第8話 そして再会

 こうして地上に出たが、ここから先が分からない。

 道路を挟んだ向こうには物凄い高層ビルが立ち並んでいるが、その道路が広すぎる。何車線あるんだ、あれは。しかも複雑すぎる。

 そのくせ横断歩道も歩道橋も見つからない。いきなり大都会の洗礼を味わってしまった。


「あら、ここからバスに乗るの?」


 聞き覚えのある声に振り向くと、先程の女性であった。

 先までは持っていなかった、ひよこマークの紙袋を持っている。

 そうか、彼女はこれから学校に入学手続きに行くと言っていた。あれはそのためか。

 しかし地元の駅で売っている物を持っていくのはどうなんだ?

 俺はちゃんと、群馬名物の焼きまんじゅうを持参して来たというのに。

 案外常識が無いんだろうか?

 なんて考えは取り敢えず置いておいて――、


「向こう側に渡りたいんだが、行き方が分からないんだ」


「あら、やっぱりバスを使う訳じゃなかったのね。なんか階段を登って行ったから何処に行くのかと思って様子を見に来たんだけど」


「そんな事が気になったのか?」


「まあね。私の通う所以外に銃の教練校があるなんて知らなかったもの」


 なるほどね。確かに俺も彼女の言う学校は気になっていたが、まあ今度クラスメイトにでも聞けばいいやと思っていた。

 彼女の行動力は見習わないとな。


「俺の目的地は駿府城だよ。実際には学園都市みたいなものなんだと聞いているが」


 まあネットで調べた知識ですが。


「うーん、学園都市というには大げさだけど、確かに駿府城の周辺は沢山の学校に囲まれているわね。でも他にも病院や税務署などもあるのよ」


「へえ、それは知らなかった」


 学校や病院は知っていたが、税務署なんて気にもしていなかったよ。

 やはりさっきの様子から分かっていたが、彼女はこの辺りの地理に詳しい様だ。


「悪いけど、行き方を教えて貰えるかな?」


「構わないわよ。私も行くところだもの。じゃあ付いてきて」


 そういうと、踵を返して地下への階段を下りていく。

 ついさっき、俺も登って来た大きな階段だ。

 そしてスタスタと歩いて行くが、何とも凄い景色だ。

 沢山の商店が並び、中には店舗とは言えないような巨大施設の様な入り口もある。

 ピンときたが、アレはきっと、上にあったビルの地下の入り口なのだろう。

 しかし凄い。こんなもの、映画の中だけの存在かと思っていた。

 それに行き先も複雑で、今どの辺りを歩いているのか分からない。彼女がいなければ、完全に迷子だ。

 もしかしたら、これらの道のどれかは地下鉄というものに繋がっているのだろうか?

 群馬には地下鉄が無いからな。機会があったら、是非乗ってみたいものだ。

 俺が調べた限りでは、静岡にも無いみたいなのだけどな。

 ただここは大都会。昨日の知識が今日の事実は限らないのだ。


「どうしたの? ここから上るわよ」


 象牙色の地下道から、細い上への階段へと進路を変える。

 下に比べると、ここは案外年季の入った感じがするな。

 そんな考えも、再び地上に出ると簡単に吹き飛んでしまう。


 隙間なく並ぶ商店。乱立する高層ビル。

 それなのに整然と整理された道路のおかげで見通しは良い。

 そしてその先には、真っ白い駿府城が燦然と見える。

 これが都会。ここが日本の首都。

 ちょっとした感動で身震いしてしまうのは仕方のない事だ。

 それほどまでに、そこは美しかった。


「目的地が何処かは分からないけど、私はこっち。貴方もどれかの学園に用事があるなら、そこまでは一緒に行きましょう」


「ああ、助かる」





 ◆     ◆     ◆





 駿府城周辺は、単純に言えば3層構造だ。

 中央に駿府城があり、その周辺はお堀によって囲まれている。ここが内堀だな。

 越えた先には城下町あり、更にその外周にはもう一段お堀がある。

 その正面入り口は大通りになっており、堀を越えれば県庁がデンと立ちはだかっているわけだ。

 ちなみに反対側には役所や中央警察署、消防署などの主要施設が密集している。

 まあ他にも入り口は沢山あるし、防衛のためという訳じゃない。

 そしてその外周のお堀と城のお堀の間。さっき言った城下町に、都市機能が集約されている。


 そこには病院等の施設もあるが、基本的には他は学校だ。

 幼稚園から小学校、中学校、高校。それに俺が入る専門学校まで様々な学校が集中している。

 当然それぞれ一種類じゃなく、幾つもだ。

 こうしてお堀の内周は複数の学校が混在する学園都市のようになっている。


 そしてその外は静岡市と言う日本の中心が広がっているという訳だな。

 徳川家康公がここを日本の首都として以来、2度の世界大戦。そして敗戦を経てもそれは変わらなかった。


「私の目的地はお堀の反対側だから、ぐるっと回る事になるわ」


「奇遇だな。俺も反対側だ」


「へえ……やっぱり似た学校だと、近くに配置されるのかしらね。案外、これからよく合う事になるかもしれないわね」


「かもね。それにしても、何から何まですまない。君は親切なんだな」


 その言葉に少し考えるように上を向くが――、


「別に誰彼構わなくって訳じゃないわ。私はこれでも気難しいって言われているのよ」


 ここまで案内してくれていた時の微笑みを見る限り、とてもそうは見えないけどな。


「だけど特別な技術を持っている人は別。ねえ、さっき一発でアラルゴスを倒していたわよね」


 良かった。俺はギラントなんて知らなかったが、アラルゴスは知られているようだ。

 ほっとすると同時に、自分がまだまだ田舎者なのだと痛感する。


「どうかした? 言えないなら――」


「いやいや、違うよ。それで倒したことに関してだけど、何か聞きたい事があったのか?」


「そうね、聞きたいことだらけだわ。そもそもどうして当てられたの? 私は牽制だったから当たらない事は割り切っていたけど、普通は当たらないわ。何せ銃弾を避ける相手だもの」


「その辺りは地元で散々教わったよ。何というか、コツがあるんだ。説明するのは大変だけど、とにかく動きをよく見なる事かな」


「あんなに高速で不規則に動いている奴を見る? とても目じゃ追えないわ」


 確かに俺も初めて映像で見た時は、超高速で動き回る巨大なピンボール。

 よく見ろと言われても、先ず見るという行為そのものが出来なかった。


「それとあのタヌキ弾はなに? 群馬って言っていたけど、まさか貴方、冗談抜きで群馬県から来たの?」


「タヌキ弾じゃなくて神弾だよ。し、ん、だ、ん。確かにアラルゴスを対峙するための必須品だな。特別な加護を授かった専門の弾だけど……あれ? 今まではどうしていたんだ?」


「対戦車用のロケットランチャーで追い返すのが普通よ。倒すなら飽和攻撃が基本となるけど、出来る状況は限られているわね。あんなにあっさり倒したなんて話は聞いた事もないわ」


「また物騒なものを。だけど確かに普通の兵器じゃ無理か。だけどあの程度の幼体なら、群馬なら年数匹は駆除されているぞ」


「だからそこなのよ! ねえ、真面目に答えて。群馬ってあの群馬県よね? もし事実なら、いったいどの位の人間が残っているの?」


 ああ、こいつは完全に絶対にネットに精神汚染されている奴だ。

 しかしあれは冗談のネットミームかと思っていた。まさか本当に信じている奴がいるとは思わなかったぞ。

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