テレビを追放された芸人、ダンジョンリアクション配信でヤバイよヤバイよ!~いたたた! え? これ大ヘビじゃなくてドラゴンなのたたたたた!?

だぶんぐる

芸人、ダンジョンリアクション配信はじめまーす!

「目出川、お前もうこの業界から追放、な?」


追放された。テレビ業界から。

目出川テツオ、18歳、職業、リアクション芸人。と、ダンジョン警備員バイト。

16でしゃべくり芸人をめざして、17で挫折。リアクション芸人に転向して1年で詰んだ。


「な、なんで、そんなこと言うんですか? 俺の何がいけないって言うんですか!?」

「過激すぎるんだよ! お前のリアクション芸は! んなもん今のテレビじゃあ全部NGだって言うのに、全部やりきりやがって! お前の登場シーンはほぼほぼカットなんだよバカヤロウ!」


意味が分からない。今のバラエティの何が面白いんだ。

俺達イケてない人間が容姿もイジられない。ただただ気を遣われているだけのほうが死ぬほど傷つく。

その上で、痛い・辛い・しんどいもなし。俺からすれば死ぬほどつまらない。

いやがる人間にしないのは別に構わない。だけど、俺達はそれで人を笑わせて金をもらってたのに、仕事を奪われたのだ。

だから、俺は全力で俺の仕事を全うした。

ネタ時間フルに使いきってリアクション芸コントをやってやった!


そしたら、追放された。

みんな、死ぬほど笑ってたのに!

プロデューサー・ディレクター系以外は。


「お前みたいのはもうテレビにはいないんだよ。ベテラン以外な。お前みたいのはなあ! ダンジョンでドラゴンにでも喰われて笑いでもとってろ!」

「そ、そ、その手があったかぁああああああああああ!」


そうだ! もう人間が痛めつけてくれないんなら、ダンジョンでモンスターにやってもらえばいいんじゃねえか!

十数年前に、某国の時空転移装置とかなんとかいう装置の実験中に、【混沌】とかなんとかいう異空間と繋がった。それで、世界中にダンジョンと呼ばれる異空間と、そこにすむ魔物モンスターが現れ、世界は一気に変わった。

【スキル】と呼ばれる不思議な力を持つ人間が現れ始め、やつらの一部はモンスターに対抗できる能力を持っていた。

それで、ダンジョンでとれる魔石ってのがエネルギー資源で使えるからって免許持ちは命がけでダンジョンに潜ったりしてる。


つまり!


ダンジョンに入れば、リアクション芸をしても怒られない!!!


はははははは! すげえ! なんていい時代に生まれたんだ!


「お、おいおい~、金ダライくらいすぎて頭おかしくなっちまったのかあ~?」

「はははは、ははははははは!」

「ずっと笑うな! 怖い怖い!」

「ははははははは!」

「あいつ、終わったな……」


後ろでなんか言ってるが、終わったのはテレビだろうが!

なんでもかんでも禁止してよお!

ブサイクからリアクション芸を奪う方がよっぽど差別だわ!

ダンジョンリアクション芸人に、俺はなるっ!!!


そして、


「どうも~、追放芸人めでっちでーす! 今日もダンジョンリアクションRTAはじめまっす!」


俺はダンジョンへと飛び込んだ! リアクションぶちかますために!




数か月後。


【マジであほすぐる……】

【髪の毛燃えすぎてアフロやん】

【きょうきのさたwww】


「いたたたたたた!」


俺は巨大なヘビに噛まれていた。


ここまで色々あった。

ただのリアクション動画撮るだけなら許可を出せないと冒険者ギルドに怒られて必死にモンスターを狩った(ただし、ごぼうで)り、敢えて罠を踏み抜いて冒険者ギルドに怒られた(全部踏み抜いてやった)り、ダンジョンあるあるショートコントでバズったり色々あった。


そして、俺『たち』はいつの間にかAランク冒険者になっていた。


「いたたたた!」

「おい、めでっち大丈夫か!?」

「鼻曲! 大丈夫じゃねえよ! おい、くっちー、この顔、ちゃんと映してくれよ……!」

「わかった! いえーい、オタク君見てるー?www」


そう言って、くっちーは巨大なヘビに噛まれているオレとカメラの間に自分を割り込ませる。


「「お前じゃねえよ!」」

「っていうか、やらしいビデオみたいな入りやめろ」

「ちょっと何言ってるかくっちー分からない」

「うるせー!」


これは俺達の定番ムーブだ。

くっちーがカメラから俺を隠している間に、鼻曲が俺の噛まれている部分の治療をする。


血が出ると笑えないからだ。


今日も最高のチームプレイを見せている。

これまでなんやかんやあった。魔物で作ったアツアツおでんチャレンジや、エレキシープビリビリ椅子やゴーレムとローション相撲やらしている内に俺にも仲間が出来た。

天才白魔法使いでお笑い研究家の鼻曲、元アサシンでお笑い好きのくっちー。

この二人とトリオを組んだ。

鼻曲のお陰で血が出そうになった瞬間傷口が塞げて何回でも罰ゲーム受けても『このあとスタッフが完璧に治しました』ってテロップ出せるし、くっちーはどんなモンスターの攻撃も避けられるし気配を消せるのでカメラマンとしても寝起きどっきりレポーターとしても優秀。

最高のお笑いトリオだと思ってる。

俺達、【クレイジーモンスターズ】はダンジョン動画配信者の中でも今となっては上位に食い込んでいる。

あの伝説の【狂気の仮面道化クレイジークラウン】を継ぐクレイジー一族と言われるほどに。


「いたたたたたた!」


【今日もよう声が出とる】

【あれ、ドラゴンじゃね】

【噛まれすぎワロタ】


ん? 今、ドラゴンってコメントが流れていかなかったか?

俺はくっちーの開発してくれたコンタクト型ディスプレイに映るコメントの中で気になるのを発見。だが、すぐに大量の草に流れていく。


「な、なあなあ、今コメント欄にドラゴンって見えた気がするんだが……」

「いやいやいやいや! またあ、めでっちはすぐに大げさにするんだからー。なあ、くっちー」

「そうそう、ドラゴンだったら、めでっちもう死んでるってー……大体ドラゴンだったら……あ、ま、まあ、ドラゴンじゃない可能性も微レ存」

「おいぃいいいい! 全然意味変わって来てんぞ、ごらああ! ああ、急に痛くなってきたぁあああああ!」


道理でいつもより噛みつきの力が強いと思ったぁああああ!

でも、まあ、鼻曲の補助魔法のおかげかそこまで痛くない。

くっちーもかなりデバフ斬りを先にかましてくれてたし。

まあ、血も出てないし、みんな笑ってるし、おっけーおっけー!


俺は、気にしないことにした!


「いたたたたたたたた!」


全力でリアクションするだけだ!

そして、ひとしきりドラゴンでやれる面白リアクションをやったら、合図を送る。


「はい、マジでやばい! 救護班へーるぷ!」


すると、奥に控えていた冒険者チームが飛び込んでくる。

後衛の援護を受けながら、黒髪を靡かせ駆け抜けてくる美少女が刀を一振り。

すると、ドラゴンの首が落ちて、俺も落下。


「うそぉおおおおおおん! ぐへ!」


ポイズントードの潰れたような声をあげて寝転ぶ俺にカメラを持ったくっちーとマイクみ見立てた杖を向けてくる鼻曲がやってくる。


「それでは、めでっち。締めの一言を!」

「3,2,1,きゅー」

「高評価・チャンネル登録くれもん!」


俺のいつもの一言で、鼻曲は杖をパンと叩き、高らかに宣言。


「はいオッケー! おつかれっしたー!!」

「おつかれー」

「乙乙―」


俺達は、すぐさまダンジョンの片づけを始める。

たつ芸人跡を汚さず。

真面目な冒険者様達の邪魔をしないよう、ドラゴンに使った生クリーム大砲やわざびシュークリームを片付ける。

悪戯好きの鼻曲がちょいちょいそれを俺に喰わせようとしてくる。そして、くっちーはカメラを回している。お前ら、最高か! いてぇええええええ!


「あ、あのなあ……」


ワサビまみれの俺が振り返ると、先ほどの黒髪美少女がこめかみにほっそりとした指を当てて溜息をついている。

あ、彼女の名は、折原霞。B級で、現在急上昇大注目の冒険者だ。

彼女とは何回か一緒になったことがあり、彼女の固有スキル【断捨離】は、苛立ちを斬撃に変えることが出来るもので、超有能。

それで何回も助けてもらっている。今では、俺たちがダンジョンに入るスケジュールをわざわざ聞いてきてチームの人たちと一緒に入ってくれる。


「お前、無茶にもほどがあるぞ! ドラゴンに喰われにいくなど……!」

「え? 今のドラゴンなの!? 俺はてっきりデカいヘビかと」

「ドラゴンだぁああああああ!」


ボケると必ずツッコんでくれるのでマジでやりやすい。

彼女とも定期的にすまいるすらいすというコンビで配信をしている。

イケメン美女と、イケテないメンの凸凹コントは好評だ。

何故こんな配信に付き合ってくれるのか謎だがすげー助かる。


『こここここんど、カップル配信というのをしてみないか』と言われているが、俺は分かってる顔面偏差値違い過ぎカップルネタをやろうという話だろう。

あ、そういえば、霞から受けた告白ドッキリがまだネタバラシされてないんだが、フリが長すぎないだろうか?


「ふふふふふ……」


あああああああ! 霞が抱きついてきて超いい匂いするんですけどおおお!

でも、デレていいよな、どっきりだからデレた方がウケるよな!


「君が命がけで私を助けてくれてもう3か月だな……」


そう。

俺はダンジョンリアクション配信をしている途中で、死にかけた霞を助けたことがある。

人死には最悪だ。

笑えねえ。


もう、大切な人が殺されて泣く人間を見るのはいやだ。

みんなには、アイツにも笑っていて欲しいから。


命を賭けて人を笑顔にする。それが、俺の信条だから。


「もっともっと笑わせてやるから覚悟しとけよ……!」


俺は最大限かっこつけて霞に囁く。ブサメンの囁きだなんて笑える以外ないだろ。


「きゅん」


いや、なんでここできゅんなのぉおおおお!?

いやいやいや、これはラブなトラップ、ハニーなトラップだからだ!

であれば、俺はここで調子に乗るのが芸人としてベスト!


「あはははは! あーっはっはっは!」

「……いやー、マジでめでっち一人勘違いコント過ぎてウケるんだが」

「裏のラブコメ編も相当視聴者多いからね」


鼻曲とくっちーがなんか言ってる!

ドッキリの打ち合わせかな?

そういうの聞かせないでね! 知らない方が俺新鮮なリアクション出来るから!


「よーし、じゃあ、次の現場行こうぜ! 次はどこよ!」

「【フェンリルとボール遊びしてみた。ただし、ボールは俺】」

「おいぃいいいいいいい!」


また、ワクワクする現場(ダンジョン)じゃねえか!

俺は、人々に笑いを届ける為、ダンジョンにリアクションをしに潜り続ける。


「お、おい! めでっち! お前、死ぬなよ!?」

「死んだら笑えねえだろうがあ! だから! 絶対に俺は死なん!!」




一方、冒険者ギルド。


「これが、例の男か」

「はい。固有スキル【芸人】。『笑いをとれればとれるほど能力が上がり、特にタフさは異常なレベルに上昇する』というものです。現在、本人はリアクション動画を撮っているつもりですが、既に多くのダンジョンで助けられたものがおります。笑いに命をかけていますが、正義感もモラルもあるため、現状は放置しております」

「ふふふ、面白い男だ。クレイジークラウン級のおかしな男、か……」

「あの、ダンジョン庁のトップである貴女が何故……?」

「新しい勇者の誕生の予感がしてな……楽しみだ……冒険者ギルドは絶対にこの男を手放すな。テレビ局の人間も男を取り戻そうと躍起になっているらしいからな。全力であの男を守り、ダンジョンでリアクションさせろ!」

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


この物語は一人のリアクション芸人のダンジョン配信ネタ動画が、世界を救い笑顔にする動画に勘違いから変わってしまう笑いの物語である。

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