第17話 彼女らのタイプ

 暫く待つと、ドリンクバーの横にあるコンベアーからカレーが運ばれて来た。

 コンベアーの数はざっと見て16。ここの広さも考えれば、かつてはさぞ賑わっていたのだろう。


 それぞれカレーとドリンクを取って席に着く。

 まあドリンクと言ってもお茶とお茶の味がするコーヒーとミカンジュースしかないが。

 そして二人とも、素直にお茶にした。

 カレーには何の具も入っていない、本当にただのカレーだ。

 ただ実際の所、大抵はミキサーで完全に粉砕して入っている。量や味を完全に均一にするためだが、ここもそんな物だろう。

 本当に物資が無いという可能性もあるが、味は意外と悪くは無かった。

 量は少なかったので、すぐに食べ終わってしまったけどな。

 今度は別の品を注文するのも悪くは無いと思ったが、とりあえずは一区切りだ。

 彼女も食べ終わったところで、ようやく話を切り出した。


「これは向こうで誰かが調理しているのか?」


「ううん、全自動。だからいつ出撃になっても大丈夫よ。生きて戻ってくればだけど」


 先ずは当たり障りのない話にしようとしたが、いきなり生々しくなったな。


「本当に俺がテレビやネットで見ていた静岡とは大違いだ。何かの間違いかと思いたいところだが、実際駅で戦っちまったしな。それにちらりと聞いた君たちの話に、嘘があるとは思えなかった。ただ疑問点があってね」


「何かな? どんなことでも聞いて」


「タイプ何とかとかは志願制なのか?」


「Aは……そうだって聞いてる。自衛隊の中から志願した人たちだって。当時は人体事件とか色々騒がれたって話だけど」


「人類がそんな状況で、よくもまあそんな事が言えたものだ」


「それで生活している人たちだから」


 意外と辛らつだ。


「それにしても、改造する事で寿命に影響はなかったのか?」


「当時の事は知らないけど、TYPE―Aはもうほとんど残っていないわ。いたとしても、前の薬品が完全に定着してB用の薬に拒絶反応が出てAにしかなれなかった人ね。でも今はいきなりTYPE―Bから始められるから、本当にAは高齢の生き残りなの。でも副反応のせいじゃないのそれだけ戦いが激しかったのよ。TYPE―Aは、結局殆ど普通の人間と変わらなかったから」


「大体どの位の時期なんだ?」


「AからBに切り替わったのが30年位前かな。その頃16として、生きていたとして40代後半くらいだと思う。あ、でもBの薬を受け付けない人がTYPEーAになったって話は聞いたことあるかな」


 ふむふむ。

 しかしこうして話していくと、随分フランクな性格だな。

 やはり部屋では緊張していたのか。

 神弾を貰うために猫を被っていた可能性もあるが、どうにも最後の言葉が引っかかる。


「だから普通はBね。ここからは強制になったって聞いてる。両方薬物投与が基本だけど、AとBだともう完全に別物って言える位に変わったって聞いているし、実際何人も見ているわ。だから今でも、一番多いのはTYPE―Bかな」


「するとC以降は?」


「Cは生後改造の最終型よ。産まれてから薬物投与や骨や内臓の交換、一部の機械化を行うの。あたしはD。人工的に作られて、胎児としてカプセルに入っている時から薬漬け。機械を埋め込んだり色々改造をするのは亜梨亜ありあちゃんみたいなEも一緒ね。F以降は別物で、人間の体を捨てて完全に機械になった人たち。元のTYPEは関係ないわ。現地で負傷した自衛隊員の内、優秀な志願者に施されたって。だけど本格的な換装手術が出来る所は東京の他は、最終防衛線と言われていた神戸と北海道にしかないから、今残っている人はいるのかしら? 少なくとも、会った事は無いわ」


 来栖くるすの話と完全に符合する。それにより詳しく聞けたわけだが、肝心な事がまだだな。


「さっき、触ってしまってすみませんって言っていたな。来栖から薬物投与の事は聞いていたから、人体に何か問題でもあるのか? とも思ったが、すぐに洗い流すとか消毒とかと言った事は無かった。何を気にしたんだ?」


「それは……単純に嫌われているからです」


「意味が分からないから教えてくれ。言いたくなければ――と言いたいところだけど、知っておきたい。まだこの学校とやらも状況も分からないが、戦友とやらに触れないんじゃ戦う事も出来ない」


 これは狩りでも同じだ。

 負傷したパートナーを背負って帰るなんて当たり前だしな。


「そうですね……これからも何かあるかもしれません。実際に害があるわけではないんです。ですが――まあ人造人間とか人工人間とか、色々と言われているんです。触るのも嫌う人も多いの。未知の危険があるってね」


 少し自虐的に笑う彼女を見て、別の方向で腹が立った。

 ここまでの話に嘘はないだろう。わざわざそんな事をする必要が無い。

 すると最初のタイプAとかいう段階から、人類の為に投薬処置を受けたという事になる。

 人体実験という言葉が何処まで正しいかはともかく、最初から完璧とは限るまい。

 もちろん人に使うのだから安全性には十分配慮しただろうが、話を聞く限りは人類存亡の危機じゃないか。

 相当な無茶をしただろうし、危険や副作用もあっただろう。

 そこまでして守ってくれた人たちに対してその仕打ちか……滅ぶべくして人は滅ぶか。


 ――いやいや、そんなのは一部の活動家や影響された馬鹿だろう。全体と考えてどうする。

 ただ当然、目の前にわざわざ出てくるのはそういう連中だ。

 彼女の瞳に映る多くの人間は、そういった類だったのだろう。


 立ち上がり、テーブルを挟んで彼女の両手を握る。

 当然かなり前かがみになるから顔が近い。だけど今は関係あるか。


「俺は君に触れてもなんともない。嫌悪感なんてない。俺たちは共に学ぶ仲間で、ここまで聞いた話が全て正しいなら、これからは共に戦う戦友だ」


 当然、その前に群馬に戻って確かめるけどな。


「だから俺が触る事を気にしないで良い。君もいつでも俺に触ってくれ」


 そこまで言うと、みるみる高円寺の顔が真っ赤になって口をパクパクさせている。

 あ、意外と純情? というか、人との接触が無かったというなら当然か……じゃねーよ。

 さっきの事は完全に無意識というか、神弾の事しか頭になかったな。

 あんな恰好までしてきたんだし当然か。


「す、すまん。つい……な」


「い、いえ。お、お気にに無さら……ず……」


 そう言って耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

 なんかいけない事をしてしまった気がする。

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