第8話 薬、ダメ、絶対

 ゲームは簡単なモノローグから始まり、学園の入学式当日から始まる。そして、入学から3日間はオープニングイベントがあり、ここで最初の四択がある。これによって、最初の攻略対象との出会いイベントが発生するのだ。まあ、120kgのアンマリアは大抵周りから笑われるのだけど、攻略対処に限っては、一名を除き笑う事はなかった。誰が笑ったかなんて、言わなくても分かるでしょうね。

 で、ゲーム本編はというと、さすがは日本で作られたゲームらしいと言える。一週間は7日間となっていて、月曜~土曜は育成をして、日曜日はお休みというパターンとなっている。この一週間を1ターンとして、一ヶ月を4ターン、一年はその12倍の48ターンという風に設定されている。ちなみに1ターンで行える行動はひとつで、その種類によって様々なパラメータが変動するのだ。

 行動の種類は「勉強」「運動」「武術訓練」「魔法訓練」「お出かけ」「休息」の6種類がある。

 勉強と魔法訓練は魔法力と賢さが上がるものの、体重の減少はわずか。後者ほど効果は高いけれど、最初のうちは失敗しやすい。

 運動と武術訓練は耐久力と腕力が上がって、体重もかなり減る。ただ、体力もかなり減るので、続け過ぎると病気やケガになりやすくなる。これも後者の効果は高いが、同様に失敗しやすい。

 お出かけは攻略対象やライバル令嬢を誘って王都へのお出かけよ。好感度を上げられるのはこの行動がメイン。ただ、年に2回ある長期休暇4ターン(計8ターン)は、進め方次第で特殊イベントが発生する事があるので注意。

 休息はそのままの意味で、特に何も行動しない。効果としては、消耗した体力が戻るついでに体重も少し増加する。

 日曜日は強制的に「お出かけ」と「休息」の2つしか選べないが、それも確率ながらも攻略対象やライバル令嬢、家族が出てきてイベントで潰されるから、日曜を体力回復に充てている場合は要注意よ。

 育成に使えるのは単純計算で40ターン×3=120ターンという事になるけれど、実際は学園祭とかテストとかでもう少し減るわよ。

 とまぁ、ゲーム中の流れはこんなものかしら。

 それで、この中でもお出かけを選んだ場合は、二年目かつ体重が一定以上ある場合には特殊イベントが発生して、体重を落とすためのドーピングアイテムが手に入る。これを使用すると、通常の2.5倍で体重を減らす事ができるけれど、その分のリスクも存在しているの。

 それの対象がフィレン王子。三年目にドーピングアイテムを使った状態でフィレン王子ルートに入ると、彼と出会うと常に三択が発生するわ。その選択肢、2つは断罪ポイントというものが増えていく罠が待ち構えていて、それが一定値以上溜まるとエンディングを前にサキ・テトリバーからの指摘で断罪されてしまうのよね。この時のポイント次第で、幽閉、国外追放、修道院、処刑とマルチバッドエンディングになってしまうのよ。これがフィレン王子が鬼畜王子と呼ばれた原因の一つね。本当にシャレにならない。本当、世の中甘い話ばかりじゃないわね。

 それと100kgオーバーは、隠しキャラであるリブロ王子以外は誰も攻略できずにノーマルエンド。好感度不足による未達の場合も、ライバル令嬢と仲良くなってたりといろんなエンディングがあったわね。そういった情報だけは出回っていて、ゲーム本体はそれほど売れていないのに、イラストがネットに溢れかえっていた原因になってるのよね。


 私がゲーム内容をまとめた頃には、もう朝になっていた。まさか徹夜になってしまうなんて思ってもみなかった。

「ふあああ~~、さすがに眠いわね」

 前世のゲームの事を思い出しながらひと晩過ごした事で、私の気分はだいぶ紛れていた。というわけで、私はベッドから抜け出すと、ゲーム内容をまとめたを机の引き出しにしまう。そして、スーラを探しに部屋の扉を開けた。

「……スーラ!」

「あ、お、お嬢様あっ!」

 なんとまぁ、スーラは私の部屋の前ですでに待機していた。いや、よく見るとシーツが落ちている。ひと晩部屋の前で過ごしたらしい。

「スーラ、もしかして、ひと晩中そこに居たの?」

 私は落ちているシーツを見ながら、スーラに問い掛ける。そしたら、スーラはゆっくりと視線を逸らしながら、

「い、いえ。そんな事はございません……よ」

 しどろもどろに答えていた。うん、これは間違いなく居たわね。もしかしたら私の独り言を聞かれていたかも知れないわね。それだったら私もちょっときついかな。

「そ、それよりもお嬢様。ご機嫌はもうよろしいのですか?」

「ええ、ひと晩ふて腐れれば、もうそれで吹っ切れました。心配は要りませんよ」

 今にも泣きそうな顔をしているスーラに、私は笑顔を向ける。そしたらスーラはやっと安心したように胸を撫で下ろしていた。

「それでお嬢様。お食事などはどうなされますか?」

「お父様はああ言っておられるけれど、太れは相手が男性であれ女性であれ失礼千万です。私の食事はいつもの通りでお願いするわ」

「畏まりました。料理長にそう伝えておきます」

 食事の内容について確認したスーラは、そのままパタパタと走っていった。

「さて、私は改めて寝ましょうかね。食事は作られるだろうから、それを食べたら寝ましょう」

 私はあくびをしながら、部屋の中へと戻っていく。そうしたら、私はそのまま寝落ちしてしまったようで、目が覚めたら夕方でしたわ。おほほほほほ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る