第8話 メスガキCEO


8/7 グーグル翻訳を使って、英語表記しました



ーーー



「You are Atsushi Ito, right?(あなたが伊藤淳ね?)」


メスガキCEOことエルメス・G・キングスレイCEOは英語で話しかけてくると、背後のリムジンから大柄のシークレットスーツを着た黒人が2人出てくる。

ボディガードか何かだと思うが、俺の身長の倍近く背丈があり、威圧感が半端無い。

しかも俺は英語が全くといっていいほどできないため、世界的ダンジョン配信企業のCEO相手に緊張が止まらない。

何か大事な話そうだし、粗相が起きそうで心配でならない。

通訳の人がほしい。

 

ヒカリさんの手前、不安にさせるような所作はできないので、緊張を顔には出さないようにする。

もはや俺には人類の叡智であるグーグル翻訳を使う以外の道が残されていない。


「Fufufu, you look good. You're going to report us to the police. Bob!(ふふふ、感がいいわね。警察に通報するつもりね。ボブ!)」


「Yes, ma'am!(了解!)」


グーグル翻訳を使おうとスマホを取り出した結果、なぜかボディガードに取り上げられた。

確かに企業のトップが顔を出しているような大事な話し合いでグーグル翻訳を使うのはどうかと思うが、流石にアポも取っていないというのに厳しすぎる気がする。

だが先方がNGを出している以上、グーグル翻訳は使えない。

恥も外聞も気にしている余裕はない。


「ヒカリさん、ごめん、俺英語全然ダメなんだ。何話してるかわかるかな?」


「すいません。実は私も……」


万事休す。

これでは会話が行えない。

いやもしや会話が成り立たせるつもりがないのかもしれない。

相手側は世界的大企業。

内容などわからなくともこちらがイエスというしかないと考えているんだ。

ノーと言えばCEOの後ろにいる屈強なボディガードが何をするかは想像に難くない。


「It's no use talking to you two. You can't use magic outside of the dungeon, so don't you think it's safer to talk to me instead?(2人で相談しても無駄よ。ダンジョン外では魔法は使えないんだから、それより私と話し合いをする方が無難だとは思わない?)

 」


「イエス」


「fufufu, nice answer(ふふふ、いい返事ね)」


安全確保のためにもとりあえずイエスと答えていくことにする。

一体何に対してのイエスか気になるが、英語がわからない以上こればかりはしょうがない。


「Then, as soon as possible, Atsushi Ito, will you come to my house? If it's us, we'll have everything you need, and we'll even prepare an exceptional reward for you. I think I have no choice but to sign a contract, but can you refuse this invitation?(じゃあ早速だけど伊藤淳、ウチに来てくれる?ウチならば貴方が必要な全てを揃えられるし、破格の報酬も用意するわ。私には契約するしか選択はないと思うけど、あなたはこの誘いを断れるかしら?)」


「イエス」


「what?(な!?)」


なぜか。

あちら側の都合のいい返事をしているはずなのに、驚いている。

もしかして普通に会話する気でいたというのだろうか。

いやさすがにそれでは通訳もなくグーグル翻訳をとりあげたことがあまりにも不自然すぎる。

もう一度だけイエスと答えて様子をみよう。


「Are you making fun of me?(あなた私をコケにしているとでもいうの?)」


「イエス」


「Y,You devil!!(こ、こいつ!!)」


もう一度試しにイエスで返事したところでキングスレイCEOが肩を怒らせ始める。

やはりこれは普通の会話だ。

出来レースの何かではない。

そう気づくと、ボブと呼ばれていた黒人が肩を怒らせてにじりよるキングスレイCEOの肩を掴んだ。


「Ms. Kingsley, isn't he just saying yes without understanding English?(ミズキングスレイ、彼は英語がわからずに適当にイエスと言っているだけでは?)」


「What are you talking about, Bob? I did see on Danpro's homepage that he is a global talent who is fluent in English. There is no way a serious and famous Japanese company would violate such compliance.(何を言ってるの、ボブ。私は確かにダンプロのホームページに彼が英語が堪能なグローバル人材と書かれているのを見たわ。まさか真面目で有名な日本の企業がそんなコンプライアンス違反するわけないじゃない)」


「But google translate is showing on his phone screen.(しかし、彼の携帯の画面にグーグル翻訳が!)」


「Hey, hey, Bob. Japan is also a member of States, and since I was educated in English from an early age until university, there's no way I can't speak it. he's just fanning the CEO.(おい、おい、ボブ。 日本もステイツメンツの一員で、幼い頃から大学まで英語の教育を受けているのに喋れないわけがないだろ。彼はただCEOを煽ってるだけだ)」


「Joikov, I see, it was too early. sorry for interrupting the conversation.(ジョイコフ、そうだったのか、早計だった。話の腰を折ってすまない)」


CEOをどうやらボディガードたちが宥めてくれたようで、怒りを収めてくれたようだ。

だがこれは次はなさそうだ。

普通に英語が話せないと素直に言った方がいいだろう。


「Even if I was despised for being a child, I never thought that the day would come when I would be teased. Now if you put your forehead on the ground and apologize, I will forgive you. I won't use forceful means to take you home.(まさか子供だと侮られることはあっても、煽られる日が来るとは思っても見なかったわ。今なら額をつけて謝罪をすれば、あなたのことを許しましょう。強引な手段を使ってホームに連れて行くことはなしにしてあげるわ)」


「ノットスピーキングイングリッシュ!」


「What a guy, he's too crazy!(なんて奴だ、クレイジーすぎる!)」「Is this a samurai heart.(これがサムライハートか)」


勇気を持って英語を喋れないことを告白したが、なぜか場が凍りついた。

英語が喋れないことがそこまで罪深いことだとでも言うのか。

日本人の9割以上が喋れない印象なんだが。


「Negotiation broke down. Bob, Jacob, show him what you are capable of!(交渉決裂ね。ボブ、ジェイコフ、身の程をわかせてあげなさい!)」


「Yes, ma'am!(了解!)」


CEOが声を上げると、ボブと呼ばれたボディガードがこちらに近づいてくる。

どうやら腹に据えかねて、実力行使をするつもりらしい。

ダンジョンに潜りすぎたせいか、俺はダンジョンの外でも魔法が使えるので、白魔法の身体強化を発動する。

基本仕事で徹夜する時しか使ったことがなく、揉め事の時には使ったことがないので、どれほどのものかわからないが、しないよりはマシだろう。


「Sorry Japanese! I'll at least put him to sleep with one blow!With the fist of the continental boxing champion!(悪いな、ジャパニーズ! せめて俺が一撃で眠らせてやろう! ボクシング大陸王者の俺のこの拳で!)」


ボブは拳を振り上げてパンチを放ってくる。

ここで相手を殴ったりすると法廷に出向くことになった場合、不利になりそうだし、CEOたちが満足するわけもないので、とりあえずこのまま避けずに殴られるしかない。

せめて痛みがなければいいのだが。


「O,oh my arm!(お、俺の腕があ!)」


ボブは俺を殴りつけると、腕を抱えてその場に蹲った。

自分の拳の破壊力の反動がそのまま腕に返ったらしい。

痛くなかったのはよかったが、これは相手に手を出したことにならないか心配になってくる。


「Bob, you underestimated your opponent. It is a technique of Japanese Karate Aikido. But it doesn't work against me, the mixed martial arts continental champion! If the opponent parries the attack and counters, all you have to do is attack with a power that can't be parried!(ボブ、抜かったな。それはジャパニーズカラテーー合気道の技だ。だが総合格闘技大陸チャンピオンの俺には効かないぜ! 攻撃を受け流して、カウンターを喰らうなら、受け流せない威力の攻撃をすればいいだけだ!)」


今度はジェイコフと言われているボディガードが走って勢いをつけて殴りかかってきた。

体を殴りつけられると、ジェイコフは反動で宙を舞って飛んでいく。


「Jakooooov! !(ジェイコォォォフ!!)」

 

「What a guy! ? You're not human!! Y、you’ll be sorry for this!!(なんて奴なの!? 人間じゃない!! お、覚えてなさいよぉ!!)」


ボブの悲鳴が聞こえると、CEOが何がしか叫んでリムジンに逃げ帰っていく。

ボディガード2人を取り残して走り去っていくと、腕を抱えたボディガードたちが走ってその後を追いかけていた。


「た、助かった……」


「なんだったんですかあの人たちは……」

 

俺が大企業の人間たちの圧から解放されて安堵の息を吐くと、困惑した顔でヒカリさんがそう呟いた。


「とりあえず一度事務所に帰ってこのことも報告しよう」


「わかりました」


ヒカリさんに証言を頼むと俺はヒカリさんを乗せて車を事務所に向かって走らせた。



ーーー


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