第283話 ロートントに残るもの

 警戒していた襲撃もなくて、無事何事もなくリブロ王子の誕生日パーティーは終わった。フィレン王子の時の事を思えば拍子抜けだけど、何も起きないというのはありがたい話だった。なにせここのところいろいろあり過ぎて心が結構疲れているから助かった。

 でも、リブロ王子とのダンスは結構緊張したわね。痩せてきて釣り合いが取れるようになってきたとはいえ、婚約者だからって当たり前のように踊らされるんだもの。

 リブロ王子は魔力循環不全から完全に回復したみたいで、踊りはすごくスムーズだった。リードもしっかりできていたし、さすがは隠し攻略キャラたるハイスペックだわ。とりあえずはひと安心って事で、私はパーティーが終わるとさっさと引き上げたのだった。

 王子の婚約者なのだから最後まで居るべきだったのだろうけれど、父親が「ロートントと同じ空気は吸いたくない」と言い出したので、やむを得ない判断だったのよね。帰る時にちゃんと王族たちには挨拶をしたから、まあ問題はないよね。


 家に戻ってきた私は、モモとエスカと共に真っ先にテールの様子を見に来た。

「スーラ、ネス。テール様の様子はどうだったかしら」

「これはお帰りなさいませ、アンマリアお嬢様」

 私に気が付いたスーラが挨拶をしてくる。

「ネス、テール様のお相手をお願いします」

「分かりました」

 ネスに対してお願いをするスーラは、すすっと私の方へと寄ってきた。

「アンマリアお嬢様、テール様の事で少々お話が」

 私に近付いてきたスーラが、まるで耳打ちするかのように話し掛けてきた。一瞬どきりとしたものの、一体どうしたというのだろうか。

「分かりました。ちょっと部屋を変えましょうか」

 私がその様に言うと、スーラはこくりと頷いて私の部屋へと移動した。

 私の部屋に入ると、私はとりあえず椅子に腰掛ける。そして、ひとつ深呼吸をしてからスーラの報告を聞き始めた。

「テール様は実に落ち着いた様子で過ごされていました。ただ、ちょっと気になる事がございましたね」

 報告を始めたスーラはちょっと引っ掛かった事があると話している。どういう事なのか、私は確認を取る。

「テール様が途中、急に頭を押さえる仕草をされたのです。あまりに急な事でしたので、ちょっと引っ掛かりを覚えましたので、ご報告しているまででございます。判断はアンマリアお嬢様にお任せ致します」

 スラーは報告をそのように締めていた。

 急に痛がるような表情で頭を押さえたというスーラからの報告。これには私もちょっと違和感を覚えた。

(ただの頭痛ではないかも知れないわね。ちょっと後で見させてもらいましょうか)

 報告を聞き終えた私は、ひと息つくために紅茶を所望したのだった。


 ひと息ついたところで、私は再びテールの元を訪れる。そのテールの相手をエスカがしていて、テールは落ち着いた状態になっていたようだ。男爵令嬢が落ち着ける王女とは一体?

 それはともかくとして、私はテールに声を掛ける。

「テール様、ちょっとよろしいでしょうか」

「えと、アンマリア様……。一体何でしょうか」

 私の声に、テールがなぜか怖がっている。なんで王女の方が気楽に対応できているのか分からないわね……。そいつ、隣国の王女様よ?

 文句は言いたいところだけど、私はぐっと飲み込んだ。それよりも本題である。

「あれから経過観察をしてきましたが、改めて状態を診させて頂きますね。鑑定魔法を使えば一発ですので、そのままじっとしていて下さい」

「わ、分かりました」

 なぜか体を強張らせるテール。なんで私相手だとそこまで警戒するか分からない。

 正直文句のひとつも言いたい反応ではあるものの、私は大人げなくはないので黙ってテールに対して鑑定魔法を使った。

(うーん、鑑定魔法自体には異状なしって出てくるわね。とはいえ、突然襲ってくる頭痛というのは気になるわ。もうちょっと魔力を消耗して精密検査をしてみましょうかね)

 そう考えて、私は魔力をちょっと強めに消耗して、鑑定魔法を改めてテールに対して使う。

 その次の瞬間だった!


 バチン!


 テールと私の手との間で、大きく私の魔力が弾かれた。

「痛っ!」

 あまりの衝撃に、私とテールの双方がダメージを受けてしまう。

「アンマリア!?」

「アンマリア様?!」

 同じ部屋に居たエスカとスーラが慌てて私に駆け寄ってくる。

「テールも大丈夫だった?」

 エスカは続けてテールの事を気遣っている。

「はい、大丈夫です。魔力が弾けたのに少々驚いただけですので……」

 テールは大丈夫だというので、エスカと私はちょっと安心した。

「それにしても、最初の鑑定魔法を普通に使えたのに、ちょっと詳しく見ようとしたら弾くなんて……。テール様、何か身に覚えは?」

「も、申し訳ありません。心当たりは……ないです」

 テールは怯えながら私の質問に答えていた。

 しかし、テールに関係した何かが私の魔力を弾いたのは事実だ。詳しくは調べてみたいものの、さすがにもう時間が遅い。これは日を改めて検討した方がよいと思わる。

「……仕方ありませんね。テール様、何か違和感があるようでしたら、すぐさま私たちに相談しして下さい。いいですね?」

「はい、分かりました」

 テールはよく分からない現象に怯えながら頷いていた。

 ……ロートント男爵周りの問題は、簡単には解決できなさそうだった。

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