ですって?!」
ミズーナ王女の報告に、思わず声を荒げてしまうエスカである。思わず人差し指を建てて唇に当てる私とミズーナ王女だった。
「あ、ごめんなさい」
エスカは素直に謝った。
それにしても、ベジタリウス王国の隠密部隊が関わっている疑いとは、正直予想外なものだった。この件はサーロイン王家にもすでに伝えられている模様。両国の間に協力して調査が始まったらしい。まったく、実に面倒な話である。
「呪具の事も、本国で確認してもらったら、見覚えのあるものだったようです。という事は、あの呪具の入手経路として、ベジタリウス王国から流れたという可能性が出てきたのですよ」
実に衝撃的な新事実だった。確定事項ではないとはいえ、ベジタリウス王国の者が危険な物をサーロイン王国に流してきたのだから。これは由々しき事態である。
「相手は隠密の者ゆえに、姿を変えて入国している可能性はあります。それこそ商人だったり冒険者であったり、形は様々です。あまり考えたくはありませんが、もしかしたら、この学園にも潜入している可能性だって否定できないのですよ」
「……それは困った話ですわね」
ミズーナ王女の話に、ラムは困った顔をしていた。
「それだけではありません。ベジタリウス王国の記録によれば、あの呪具はその身から離れても呪いで持ち主を蝕み続けるようです。テールさんは浄化をしたのでまずは安心でしょうけれど、問題はその父親の方でしょうね」
「ロートント男爵が危ないと?」
話の内容に対して私が確認を取ると、ミズーナ王女はこくりと頷いていた。
「あの呪具の呪いは強力で、記録によれば持ち主は手に入れた時から精神を蝕まれ、最終的には衰弱死をしたようです。となると、そのロートント男爵は危険な状態にあると見てもいいでしょう。このまま放っておけば、多くの情報が闇に葬られかねません」
ミズーナ王女の話に、私たちはざわつくしかなった。それくらいにとんでもない話だったのだから。
これは急がなければならない。確実な焦りが湧き上がってきたのだった。
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