第27話少女の声!

左足から入った。

熊笹を踏みそうになるが、爪先を立てて着地、それを回避した。

 遠くからエンマコオロギの鳴き声が聴こえて来た。

もう9月を12日まで過ぎて甲の年齢は還暦プラス1歳だが、辺りに秋の匂いが充満していた。

 紅葉も間も無く始まりそうだ。

遠目で貯水池の水面を視認した。

 遠くのアメリカコロラド州のパウエル湖では、コロラド川が干上がり、湖面の水深が下がって、干上がる状態に陥っていた。

 原因はロッキー山脈の干ばつと、言われている。

数週間前には満々と湛えられた湖水に浮かぶボートが確認出来たが、今では湖底が見える状態で湖底にはボートが転がり大きなクラックが確認出来ていた。

 この烏原の貯水池も給配水が事足りているが、それは神戸市内の9箇所の水源地が機動しているからで、上流からの給水を疎かにしてはアメリカの二の舞に為るだけだ。

 逡巡している甲の脳裏に、「遊ぼう・・・、遊んで・・・。」


と、女の子の蚊の鳴くような声に心を揺り動かされ耳を澄ました。


「遊ぼう・・・。あ、そ・・・、ぼ、う。」


徐々に聴こえなくなり甲の眼の前がパッと、明るくなった!今まで蔓化の植物に行く手を塞がれて、甲の掌大の緑の葉がおいでおいでと、ヒラヒラ風にたなびいていて瑠璃色の昆虫が葉に留まって休憩していたが、それも何処か消えて無くなり眼前には南北に広がる烏原の貯水池の水が満々と豊富な水量を湛えていた。

 貯水池の南、亀石公園から北に向かって貯水池を望めば、琵琶湖の面持ちを持っていた。

貯水池ダムは明治38年に完成した。


 除幕式に当たって手漕ぎボートが貸し出され神戸市民のリクレーションとして賑わったそうだが、今はもうその面影も無く、ただ広い湖面に紅葉間近の葉っぱが浮かんでいるだけだった。・・・。

 突然ヒュールルーーと、北風紛いの西風が吹き荒んだ!


「お兄ちゃん・・・、遊ぼう。」

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