第63話 世界の果て
小夜子は泣き伏せていたものの、顔はクチャクチャにはなっておらず、何かを達観したような顔をしていた。
人は簡単には達観はできない。
本当につらい出来事があると人は空を見上げて自分が泣いていたことを改めて知る。
その澄み切った空と対比した涙の中の青さを知る。
小夜子の今の顔はそんな顔だった。
僕といても媚びることもなく癒着することもない。
僕を僕として見ている。
自分の中に生まれた、悪がかつては一番の傷だったことを拒んでいない。
小夜子から声を出すべきだ。
僕からここで言葉を使って慰めようが、キスをしようが房事の真似事をしようが、小夜子がしたくないのなら、合わさることはできない。
僕が君の人格に吸収されれば、君は朝日を浴びながら生きていける。
心からの賞賛をもらい、心からの温もりを感じながら生きていけるんだよ?
僕さえ、僕の根本である悪という傷さえなくなれば、君は根を張って生きていけるんだよ?
なのに、どうして?
なのに、どうして、君は僕と合わさろうとしないのかい?
僕が消えれば君は君らしく生きていけのに……。
鏡の底は静寂が支配した。
ここは世界の果てだった。
遥か遠い異国だった。
最果ての洞窟の中だった。
ここが洞窟の中なのか、迷宮の中なのか。
簡単に真実をくくってはいけない。
小夜子が僕に近づいた。
足を一歩出すたびに水面が揺れ、華を作った。
「真一さん」
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