第4話 森のおさんぽ
SE:扉を叩く音
(声・遠・中央・ココから)
失礼いたします
先ほどは取り乱して申し訳ありませんでした
ええ、もう大丈夫です
どうか旅人様もお気になさらないでください
お身体の具合はいかがですか?
――そうですか、それはよかったです
ですが、くれぐれもまだ無理はなさらないでくださいね
ところで……
わたくしは少々出かけて参りますので
ご挨拶に伺いました
いえ、大した用ではございません
少々、森の中に薬草の採取に行くだけですので……
夜までには戻ります
いえいえ、ご心配ありませんよ
勝手知ったる森の中、ですから
(声・遠・中央・ココまで)
SE:旅人がベッドから起き上がる音
(声・近・中央・ココから)
あ、まだ起き上がられては……
「わたくし一人に行かせられない」と……
ほんとに心配なさらないでください
いつものことですので……
「自分のせいで薬草が不足したんじゃないか」と
そのようなこと
旅人様がお気になさらないでください
いらぬ気を遣わせてしまい……
わたくしも未熟でした
こちらこそ申し訳ありません
どうしてもついてくる
とおっしゃるのですか?
「魔物が出るかもしれない森に行くのに放ってはおけない」ですか?
なんと温かいお言葉……
心配なさらなくても大丈夫なのですが……
あなた様は、そうおっしゃってくださるのですね
う~ん……分かりました
そこまでおっしゃるなら……
お言葉に甘えさせて頂きます
(声・近・中央・ココまで)
(声・極近・左・ココから)
ご同道をお願いできますか?
ふふっ、ありがとうございます
いえ、そのお心遣いが本当に嬉しいのです
ご迷惑だなんてとんでもありません
(声・極近・左・ココまで)
(声・近・中央・ココから)
さいわい、まだ日も高く昇っております
森の中の散策も
存外、旅人様の気晴らしになるかもしれませんね
そう思えば、森を案内するのも楽しみなような気もしてまいりました
ええ、旅人様の用意がよろしければ、すぐにでも
(声・近・中央・ココまで)
SE:扉を開ける音
SE:二人の足音
SE:虫や鳥の鳴き声、風の音
(声・極近・右・ココから)
いかがですか、外の空気は?
ええ、良いお天気でなによりです
それでは、参りましょうか
お足元お気をつけください
「そんなにくっつかれては歩きづらい」?
まあ、つれないことをおっしゃらないでください!
急ぎではありませんから
ゆっくりと参りましょう
旅人様は怪我をしたばかりなのだから
決して無理してはいけません
どうかわたくしにおすがりください
もっと体重を預けても平気ですよ?
「そういう問題ではない」?
では、何が問題なのでしょう
「胸が当たっている」?
はぁ、わたくしは気にしませんが……
あなた様はご不快なのでしょうか?
「そんなことはない」?
なら、何も問題ありませんね
ふふふっ、ではこのままで……
今度こそ参りましょう
(声・極近・右・ココまで)
SE:二人の足音
(声・近・中央・ココから)
さあ、もっと奥のほうです
獣道が続いているのが分かりますか?
さすが、旅人様
このような道でも歩きなれておられるのですね
ふふっ、空気が気持ちいいと思いませんか?
鳥たちの鳴きかわす声
木々の匂い
こずえのささやき
生い茂る葉のあいだから差す木漏れ日
獣たちの気配
この森の豊かな命に身をゆだねてしまうと……
人の大勢住まう町になど暮らす気が失せてしまいます
まあ、旅人様にも分かるのですか?
うふふふ、わたくしたち、変わり者同士ですわね
ええ、昔はわたしも街中に……
それもこの国の王都の大神殿に暮らしておりました
その話はまたいずれ……
人混みは苦手ですが、旅人様とともに歩くのは
少しも苦になりませんね
いつもの薬草取りが心地良い散策になったようで
気持ちが弾んでおります
(声・近・中央・ココまで)
(声・極近・右・ココから)
今だから正直に申し上げますが……
わたくし、ほんの少しだけ不安だったのです
もしかしたら、わたくしが出かけているあいだ
旅人様がいなくなってしまうのではないか、と
動けるくらい回復されたなら
もうあの家にいる意味はありませんもの
ですから、一緒に来るとおっしゃっていただいたとき
本当に嬉しかったのです
だから今は……
この腕をまだ外したくないのです
旅人様とともに歩きたいのです
お許し、いただけますか?
……ありがとうございます
ええ、のんびり参りましょう
SE:二人の足音
SE:川の水の音
さあ、目的の場所はもうすぐです
小川のせせらぎが聞こえてきましたでしょう?
水辺に生える水草が病気によく効く薬となるのです
ふふっ、この辺りは木々もまばらで
日の光も気持ちよいですね
到着です
お疲れさまでした
ここまでご一緒いただき
ありがとうございます
(声・極近・右・ココまで)
(声・近・中央・ココから)
ええ、良い景色でしょう?
わたくしもひそかにお気に入りとしている場所なのです
この景色を旅人様とごいっしょに見られて
嬉しく思います
ええ、すぐに採取を始めてもいいのですが……
せっかくですので、少し休憩いたしましょうか
お茶を持参しております
はい、どうぞお先に……
SE:水筒のお茶を飲む音
ふふっ、ではわたくしも一口……
(声・近・中央・ココまで)
(無音声・近・中央・ココから)
こくっ……こくっ……
(無音声・近・中央・ココまで)
(声・近・中央・ココから)
ふぅ、ひと心地つきますね
せっかくですので、少し小川にも入ってみましょうか
大丈夫です
この辺りは浅瀬で流れもゆるやかですから
SE:水に足を踏み入れる音
ふふふっ、水が冷たくて気持ちいい……
ほら、旅人様も
早くお履き物を脱いで
とっても気持ちいいですよ
SE:水に足を踏み入れる音
そう、その調子です
気持ち良いでしょう?
ふふふふっ
水の流れに足の指をくすぐられるような心地がしますね
小石の感触が足の裏に伝わって……
なんだか童心に帰ったような心地です
旅人様も……
そのご様子ですとだいぶ体力も回復されたようですね
あと数日はかかると思っていましたが……
旅人様のお力を少々見誤っておりました
「すべてわたくしのおかげ」ですか?
いえ、そのようなこと……
ふふっ、けれど嬉しいです
そうおっしゃって頂けて……
ええ、そうでした
そろそろ採取を始めませんと……
日が暮れてしまいますね
つい楽しんでしまい時が過ぎるのを忘れておりました
それでは、薬草の種類なのですが……
(何かに気づいたように、急に鋭い声になって)
旅人様……
気づくのが遅れ、申し訳ありません
魔物が近くにおります
ええ、こちらに気づいております
逃げるには少々距離が近すぎます
打ち倒す以外ありません
少しのあいだご不便をおかけしますが
旅人様はわたくしの後ろに下がっていて頂けますか?
いえ、ご心配はいりません
旅人様はわたくしがお守りします
――必ず
SE:獣型の魔物が近づく大きな足音、吠え声
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