現代怪奇譚
のんびりウラミ
第1話 ペット
ペットを飼い始めたのは二週間ほど前だ。
そいつは最近よく仕事の帰りに見かけるようになり、つい気になって話しかけてみたのがきっかけだった。初めのうちは警戒していたようだったが、徐々に馴れてきたようだ。俺を見かけると自分から近寄ってくることもあった。
もともとペットを飼おうとは思っていなかったが、なついてくれたのが少しうれしかった。よくこの辺りをうろうろしているので、飼い主が近くに住んでいるのかな。とは思ったものの、連れて帰ろうとしたらすんなりついてきてくれた。——それが二週間前。
俺が住んでいるマンションはそもそもペットが禁止だ。当然連れてくるときは、誰にも見られないようにしながら部屋まで連れてきた。幸い誰にも見つかってはいない。
部屋数も多くはないが空いている部屋もあり、壁も防音になっている。ちょっと動き回ったり鳴き声だったりは問題ないだろう。——と、はじめは思っていた……。
二日目までは特に問題はなかったのだが、三日目あたりから、なぜかここを出ていこうとするようになった。
誰かに見られたら面倒なので、俺はなんとかそれを阻止した。
何が不満なのだろうか? 部屋もそれなりだが用意したし、餌もわりといいものをあたえている。考えられるとすれば……やはり飼い主がいたのだろう。元の飼い主のところに帰りたくなったのか……。
四日目にもなると、とうとう騒ぎ出した。いくら防音とはいえこれではまずい。暴れられてもやっかいなので、俺は仕方なく猿ぐつわをかませ、ロープで縛り部屋へ入れてカギを閉めた。
これで大丈夫だろう。
しかし、それからが大変だった。
餌をやろうと猿ぐつわを外してやると、大きな声で鳴きはじめたり暴れたり……仕方なくエサをやるのはあきらめた。
こう暴れられたのでは仕事にも行けない。何日か休みをもらおう。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。今度騒ぐようなことがあったら体罰をあたえよう。何事もしつけが大事だ。
案の定。体罰をあたえてやったら大人しくいうことを聞くようになった。エサも少しではあるが大人しく食べている。最初からいう事を聞いていればいいものを。
だいぶ匂うようになってきた。
飼い始めてから一度も体を洗ってやっていないことに気づく。洗ってやろうと思い風呂場へと連れていく。ここで少し抵抗されたので、ちょっと強めに体罰をあたえた。大人しくなった。お風呂が嫌いだったのかもしれないが仕方がない。
シャワーで体を洗ってやる。大人しくはなったが、逃げだされては困るのでロープで足は縛ってある。
三十分ほどかけてきれいに洗ってやった。よし、これでいい。
昨日の夜のエサは大人しく食べていた。体がきれいになって満足したのだろう。今日は仕事に行かなければならないが、このぶんだと大丈夫そうだ。
おとなしくしてるんだぞ。と俺は声をかけ仕事に出かけた。
二週間ほど前から行方不明になっていた少女が、無事に保護されました。関係者の話によりますと、行方が分からなくなったのは、市内に住む十六歳の女子高生で、二週間ほど前から行方が分からなくなっており、警察と消防が捜索を続けておりましたが、本日正午ごろ、市内にあるマンションに住む住人が、隣の部屋からガラスの様なものが割れる音がする。と警察に通報があり、駆け付けた警察官が不審に思い、室内を捜索したところ、全裸でロープで縛られていた少女を発見。体には暴行を受けた跡もあり、警察は誘拐、障害の容疑で、この部屋に住む二十五歳の会社員の男を緊急逮捕しました。警察の調べに対し男は、「ペット禁止のマンションだとはわかっていたが、思わず連れて帰ってしまい飼うことにしただけ」「ただペットを飼っているだけで、なぜ誘拐や監禁になるんだ」などど意味不明の供述をしているとのことでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます