キミは特別

choco

1

 中学三年の秋に行われる文化祭で、手塚虎男のクラスは演劇をすることになった。

 何かの演目のパロディをみんなで作るということになって、教室が騒がしくなった。

 実行委員が、脚本を書いてくれる人を募集している。

 突然、前の席に座っていた赤塚麗也が振り向いた。

「手塚って、作文とか得意じゃん? 脚本、書いてみたら」

 にっこり笑って言う、麗也の顔にノックアウトされてしまった。

 

 それ以前は、やたら顔の良い男がいるな。くらいにしか思っていなかった。

 たまたまこの秋に席が変わったばかりで、麗也と話したのは、これが初めてだった。

 それから、なんとなく、話すようになって、気が付いたら一番仲の良い友達になってた。

 そして、俺は、心の中で、麗也を守る騎士になっていた。

 初恋は、こんな感じで始まった……。


 高校の入学式、教室に向かう廊下で、後ろから麗也に声をかけられた。

「虎男、クラスなに? おれ二組」

 麗也の隣には、見たことない男が立っていて、手塚にペコリと頭を下げた。それにつられて、手塚も頭を下げる。

「ああ、さっき友達になったんだ……えっと……」

「星野翔平」

「ああ、そうそう。同じ二組」

 星野は、愛想のない顔を横へ向けて、スマホをいじりだした。

 ――なんだこいつ。態度悪くね。

「俺も二組」手塚がそう言うと、麗也は「やったー!」とはしゃぎ抱きついてきた。

「……っ」

 麗也の距離感の近さは、今にはじまったことではない。

 しかし、中学の時と違う。今の麗也は、なんか、少しエロい。

 だから、この距離感……やばいんだよな。

「あ、あのさ、連絡先教えてよ」

 ふいに星野がスマホを差し出して言ってきた。

 頬を朱色にしながら、ぶっきらぼうに言う姿に、あっけにとられる。

「お、おう」

 手塚と麗也、二人とも頷いて、スマホを取り出し、連絡先を交換した。


 教室に入ると、女子数人に囲まれている男がいた。

「おぉ、あいつ、すごくね?」

 麗也が言う。

 囲まれいてる男子は、背が高くて、かっこいい。一般の人とは違うオーラ―みたいなものが漂っている。

「越智慎太郎。モデルとかやってるんだよ」

 スマホゲームをしながら言う星野は、その群衆に全く興味なさそうに続けた。

「越智と同じ塾だったんだよね。昔から、ああいう感じだね」

 ああいうとは、囲まれているということか。

 こちらに気づいた、越智が近寄ってくる。

「星くーん。クラス一緒になったね」

 にこにこと微笑みながら、手塚と麗也に挨拶をする。

「初めまして。越智です。みんな星君のゲーム仲間?」

「おい、星じゃない。星野だ。それにゲーム仲間じゃなくて普通に友達」

 ゲームをやりながら、星野は軽く越智に蹴りをいれた。

 すかさず麗也が、何か思いついたように前のめりに言う。

「ほ・し、と、お・ち、で母音が一緒じゃん!」

「……! なんじゃそら」

 手塚が即座に放ったツッコミを、越智と麗也も「なんじゃそらって……」と笑っている。

 星野は、相変わらずスマホに視線を落としていたが、口の端は笑っていた。

 

 2


 麗也は、高校生になってから髪の毛を染めた。少し伸びた髪の毛からチラリと見えるピアスが、大人っぽい雰囲気を醸し出していた。

 手塚の席は真ん中の一番後ろで、窓側の前の方にいる麗也の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

 つまらない授業に集中できずに、麗也のことばかり見入ってしまう。

 隣の女子から話し掛けられて応じる態度は紳士的で、まるで王子様みたいだ。

 巷の女子から王子とあだ名をつけられていたのもわかる。

 中学の時とは比べものにならないくらい、色気が出てて、そばに居るとどうにかしてしまいそうだ。


 そこで、手塚は、部活動に力をいれることにした。

 入ったのは、校内でも全国制覇に力をいれているハンドボール部だ。

「なんで、ハンドボール部なんだよ。中学の時バレーボールやってたじゃん」

 と麗也に突っ込まれた。

 麗也のきらきらした視線から目を背け、自分の手を見つめる。

「……ああ……、ハンドボールにかけてみたくなったんだ」

「……」

「なにを?」

「青春か?」

 昼休み、手塚の席に集まった四人が、もぐもぐと口を動かしながら、適当なことを言う。

 この学校のバレーボール部は、たいして強くない。けれどハンドボール部は、インターハイ常連だ。練習も厳しいはず。

 ――そう、俺の煩悩を振り払うにはもってこいなのだ。

「煩悩?」

 麗也に問われる。

 どうやら、心の言葉が、声に出ていたようだ。

「なんでもない。そういう麗也は、部活に入るの?」

「ええーおれ? 演劇部に入ろうかなって思って……」

 越智が興味深そうに質問してくる。

「なんで? 芝居に興味あるの?」

「なんていうか、中三の時に学芸会で主役やったんだけど、すげー楽しかったんだ……あの時、脚本とか演出を虎男がしてくれたんだけど……それで、はまったというか……」

 手塚は、その言葉にびっくりして、固まってしまった。

 越智は、その様子を見てにやりと笑った。

「そっか、虎男の監督ぶりに麗也は惹かれたんだね……で自分が気持ち良いというところまで引き上げてくれたその演出にはまったと……」

「……! 気持ち良いとか……そんなのわからない。でも、おれのことを理解している感じが……しっくりきたんだよ!」

 少しムキになって話す麗也にきゅんとした。

 そんな風におもってくれていたなんて知らなかった。

 あの時の脚本は、麗也を目立たせるために書いたし、演出は麗也を輝かせるためにしたものだった。

「演劇部……いいんじゃない」

 スマホゲームをやりながら、星野が言った。

「うちの高校は、演劇の中でも有名なところだよ。勉強するにはいいかもね」

 相変わらず、的確に良いことを言ってくる星野。感動するわ。

 手塚は、ペットボトルのコーラを飲み干して言った。

「演劇部、いいと思う。麗也は表現することに向いてる」

「ありがと。虎男は、食事の時、炭酸飲むのやめたほうがいい」

 ――え? なんて? 俺良いこと言ったよな。

「炭酸な」

「お茶にしとけ」

 越智と星野も同意する。

 少し顔を赤くした麗也が笑っている。

 中三の時のことだけど麗也の気持ちが知れて嬉しかった。


 3


 昼休みは、手塚の席に集まって食べるというのが習慣になっていた。

 越智と星野は、距離が近い。越智の膝に星野が座っていたり、1つの椅子に二人で座ったり。

 そんな二人の様子をじっと見つめて手塚が言う。

 「もう1つ椅子持ってきたら? 暑苦しいわ」

 ――そんなに触れ合えて、うらやましい。

 「え? めんどくさい」星野がそっけなく言う。

 「なに? うらやましいの?」越智が、にやりと笑って言う。

 「……」

 危うく、うなずくところだった。

 ボロが出る前に、もうしゃべらないでおこう。

「虎男? おれの膝にのる?」

 急に麗也が、そんなことを言い出したので、頭が真っ白になった。

「うらやましいんでしょ?」

 畳みかけるように言われる。

「……」

 ――これはチャンスなのか。でも……。

 麗也の細い足を見る。極端に華奢というわけでもないが、体付きは細い方だ。無理だ。

「いや、俺、重いからいいよ」

 不貞腐れたような表情をしている麗也に、あり得ない期待をしてしまう。

「最近さ、おれたち部活で忙しいしさ、昼休みくらいしか、こうやってバカ話しできないじゃん? だからさ……もっと、ふざけてもいいと思うよ」

 口を尖らせて話す麗也が可愛すぎる。この可愛さは、半端ない。

 手塚は、大きく息をつき、意を決して言った。

「じゃ、麗也が 俺の膝に乗って」

 その言葉に、照れたように笑って頷く顔が、たまらなく可愛かった。

 越智と星野は、何も聞こえていないのか、二人だけの世界になってスマホのゲームをしている。

 良かった。今、二人に揶揄われたら、余計に意識してしまうところだった。

 

 4

 

 ハンドボール部は、思ったよりも大変じゃなかった。

 練習は、ハードだが毎日ではない。ちゃんと休みがある。オンとオフがハッキリしている。

 だから、休みの時は、ひたすら走った。

 逆に、演劇部に入った麗也は、毎日忙しくしていた。

 外見も人並み以上に良いし、表現するセンスがあったみたいで、先輩や先生に期待を寄せられているのが傍目でみてもわかった。

 

 放課後の教室。

 越智と星野が教室の隅っこでスマホをみながら談笑している。

 そこへ麗也が話しかけにきた。

「ねえねえ、虎男知らない?今日、部活ないはずなんだけどさ」

「また、走ってんじゃない」星野が言う。

「麗也も部活休み?」

 越智に言われ、うんと返事し、二人のところへ行って、一緒にスマホを見る。

 二人が見ていたのは、配信されている恋愛バラエティー番組だった。

 ――女の子『好き。今まで友達と思ってたけど……違ったみたい』と告白している画面が映った。

 越智が、伸びをしながら言う。

「友達と好きな人の区別なんて、すぐわかりそうなもんだけどな」

 星野が珍しくゲームをしないで応えた。

「うーん、どうかな……。相手が特別な存在だって気づくのは、そんな単純なことじゃないのかもよ」

 その言葉を受け、麗也が、決まったといわんばかりの顔で言った。

「ナンバーワンじゃなくて、オンリーワン……だね」

「カラオケ行きたーい」

 越智が叫ぶ。

 

 ちょうど走り終えて、教室に戻ってきた手塚も捕まり、みんなでカラオケに行くこととなった。

 モデルの越智と王子麗也がいるのだから、その話を耳にした女子たちが、ほっとくわけがない。

 越智と麗也のとりまき女子と男子が、一緒に付いてきて大変な賑わいとなった。

 いつもの四人でも昼休憩と違って、越智と星野も離れて座ってる。

 麗也が、女子と親しそうに話したり、女子の手が麗也のピアスをいじったり、それを見ていると心がざわざわしてしまう。

「麗也君て、美形だよね」

 いつの間にか隣に来ていた、女子に話かけられた。

「今なら、麗也の隣、空いてるよ」

 指し示すと、女子がスッと体を寄せてきた。

「ううん。手塚君と話したいから」

 寄せられる好意は、嫌な気はしない。でも、俺は女には興味がない。

 見てしまうのは、男の方だ。どちらかというとスポーツマンで体つきががっしりしている方がタイプだったんだけど。

 あの日から、麗也しか、目に映らない。

 さりげなく寄せられた体から少し距離を置き、他愛もない会話で繋いで、その場をしのぐ。

 ――つまらないな。

 帰ったら、麗也でオナニーしよう。悪いとは思っているが、欲求は止められない。

 妄想の中では、あんなことや、こんなことが出来る……。

 あいつがこんな事知ったら、俺は嫌われるんだろうな……。


 5


 高校生活も本格的な夏を迎えて、教室の中の暑さと、そろそろ夏休みという浮かれた熱気で、一同が沸き立っていた。

 ここ最近、女子達が、手塚を呼びだしたり、手塚の部活姿を追いかける光景が多くなっている。

 休み時間に呼びだしされる手塚を横目で見ながら、星野が呟いた。

「手塚は、性格もいいし、見た目もいいのに、なんで彼女いないのかね」

 必ずそばに居る越智が、星野の頬を自分の方に向けるように触り、「俺の方がかっこいいでしょ」と言い放つ。

 星野は、それを適当な相槌をうって、払いのけた。

「虎男は、一途なんだよ。好きな人がいるんじゃないかな」

 窓の外をぼんやり眺める麗也の背中をみながら、越智は優しく言った。


 部活が終わり、六時を回った頃、教室へ忘れ物をとりに行く手塚の姿があった。

 いつも鞄の中に入れてある定期券を他の手提げ袋に入れてたことを思い出したのだ。

 定期券の中には麗也と自分の中三の時の写真が入っている。

 無事に定期券があるのを確認して、教室を出ようとしたとき、麗也が教室に現れた。

「……!?」

「虎男、一緒に帰ろう」

 確か、演劇部は他の学校の舞台を観劇するのに外出していたはずだったから、そこに麗也がいて、びっくりした。

「おお。戻ってきたんだ?」

「うん……虎男と帰りたくてさ」

 

 まだ完全に暗くならない帰り道を二人は黙って歩いていた。

 なにを話そうか巡らせていると、麗也から話しかけてきた。

「今日、告られた女子と付き合うの?」

「は? いや、付き合わないよ」

 そんな話をされると思わなくて、持っていた鞄を落としそうになった。

「虎男はさ、なんであんなに告白されてんのに、誰とも付き合おうとしないの?」

「……っ。なんで……そんなこと聞くわけ」

 そーいや、他の男子からも、やっかみ的な感じで、言われた。

『告白されてんのに、彼女つくらないねー。理想高いんすねー』

 思い出して、思い切りため息をついた。

 そのため息で、手塚が怒っていると勘違いした麗也が、イラついたように話しはじめた。

「別に聞いてもいいだろう。昔はよくしゃべってたのに。最近、お前なにも言わないじゃん。ちょっとモテてるからって、調子にのってないか?」

 こんなにイライラしている麗也をみるのは初めてだった。

 だけど、そんなこと言われたこっちも腹は立った。

「調子になんかのってない。俺がだれと付き合うとか、お前には関係ないだろ」

 ――そうだ関係ない。俺のこの気持ちを知ったら、引くだろう……麗也。

 この日以来、口をきかずに、一週間が経ってしまった。

 そろそろ夏休みに入る。

 

 6


 昼休み。

 手塚の席には、越智と星野がきて、昼食を食べていた。

 麗也は、教室から出て、別のところで食べているみたいだった。

「なによ。喧嘩でもしたの? 話きいたげようか」

 星野が珍しく優しい。

「……」

 越智は、どうでもいいみたいな顔をしているが、星野が聞く姿勢をもってくれているので、喧嘩した日のことを話してみた。

「お前に関係ない。か、……よくないね」

 越智の優しい顔が怒っていた。星野も頷いている。

「……じゃ、なんて言えばいいんだ……」

「友達だろうが、そうじゃなかろうが、麗也は、お前にとって特別なんじゃないの? 俺らには、そういう……絆?……みたいなものが見えるけど。ね?星野?」

 越智の言葉にただ頷く星野。

 ――そりゃ、特別すぎるくらい。特別だよ。

 教室に戻ってきた女子から、麗也の話が聞こえる。

「あれ、告白だよね。演劇部の先輩でしょ。麗也君とあの先輩だったらお似合いだわ。とうとう王子も人のものになっちまうか」

 女子の口々にから好き勝手な言葉が出てくる。

 越智が、手塚を席から立たせた。

「虎男、麗也のもとに行け」

「え? でも何処にいるか……わからない」

「いいから、走れ!」

 頷いて、教室から走って出ていく。

 思わず、出て行ってしまったけど、走ってるけど、麗也は何処にいるんだ?。

 うろうろしていると、中庭の自販機で飲み物を買う麗也を見つけられた。

「麗也、ごめん」

「なんで謝るの?」

 首をかしげながら言う顔は、意地悪で言っているのはなく、本当にわからない様子だ。

「お前に関係ない。とか言ったから……」

「……でも、本当に関係ないことだよね。虎男のプライベート聞きすぎたよ。気持ちわるいよな」

 寂しそうな顔をする麗也に、胸が押しつぶされそうになった。

「気持ちわるくない。麗也は特別だから。俺にとって麗也は特別なんだ」

「それ、どういう意味?」

 向き合った、麗也の目は真剣で、冗談で返すようなことができない。

 どうせ、終わる初恋なら、かっこよく告白して振られよう。

「あ、赤塚麗也君、キミのことが中三の時から好きです」

 ――言ってしまった。

 麗也は、ずっと真面目な顔で俺の目を見たままだ。

「いいよ。付き合ってあげる」

 ――は?……なんておっしゃいました?。

 意味がわからないまま突っ立っていると、チャイムがなった。

「戻ろう、虎男」

 麗也が、手塚の手を握り走り出した。

 教室まで走っているこの感覚を青春だなって思いながら麗也の背中をみていた。


 7


 演劇部先輩の告白というのは、たまたまセリフの練習をしていたという勘違いだったことがわかった。

 クラス中の噂になったその誤解が解けて、夏休みに突入した。

 終業式には、越智と星野から手塚にローションとゴムがプレゼントされた。

 ――何も話してないのに。いつ気づいたんだ。

 これからするであろう行為について、胸躍る気持ちと不安な気持ちが同時に押し寄せた。

 

 お互いの部活動は、夏休み期間中もあるので、なんやかんや学校でも会える。

 休みの時は、遊びに行くこと(デート)もしている。

 そして、今、俺の部屋には、麗也がいる。

 宿題を一緒にやるという理由で誘ったわけだが、私服の麗也は可愛い。

 大事にしようと思っているのに、その服の下のことばかり考えてしまう。

「虎男……見すぎ。おれのこと好きなのはよくわかったけど……見すぎ」

 そう言って、顔を赤くしているところが、たまらない。

 向かい合って座っていたところから、麗也の隣にじりじりと寄る。

「触っていい?」

 小さく頷く麗也の髪の毛を指でかきわけ、頬に触れ、耳へ触れた。

 麗也の肩が、ぴくりと震えた。

 キスをした。

 柔らかくて、こんな興奮したのは初めてだった。妄想の興奮とは全く違う。

 自分の衝動を抑えられる自信がない。

「れい、ごめん。俺、乱暴にしたら殴っていいから。止められそうにない。ごめん」

 フゥフゥと荒い鼻息を出しながら、麗也を押し倒した。

 もう一度キスをする。舌を絡ませようとするが、時々歯がカチカチと当たった。

 首筋に唇を這わせると、麗也の口から、なまめかしい声が聞こえて、もっと声を上げさせたくなった。

 服をたくし上げて、しなやかな肌に触れる。乳首に触れると麗也が腰をくねらせた。

 「……ん……ふぅ……」

 「れい、声我慢しないで。聞きたい」

 乳首を吸ったり、舌で転がしたり、麗也がどこをどうすれば気持ちいいのか、よく見ながら愛撫を続ける。

「と、虎、服、脱ぎたい」

 煽情的な顔で言われて、無理やり、首からすぽんと服を脱がした。

 露わになった鎖骨から胸にかけて口付けし、脇腹や腰をさする。

 そのたびに、体をくねらせ、感じた声をだしてくれる。

 可愛い。めちゃくちゃにしたい。大事にしたいのに、壊したい……。

 麗也自身が昂っていることへ、興奮が最高潮となった。

 荒々しく、ズボンとパンツを脱がし、漲っているものを触る。鈴口から垂れる体液でぬるぬるしている。前を扱いて、乳首に愛撫を続けた。

「いや……虎、それ、……いや……」

 切なげに、泣きそうな顔をしている麗也を見るのは初めてで、むちゃくちゃ興奮した。

 麗也が手塚の手の中で達した後、手塚も自分のものを触っていないのにイってしまった。

 手塚のパンツが濡れているのを見て、麗也が「なんで?」と驚いている。

 のぼせたような顔で、息を荒くして興奮しきった手塚が、たどたどしく答えた。

「ずっと妄想してた……。情けないだろう……自分の触ってないのに、見てるだけで……これだよ。もう、やばい。お前が可愛すぎて……、もっと、もっと、したくなる」

 そんな手塚のことを見て麗也が笑う。

「可愛いのは、お前だよ……虎。……続きしていいよ」

 そう言って、キスをした麗也の顔がだんだん赤く染まっていった。


 8


 虎男は中三の時から、かっこよかった。

 それに、どうやら、おれのことが好きみたいだ。

 いつもおれのことを見てるし、「麗也」って呼んでくれる声も優しい。

 明らかに特別視されていると感じていたし、おれも虎男のことを特別だと思ってた。

 だから、虎男が告白してくるまで待っていようと思った。

 勘違いもあるかもしれないから、慎重に、様子をみてた。

 高校に入ってから、やたら距離をおきたがるようになったけど、いつでもおれのことを見ているのは知っていた。

 

「あ……ふぅ……んン」

 さっきの続きをしながら、そんなことを思っていた。

 さっきよりもキスが上手になってきている。唇の中に入る舌が気持ちいい。

 態勢を四つ這いにされ、手塚の指が後ろの窄まりに触れる。

 ぴくりと腰が跳ねた。

 男同士なのだから、ここを使うことは知っている。だけど、こんなとこ……恥ずかしすぎる。

「と、虎男、そこ……は、恥ずかしいんだけど……おれが……あられもない姿になっても引くなよ」

 荒い鼻息と共に、唇を強く吸われた。

「麗也、好きだ」

 間近にある手塚の煽情的な顔にドキリとした。

 いつの間にか用意していたローションを垂らされ、指が麗也の中に入っていった。

「はぁっ……あぁ……うぅ」

 ――苦しい……。

 何度も何度もローションを足され、丁寧にほぐされる。

 浅いところを指が折り曲げられ、硬くなっている粘膜に触れた。

「ううぁ……ああ……」

 体が痺れて、大きな声がでた。

 しつこく、その部分を擦られる。

「ひゃ……ああ……、はぁ……」

 背中にキスを繰り返しながら、指の動きを複雑なものにし、増やしていく。

 麗也の昂っているものは、先走りで溢れている。

 そこを手塚の手で刺激され、吐精した。

「ご、ごめん、れい。もう少し……、もう少し」

 仰向けにかえられ、強く抱きしめ、首筋に顔をうめながら呟く。

 そんな手塚が愛おしくて、抱きしめ返した。

 腰を持ち上げられ、後ろに手塚の昂りが埋め込まれていく。

「……っ、はぁっ、あっ……」

 指とは比べものにならないくらいの質量に、呼吸が荒くなる。

「キツ……」

 手塚が苦しそうな、情けない顔をして、麗也を見つめる。

 手塚の首に腕を回し、キスをねだった。

 律動が始まったかと思ったが、途中、動きが鈍くなった。

 どうやら、イってしまったらしい。

「ごめん」と一言謝ると、すぐにゴムを付け替えて、挿ってきた。

 再度、埋め込まれたものを揺すり、はぁはぁと喘ぐ手塚の額に汗が浮かぶ。

「麗……也……気持ちいい……」

 苦しかった体が、馴染んできてた。

 途中、麗也の中の気持ちいところをかすめ取られ、声があがる。

「うぅ……あぁっ……はぁっ」

 達したばかりの力がなく、だらんとした麗也の雄をもみこむように手塚が触ると次第に力を取り戻してきた。

「いや……、そんな……はぁう……とら……とらぁ……っ」

 深く揺さぶりをかけながら、前を扱かれ、甘くねだるような声が上がる。

 こんな風になるなんて、自分でも想像出来なかった。

 そんな蕩けた麗也を手塚が見つめる。

 ――ああ、見られてる。虎男に見られてる。

 体が痺れたように波打ち、重なった腹の間で麗也の欲望が落ちた。

 それから少しして手塚も欲望を爆ぜた。


 9


 夏休みは始まったばかりだ。

 眩しい太陽の光に目を細めながら、駅前で昨日の麗也を思い出していた。

 可愛かった。クソ可愛いかった。何なんだあれ。

「あれ? 虎男? 何してんの?」

 越智と星野に会った。

「これから部活だ。お前らは?」

 越智が、星野の手を握り言う。

「見りゃわかるだろう。デートだよ」

 ぶらんぶらんと手を繋いだところを見せびらかすようにして改札を通っていってしまった。

 どこまで本気なのかわからないが、あいつらなら理解してくれそうだよな。色々と……。

 つうか、あいつらも地元だったのか……。

 そんなことを考えてたら、手塚のスマホにメールが来てた。

 ――麗也からだ。

『今日、体、痛いから部活休んだ。虎男のせいじゃないよ。気にしないで。部活がんばってね』

 やってしまった。無理をさせた。

 部活終わってから見舞いに行くか。でも、また我慢出来ないかもしれない。出来る気がしない。

 麗也がベッドで横になっている姿を想像しただけで、下半身に疼きを感じる。

 ああ、俺って健全な男の子なんだな……。

 今日の部活は、自主練の走り込みを沢山しよう。

 麗也にはメールを返しておいた。

『ゆっくり休んで。無理させてごめんな。今日も会いたいけど、あったら、また我慢ができないと思うから。メールだけにしとく。大好きだよ』

 すぐに返事が来た。

『スパダリか』

 ――……スパダリ?。

 なんだ。スパダリって。グリとグラ的なやつか……。

 まだまだ、麗也は奥深いやつなんだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キミは特別 choco @cho-ko3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ