第7話 こうなったら流れに乗るしかない
「はああああああぁぁぁぁぁぁ……」
家に戻った私は、盛大なため息を吐いている。
なぜかって? 実の父親から「絶対痩せるな!」と言われたのだ。乙女にそれって死刑宣告も同然よ?
というわけで、私は絶賛ふて腐れ中なのだ。父親どころか、侍女のスーラですら部屋には入れさせない。そのくらいにショックは大きいのよ。ベッドにうつぶせに倒れ込むと、ベッドの上で足をばたばたとさせた。
しばらくの間そうしていた私だったけど、さすがに疲れてくるりと仰向けになる。
(こうなって来たら、本当は嫌だったけれど、ゲームのおさらいをしておくかな)
というわけで私は、ご飯そっちのけで『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』の各シナリオを思い出して書き出す事にした。何と言っても、このゲームはヒロインが死ぬバッドエンドがあるのである。そのポイントを忘れてしまってはいけないのだ。せっかくなら寿命まで楽しく生きたいじゃないの。
この乙女ゲーム『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』は、私こと『アンマリア・ファッティ』が痩せながら攻略対象と恋仲になるという恋愛シミュレーションゲームだ。
この手のゲームとしては珍しく、攻略対象は4+1という少なさを誇る。ただ、エンディングの種類は豊富なので、これはこれでやり込めるというものだ。
ただ、このゲームで特徴的なのは、タイトルからも分かる通り、体重がカギを握っているのである。アンマリアのスタート時点での体重は120kg。これを減らしながら攻略対象を落としていくのである。つまり脂肪と心を落とすというゲームなのだ。
攻略対象の一人目は、王道の王太子。サーロイン王国の第一王子であるフィレン・サーロインだ。この時にライバルとなるのは、サキ・テトリバー男爵令嬢。洗礼式で一番目立った恩恵を受けていた彼女だ。
ちなみにこのフィレンの攻略可能体重は55kg以下という最軽量ゾーン。ちなみにどんなに頑張っても40kgまでしか落とせない。まぁリアルでも痩せすぎはかえって危険だから仕方がない。
二人目は、タン・ミノレバー男爵令息。家は代々王国の騎士という根っからの脳筋お坊ちゃまだ。この時のライバルは、サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢。こっちも脳筋の家系で、サクラも例に漏れず脳筋である。脳筋同士が結婚して家は大丈夫なのか気になるところである。まぁきっと、力こそパワーってやつで乗り切るのかもね。
攻略可能体重は55~70kg。筋肉が増えるから二人とも痩せているのに体重はあるのである。しかし、サクラはこの年齢ですでに腕が筋肉バッキバキだったのは驚いたわね。
三人目は、タカー・ブロック侯爵令息。こちらは国の中枢を担う重役を代々輩出してきた分かりやすい文官の家系だ。彼の時のライバルはモモ・ハーツ子爵令嬢。私ことアンマリアの友人の一人で、実はもう何度か会っている。
攻略可能体重は70~85kgと重め。二人目のタンと同じで、攻略方針は分かりやすいので、問題は体重調整だけという攻略のしやすさではトップクラスだ。なにせライバルのモモはお邪魔虫ではなく、ルートが確定すると応援に回ってくれるから心強い味方なのだから。
最初から攻略できる四人目は、カービル・バラロース伯爵令息。バラロー『ズ』じゃなくてバラロー『ス』。可もなく不可もなく、文官から商家までこなせる幅広い才能の持ち主。ライバルは洗礼式で私と一緒に体格で目立っていたラム・マートン公爵令嬢。
実はカービルは大変なママっ子で、その母親がふくよかだった事からデブ専という特徴がある。だが、太っていればいいというものではなく、体重の範囲は85~100kgである。だが、体重では楽だが、タカーのように賢さに振っていればいいというわけではない。なにせライバルが公爵令嬢であり、唯一の婚約者関係にあるからだ。その家同士の約束事をひっくり返すので、攻略難易度は高めなのである。まあ、
で、隠しキャラはフィレン殿下の弟であるリブロ・サーロイン第二王子。1歳年下なので、出てくるのはゲームの二年目に入ってからで、他のキャラと同じように三年目は個別ルートに入るので、実質攻略に費やせるのは二年目の一年間だけである。体重は問わないし、ライバル令嬢は居ないけれど、最大の問題はその遭遇率の悪さ。とにかく会わない。学年が1個違うだけでなんでこんなに会わないの。ただ、フィレン絡みのイベントでは高確率で会えるので、それが救いだったかしらね。
「ふぅ、攻略対象とライバル令嬢の基本情報はこんなところかしら。三年目に入ると固定ルートになっちゃうから、そこまでの二年間で狙う相手に見合った体重にならなきゃね」
この時点でカービル・バラロースだけが将来の相手から消えた。順調にいけば、このあと10歳の時点で婚約者となるはずである。邪魔する気なんてないからそのまま放っておきましょう。
「お父様は私の恩恵から言って、おそらくは王太子妃の座を狙わせるはず。だったらやっぱりフィレン様かしらね。それか、ライバルが居ないリブロ様かなぁ。私は面食いじゃないから、顔だけで選ぶような真似はしたくないわね」
私はあれこれ考えながら、時間を忘れてそのままゲームのまとめを続けるのだった。
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