きみに捧げるチャイナ服

宵乃宮ナツ

第1話

 ここは中国の首都『北京』。その街をフルスピードで駆ける青髪の少女。後ろには追手が五人ほど迫ってきている。


 少女は再度、フードを深く被り直し細い路地裏へと入り込む。


 「おい! 止まれぇ!」


 「くそっ! なんてやつだ! 女のくせに速すぎる!」


 しかし彼女はこんな状況でも笑顔だった。むしろこんな展開は慣れたことのように、今の戦況を自分の好きなように落とし込んでいく。


 それでもピンチは訪れる。地下駐車場の行き止まりである。


 「へっへっへ。ようやく追いついたぜ。中国最大のマフィア組織『マフィアズガーデン』の一人娘。どんな声で泣いてくれるのか楽しみだぜぇ」


 スーツ姿のガタイのいい男たちは銃を片手に彼女に少しずつ距離を詰めていく。


 瞬間。


 その一瞬である。


 彼女はコートを一瞬で脱ぎ捨てた。コートの下から出てきたのは『青色のチャイナ服』である。まるでスケート選手のように華麗に回転し追っ手のほうを向き、そして男たちがそれを認識をした頃にはすでに遅かった。


 彼女は腰に入れていた銃を一瞬で取り出し引き金を引いた。


 彼女が二人の追っ手の心臓を正確に撃つまで、僅か一秒の出来事だった。


 残りの追っ手が動揺を隠せないままに動きが止まったすきに、一気に距離を詰めた。足、胴、顔面へと打撃を加えていく。


 その後、二人を銃で始末し倒れた最後の一人に詰めよる。


 「お前......ほんとにあそこのマフィアなのか......相当訓練された技術のように見えるがっ!」


 「静かにしてもらえるかなっ? これでも私は吠える犬は嫌いなのよ」


 ― ―弱い奴ほどよく吠える。


 片足で相手の顔面を押さえつけながら見下すようにあざ笑う。


 「いやぁ、僕の愛銃グロックは優秀だねっ! これで私はお相手さんの居場所も分かったことですし帰ります」


 「......殺さないのか」


 「あっはっは! 私忙しいんだよ。まあなんかの縁だし、これあげるよ」


 彼女は指輪の入った箱を追っ手の男に渡し、その場を去っていく。


 地下駐車場の外には一人の男と黒車体のBMWが停まっていた。


 「居場所は分かったのかい?」


 「うん。すぐに準備して向かっちゃうよ。」


 「ほんと、お前はどう考えても暗殺者だろ。」


 「そんなことないです~。私は純情可憐な女の子です~。」


 そういって車に乗り込み、その場を後にする。彼女は胸元からハート型のスイッチのようなものを取り出した。彼女はなんの前触れもなくそのスイッチを押す。その数秒後、地下駐車場が爆発したのはいうまでもないだろう。


 これがチャイナマフィアの娘。


 『シン』である。

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