第36話 最新型ドローン
「すいません、ちょっと人の目もありますのでご容赦頂ければ」
「その声はイトウね」
メスガキに絡まれる配信者ではあまりにも体裁が悪いので俺が仲裁するために声をかけると、振り向いたその子はエルメスCEOだった。
前はスーツ姿であったことと、目立つ護衛の姿がなかったためすっかり除外して原宿女子か何かだと思っていた。
「日本語が堪能だったんですね」
「日本語が堪能? こっちに来てからマスターしたに決まってるじゃない。モンキッキの言葉をあらかじめ習得しようと思う物好きはいないわ」
「日本語は難しい言語だって言われてるのに、わずか1週間で習得できるなんて凄いですね」
英語が全くできない俺としてはにわかには信じられない。
一部の凄腕翻訳家とか通訳には僅かな期間で全く触れたことのない他言語をマスターしてしまうことがあるのは聞いたことがあるのだが。
「ふん、もっと褒め称えなさい! 前回と違って殊勝じゃない」
「ははは、前回ですか。 今回はここに来られて何かご用件でも」
前回は反射で喋ってただけで、自分でも何を言ってるのかわからないため、とりあえず笑って誤魔化して、今回の要件に話題を変える。
「シロクロつけるための段取りに来たのよ」
やはりと言うか、エルメスCEOはエクスプレイとダンプロが勝負する段取りに来たようだ。
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「配信で勝負?」
突如CEOに絡まれぐったりしていた望月さんを谷崎さんの元に運んだ後に、エルメスCEOとアリサがいる社長室に入ると議論が紛糾していた。
「ナンセンスね。ウチに旨みもなければ、リスナーを勝敗を決する数字として捉えろなんて風聞にも配信者にも悪い影響しか与えないじゃない」
「ふーん。まだ詳細を聞く前からそんな強気な態度をとっていいんだぁ?」
有無を言わさず突っぱねるアリサに対して、エルメスCEOは余裕綽々な態度で応じる。
彼女の態度が意外だったのか、アリサが顔を顰めるとエルメスCEOはそれを見ながらほんのりと頬を上気させるとニヤつきながら話を続ける。
「勝負を受けてくれるならエクスプレイで近々売り出すドローンを確約で一つであげるわ。そこにいる化け物じみた身体能力をしている人間もくっきりと取れるもので、今までのモデルより耐久性も機動性も高いわ。最新鋭のドローンを獲得できる意味あなたならわかるわよね」
ドローンによって配信環境が変わったことが、ダンジョン配信を見る層が爆発的に増えたことの背景にはあるので、このチャンスを不意にするのはダンジョン配信業をしているものならばできるはずがない。
ダンジョン配信に大きく動かしたドローンというのはそれだけ大きなことを成した存在だと言うことを皆心の底から知ってしまっているのだから。
しかもそれを引き起こした張本人のエクスプレイから支給されるものだ。
ドローンを制するものは配信を制すると言う格言を生み出した企業なので期待はせざるを得ない。
「大盤振る舞いじゃない。勝ちも負けもなく乗るだけでそんな大それたものを一つくれるなんてそれだけのものだとおいそれとは作れないんでしょうに」
「そうね。負けたらそっちに行き渡るだけ作ったものを送るつもりだから、先にエクスプレイに行き渡らせるものだったものを送る必要があるから自社が心血込めて開発したものの恩恵を他社に譲るわけだから大打撃になるわ」
「開発品の恩恵をもろに受けられる上にタダ、その上海の向こうのイケスカナイ企業に一泡吹かせられるのだから悪くない条件ね。ちなみにそっちが勝った場合ウチが支払う対価はなに?」
「やっぱりそこのイトウかしら。調べれば調べるほどいろいろなものが出てくるしね。唯一のS級ダンジョン攻略達成者な上、三連覇。こんなものが分かったら欲しくないわけがないじゃない」
「ウチの伊藤とドローンじゃ。ドローンの方が軽すぎる気がするけど。内容にもよるけどその勝負受ける気はあるとは言っておこうかしら。今のところ負ける要素が一つもないもの」
勝ち得るものを聞いて挑戦的な笑みをアリサが浮かべるとエルメスCEOはニヤついた笑みをさらに深める。
「内容はダンプロのアスカとウチが新たに確保した配信者の同接数勝負よ。断る理由が無いわよね?」
「聞いて安心したわ。これで最新型は確約ね」
アリサとエルメスCEO、笑顔で火花を散らすと勝負することが決定した。
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