第16話 意図してはいないのだろうが

 まあ実際に『何でもするって言ったよな、グヘヘ』なんてする気はないが、その前に注意点だ。


「取り敢えず10発渡しておくけど、注意点が幾つかある。まずこいつは見ての通りの7.7ミリ弾だ」


「古いタイプなのね」


「さすがに見て分かるか。大戦末期に使われていた弾だからな。ただこいつは普通の銃じゃ使えない。というか、絶対に使うなよ?」


「何か問題があるの?」


「こいつに使われているのは装薬ガンパウダーじゃなくて炸薬さくやくでね。普通の銃で撃とうものなら、銃ごと木っ端みじんだ」


「炸薬を使う銃なら扱っているから大丈夫だけど、口径はさすがにかなり違いますね。でもこの弾を撃とうって訳ではないのです」


 どういう事だ?

 いやもちろん他の銃でも使うには使うが、彼女の言い方だと俺と同じ様な使い方か?

 そんな馬鹿、この世に2人といないと思ったが。


「私がこの服装で来たのも、自分の事を説明するのに最も早いと感じたからです」


 表情は真剣で一人称も変わっている。

 本当に真面目な話なんだな。


 ただまあ巫女なんだとは思う。

 コスプレか怪しい店の店員さんにしか見えない事は黙っていよう。

 というか、静岡の神社は大手の関係で祭事は小さな子供が行う。

 彼女もまた、他の県から来た人間なのかな。

 いやでも普通の職業巫女さんはちゃんといるか。


「神弾の事は、私たち巫女なら――いえ、ここで戦っている物なら誰でも知っています。ですが、私たちではどうやっても作れませんでした」


「群馬から送ってもらうって手は?」


 そういうと、彼女は眼を逸らし――、


「連絡自体が……途絶えていましたので」


 うん、知ってた。というかさっき聞いた。俺も馬鹿だな。

 でも確かに、俺はこうしてここにいる。謎だ。


「だからどうしても実物を見たかったのです。こうして見ているだけで、何か神秘的な力を感じます。そう、まるでタヌ……いえ、何でもありません。とにかく参考にしたいんです」


「ああ、自由に使ってくれて構わないよ。さて、俺はそろそろ支度をしないと」


「す、すみません。何か御用だったのですか?」


「ちょっと思っていたのと状況がちょっと……いやかなり違うんでね。それの家族と連絡がつかないんだ。そこで一度群馬に戻って確認しようと思ってね」


「……それは」


 言い淀んでいるが、俺は来た。

 群馬エクスプレスがある以上、帰る事は可能だ。

 ただ、それがあるのに群馬とは連絡が不通。

 タヌキ弾とか散々言われたせいか、本当にタヌキにでも化かされている感じだよ。

 だけど戻るしかない。そして、この状況をあず姉にも報告しないと。


「無理だと思います」


 少し考えていると思ったら、真剣にこちらを見据えてきっぱりと言い切った。

 彼女は本気だ。無視するのは簡単だが、一応理由を聞いておこうか。


「なぜそう思う?」


「ここは19時を過ぎたら、緊急時以外は出る事は禁止です。任務などがあるので入る事は可能ですが……入学説明書に書いてありましたよね?」


「え!?」


 急いで時計を見ると、今の時間は19時42分。

 彼女が来てからは、多分20分程度……つまりはその時点でタイムオーバー。

 しまったぁ! 部屋のギミックを楽しみ過ぎて完全に時間を過ぎていた。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


 気がつくと、俺は床に突っ伏していた。

 全ては俺が田舎者だから悪いんだ。


「気を落とさないで下さいね」


 そう言いながら、逃げるように部屋から出ようとした高円寺だったが――、


「そうでした。先ほどは、うかつに触れてしまって申し訳ございませんでした」


 いや、むしろこちらこそごちそうさまでした――じゃない。

 危うく本音の方が言葉から出そうになった。


 意味が分からないな。触るというより、人に触るって言葉が気になった。


「俺は正直田舎者でね」


「それは知っています」


 想定以上にいい性格だ。


「とにかく知らない事が山ほどあるんだ。少し詳しい事を教えてもらえるか?」


「……」


 なんだか真剣な顔してかなり悩んでいるな。

 もし嫌なのなら――、


「あたしの分かる範囲で答えられると良いのですが……あ、もしかしてお食事はまだですか? それでしたらご一緒します?」


「ああ、ご一緒させてもらうよ」


 実家への連絡や帰宅は明日で良いだろう。

 そもそもこちらの状況を何も知らないのに、帰って何を話すっていうんだ。

 ある意味、1日時間が出来た事を喜ぼう。





 こうして、俺たちは1階のロビーへと移動した。

 相変わらずの無人。

 ドリンクはセルフサービス。

 それに先ほどはよく分からなかったから気にしなかったが、四角い金属の箱が置いてある。


 前面はガラスかな? 自動販売機にも見えるが真っ暗だ。

 だがそこに――特に意味のなさそうなカドに彼女が触れると、数ヶ所に食品の表示が点灯する。


「今日はカツ丼とカレーとモツ煮なのね」


 え、まさかあの箱から出てくるのか?

 本当に自動販売機なのか?


「あたしはカレーかな。佐々森ささもりさんはどれにします?」


「同じもので良いよ。黒いままの部分ってのは無いって事かな?」


「え、ええ。あ、そうか。群馬には無いのね」


 もう慣れた。


「そのタイプは無いな。それでボタンを押していたけど、その箱から出てくるのか」


「ふふ、タッチパネルですよ」


 さすがにその位は分かるわ。


「これは注文機。いつも同じ食材が手に入るとは限らないから、時々変わるんです。

 料理が出来たら向こうに運ばれてくるから、そこで受け取る仕組みなの」


 あのドリンクバーの横にあったライン、その為に使うのか。


「それにしても、結構詳しいんだな。先に来ていたようだけど、どのくらいいるんだ?」


「あたしは富士防衛線から長野に行って、そこからからの招集だから、2月からかな。だから基礎的な訓練はもう始めているの」


 学校とはいったい……。

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