第3話 世界に見つかった逸材
「え!? アスカちゃんのマネージャーさんなんでここに!?」
「ちょっと!? 先輩、なんで遊んでるんですか!?」
思ったよりも強い個体だったのか、当初の予想よりウォータースライダーが長く続き、そろそろ飽きたなと思うと、大広間の入り口あたりから叫び声が聞こえた。
見ると喫驚した様子で、我が社のNO、1配信者のヒカリさんとそのマネージャーである大火が立っている。
まだS級ダンジョンのメンバーも選ばれてないのにどうして?だとか、マネージャーも参加してのダンジョン配信はNGなのになぜ大火が?だとか、いろいろな疑問が出てくるが、とりあえず、配信者であるヒカリさんよりも目立つことを避けるために、光魔法で光球を作って目眩しする。
・開幕ぶっ込んできて草
・そうか、破滅の扉はダンプロの保養施設だったのか(白目)
・ダンプロ『社員ならなんとS級ダンジョン『破滅の扉』でタダで遊べます!』
・遊べるどころじゃねえだろw
・遊べます(自分の生命で)
・帝愛グループかな
・マネさん発光し始めて草
・突如聖なる光に包まれるアスカマネ
・存在がセンシティブだったのか
・全身エチエチ人間で草
・エチエチの実の能力者、こんなところに居たとは
『ちょっとヒカリさん、ごめんだけど、俺にモザイクとボイチェン掛けて』
光魔法の目眩しも長く続かないので、カメラの範囲外に脱出するためのモザイクとボイチェンをしてもらうようにSNSでメッセージを送る。
ヒカリさんから処理を完了したとメッセージが秒で返ってくると、テラスネークの背中から跳躍して画面外と思われるヒカリさんの背後まで飛ぶ。
「2人ともまずいよ。こんな強行に配信したら、失敗したら命もない上に、最悪呪物を発見したら、今見てる人たちが全員亡くなるんだから」
「それでもこの配信は逃せないんです」
マイクで捉えられないほど小声で耳打ちするが、ヒカリさんは意思が固いのか、とりつく島もなくそう言って前に進み始める。
ダンジョン配信においては見た目も派手で目立つ上、俺の最弱魔法の白魔法とは対極にある最強の属性魔法と名高い雷魔法の使い手ではあるが、流石にダンジョンに潜った経験が少なすぎるため、A級ダンジョンのボスを倒せたのもかなりギリギリだった。
その瞬間の同接が100万を超えていたこともあり、事務所のテレビにも映されていたが、見ている社員が皆ヒヤヒヤしていた。
だというのに、魔力切れで魔法が使えないとはいえ、A級ダンジョンのボスモンスター三体は絶対に捌ききれない。
「先輩、どうするんですか?」
一歩踏み出すと、大火がそう尋ねてくる。
「もう止められないことはわかってるでしょ、先輩? ヒカリ本人もリスナーも乗り気だし、ここで止めれば、ダンプロもヒカリも炎上しますよ」
「そんなことはわかってる」
こうなってしまえば、もはや止めることなどできない。
残された選択肢は目立たない形で協力するしかない。
だが、ここで最初から協力するのは確実にその先まで攻略を続ける可能性がでかいので、リスナーとヒカリさん本人が諦めた方がいいと思うまでは放っておくことにする。
決して休日に介入された恨みからというわけではない。
「ハァ!」
方針を決定すると早速、戦闘が始まったようで、ヒカリさんの気合いの入った声と共に、テラスネークの体が躍るように跳ねる。
まだメガオークとギガマーマンは俺を警戒しているのか、額に汗を浮かべながら、こちらを見つめており、奇しくもヒカリさんとテラスネークの一騎打ちの状況が生まれたことで彼女にとって最善の環境が整っている。
・クソデカモンスター三体はダメかもしれんと思ったけど、オークとマーマン、ヒカリたその気迫にビビって攻めてな来なくて草
・いや先のマネさんが集中砲火したのに、ピンピンしとるのにビビっとるんや、ダンジョン攻略歴10年の俺にはわかる
・マネさんナイス!
・ヒカリたそ、各個撃破いけるし、ここ越えられるんじゃねこれ
・無理無理、テラスネークはなんも魔法使えん分、体力お化けやでヒカリたその魔力量だと倒せるかどうかも危うい
ドローンが読み上げるチャットの中に、ヒカリの活躍に期待する声と少数ながらも不安視する意見が見える。
俺が動き出すタイミングとしては大半のリスナーが無理だと悟った時だ。
ヒカリさんの負担が大きいが、事務所や関係各所に迷惑を掛けている分と思ってもらおう。
「重い!!」
大半のモンスターを怯ませることができる雷魔法でテラスネークが怯まないせいで、テラスネークの圧倒的質量から繰り出される攻めにヒカリさんが押され気味になる。
話によると雷魔法は非常に有効らしいが、出力を一定以上まで上げないと鱗に吸収されてしまうらしい。
それに気づければいいが、大きな体から繰り出される嵐ような攻撃を捌くのだけに手一杯で、そこまで頭は回らないだろう。
できれば助言したいが、それをすれば茶番になるためそれは不可能だ。
俺という不純物でヒカリさんが今まで構築してきたリスナーとの世界が崩壊する。
「これなら!!」
手加減などできない相手だと察したのか、ヒカリさんは使えるだけの魔力全てを込めて雷撃をテラスネークに落とす。
落雷の轟音と共に、テラスネークは口から煙を上げながら倒れる。
ヒカリさんは倒したと思ったのか、荒い息を吐きながら、魔力がゼロの状態で向かっていく。
まだ魔力による体の変容が足りないために、体内の魔力が見えないことで起きたミスだった。
倒れたテラスネークの体内の魔力は蠢いているーーまだ生きている。
テラスネークはヒカリさんの背中に向けて鎌首をもたげる。
・シムラやばい、後ろ!
・ヒカリちゃん、生きとるぞ、後ろ!
・後ろ!
・放送事故くりゅ?
後ろ!
ドローンが読み上げる声に関わらず、ヒカリさんは気づかずに、テラスネークの尻尾が至近する。
魔力切れで意識が朦朧とした状況であれをモロに食らえば、確実にヒカリさんは絶命する。
リスナーも恐慌状態だし、介入するタイミングはここだろう。
ヒカリさんと尻尾の間に身を滑り込ませると、ヒカリさんを抱えると同時に尻尾に叩きつけられる。
痛みはないが、派手に吹っ飛んで壁に体がめり込んだ。
ドローンの画面は煙の灰一色だろう。
光魔法を使って気絶したヒカリさんに回復を行うと、雷魔法の雷撃に擬態するために光魔法の灯りを伴いつつ、テラスネークにトップスピードで拳を繰り出す。
何かが割れる音と共に、テラスネークが地面にめり込み、絶命する。
その姿を確認するとすぐにドローンのカメラの電源をOFFにして一息入れる。
テラスネークを倒すのはなくても良かったが、ここまで見続けて締めがヒカリさんの敗北ではあまりにもリスナーが報われないと思った故のことだ。
おそらくリスナーたちには尻尾を喰らうと同時にヒカリが雷魔法で反撃し、同士討ちになったように見えただろう。
これで後腐れもなく終われたはずだ。
ーーー
S級ダンジョンの日本初配信は人気配信者のヒカリが無事にダンジョンより帰還したことにより、表向きには穏便に済んだ。
だがヒカリさんの配信を見ていたダンジョン攻略の実力者たちの間では、その配信にチラリと出てきた淳のことで持ちきりになっていた。
曰く、雷魔法とも見紛うような動きを最弱の光魔法の使い手だというのに披露できる凄腕ダンジョン攻略者。戦闘だけではなく呪物の浄化もできる破格の人材。
配信者としても攻略者としてもこれほどの逸材はいないと考えた実力者たちは考え始め、見つけたら自分たちの所属する事務所に引き抜いてデビューさせようと躍起になり始めていた。
ーーー
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今日の投稿はここまでで、明日掲示板回を投稿したいと思います。
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