第18話 マネージャーVSチートモンスター
黄金の竜人は目も口もないのっぽら坊の顔を向けると、黄金の体を雷電させて、拳を繰り出してくる。
早い。
進化前の黄金竜の速さから幾許か、早くなったほどだという予想していたがまるで別格だ。
避けるのには認識を修正するのが遅すぎた。
負傷覚悟で左腕で受ける。
「でかい時よりも力が強いな」
案の定、雷による痺れと腕の骨が折れた痛みが同時にくる。
痺れと痛みが広がる前に回復をかけて、牽制で右腕で顔を殴る。
先ほどのように蹌踉めかずに、もう一度竜人は拳を振りかぶってきた。
竜人の拳の進路上に結界を張り、障害物にすることで竜人が殴るのを妨害し、体が耐えられる以上の強化を右腕に掛けて、殴る。
結界により殴るスピードが遅くなったことでわずかにこちらの方が先に入り、竜人が蹈鞴を踏む。
強化の出力に耐えられずに、血が吹き出して、骨が折れ、さらに竜人が身に纏った雷で痺れた腕に回復をかける。
痛みに対する耐性はあるのでそちらはいいが、負傷した腕のグロさに悲鳴をあげたくなってくる。
幸いなことに回復で元のキレイな腕に戻ったが、骨が曲がってくっついてないか、心配だ。
あとで一度折って、添木をしてから、回復でくっつけた方が良さそうだ。
身を犠牲にする強化でまともな一発が入ったことを考えると、竜人は進化で打撃耐性を獲得したことは間違いない。
極めて凶悪な存在になっている。
倒すとしたら最低100回以上は俺の腕が折れることになりそうだ。
回復で直すと折れ癖がつかないというのがせめてもの救いか。
「剣道さん、こいつは攻撃の余波だけでも危険ですので、巻き込まれないように下がっといてください」
「ああ、今君たちの拳の応酬で起きた風圧で吹き飛ばされたところだからよくわかっているよ」
流石にこんな化け物じみた存在と剣道さんを戦わせるわけにもいかず、注意喚起すると、ちょうどこちらに向けて竜人がカマイタチと炎弾を放ってきた。
避けると避けた場所に向けて雷を纏った拳を叩きつけてくる。
狙いが見え据えていたので、左手で繰り出される拳の横面を叩いて逸らすと、もう一度竜人の顔面に拳を叩き込む。
竜人は倒れるかと思うと風魔法で宙に浮かび回し蹴りを放ってきた。
まだ地面に足がついてないので回避が難しかったため、結界を上から自分の体に当てて、無理やり地面に移動する。
結界が弾ける音を聞きながら、起き上がるついでに回復をかけて、アッパーを腹に打ち込む。
竜人が浮いているうちに殴ったおかげで、やや斜め上の天井に向けて吹っ飛んでいく。
やっと距離が空いた。
まだ黄金竜が人型になってから幾許も経っていないというのに、かなりの魔力を消費したので回復がてら魔力回復もかける。
次いつ魔力を回復するタイミングがくるかわからないので、小まめにかける必要があるだろう。
「見たところあれは打撃耐性があるようだな。使え」
息を整え始めると、剣道さんが大剣を投げかけてきた。
受け取ると強化が大剣までに及び、強化に耐えられなくなった大剣がひび割れ始める。
「壊れてしまうんですけどいいんですか? 愛用のもので替えが効かなそうですが」
「友好の証に受け取ってくれて構わない。それに自分勝手なことで申し訳ないが、離れていても君たちの戦いの余波でまるでミキサーにかけられたようになって、これ以上続くと私の命が持たん。先の話だと一発は武器を振れるのだろう。その一発で決めてくれ」
「保証はできないですけど、全力を尽くします」
殴る時と同様にひび割れ始めた大剣に腕の限界以上の強化をかけると、めり込んだ天井から復帰した竜人が地面に着地すると雷を纏ってこちらに突っ込んできた。
仕掛けられる前に自分から仕掛けてしまおうという腹持ちらしい。
合わせるように踏み込み、光魔法のエンチャントをかけて大剣を振りかぶるとあちらも迎撃するために拳を振りかぶる。
同時に振り落とし、大剣と拳がぶつかった。
大剣が罅割れから眩い光を放ちながら崩壊し、竜人は拳から体を両断され、大剣から発生した光魔法を帯びた輝く衝撃波受けて消し飛んだ。
大剣が持ち手まで崩壊すると折れた両腕に回復をかけて、大剣が起こした光の奔流のあとを見る。
綺麗さっぱり視覚的にも魔力的にも何も存在しない。
安堵すると部屋の真ん中に転移陣が出現した。
「これが剣を振るうだけで起きることか……?」
剣道さんは光の奔流の後に残された抉れた大地と貫かれた壁を見ると、驚愕したように呟く。
無理もないだろう。
やった当人の俺もこれほどの威力が出るとは思っておらず、驚いているのだから。
おそらく予想よりも上振れしたのは品質のいい武器で耐久値が高かったおかげと思っている。
いつもは武器が振り切る途中で散逸して威力も落ちるものが、ちゃんと振り切るまで持ったおかげで込めた力の100パーセントを出せたのだろう。
潰してしまったことは残念だが、剣道さんの大剣様様だ。
「次の業務開始まで2時間……。移動時間を含めたらギリギリですね。出ましょうか」
「ああ。流石に今日は仕事をしなくても許されるような気がするのだが」
S級ダンジョンの攻略は完了した。
あとは事務所に戻るだけだ。
流石にくたびれたので今日は回復をかけながら仕事をすることに決めて、剣道さんとともに転移陣に乗ると外に戻った。
ーーー
この日、日本史上3度目となるS級ダンジョン攻略が達成された。
世間の話題はS級ダンジョン攻略で持ちきりになり、当事者の剣道絢香もさまざまなメディアからインタビューを受ける一方で、第一功労者の伊藤淳はメディアに露出して仕事をする時間が削られるのを嫌ったため、世間に名前を公表しないようにダンジョン協会と約束し、事務所で黙々と仕事していた。
過去二度のS級ダンジョン攻略の時も淳は大体的に公表されればダンジョン配信者ではなく、攻略者として認知されて、配信者としての道を断たれることを恐れ、名を公表をするのを拒否したため、ダンジョン協会も今回も前回の経験から「だろうな」という感じで強く淳に言わなかった。
ーーー
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