学園編 Battle 2
合掌を終えた北村春来は、誰かに目撃される前にその場を後にした。
その五分後、死体となった山中を見に来たある二人組がいた。
「山中」
しゃがみこみ、名札を見て名前を確認する一人の男。
「リストにいた男ですよね」
その男と会話をする一人の少女。
「あぁ……今回の我々のターゲットだった男だ」
「同業殺しでしょうか」
「可能性はあるね。ただ」
「はい。死体とこの壁からして、恐らく能力者に殺された。それもかなり腕のたつ者に」
「何者か確認しようにも、この辺りには監視カメラもない上に、人通りも少ない」
「はい。なにか手がかりでもあれば..……ん?」
手がかりがないかと辺りを見回していた少女は、ある物を見つけた。
「これは、学生証。それも丸山高校の」
「丸山高校って、魔夜ちゃんと鷹村さんが通っている高校じゃないか」
「はい。私と鷹村先輩が通っている高校に、この男を殺した人が」
名前を確認する為、河西魔夜は学生証の表を見た。
「北村春来」
その頃、家に帰ってきた北村春来は手洗い等を済ませ自分の部屋へと向かった。
「あぁ……今日も疲れたな。父さんが帰ってくるのは深夜だし、お風呂入った後に軽く本読んだら、寝るか」
特になにかする気力もなく、食欲もなかった北村春来は、お風呂や読書を終えた後すぐに就寝した。
朝の七時、ケータイのアラームが鳴り目が覚める。
部屋を出る前に制服に着替え、歯磨きを済ませた後、朝食を取るためにリビングへと向かう。
「おお春来、おはよう」
「おはよう父さん。 そろそろ出るの?」
「あぁ……あと十分後には出るよ」
「朝早くて大変だよね」
「まあ大変ではあるが、春来の為にも頑張るさ」
「ありがとう、父さん」
「今日はヨーグルトか」
「うん、あまり食欲なくて」
「そうか、お昼はしっかり食べるんだぞ」
「うん。そこは大丈夫だよ」
言葉を交わし、時計を見た北村春来の保護者である洋介。
「時間だから、私はもう行くよ」
「もう時間か」
カバンを持ち玄関に向かおうとする洋介だったが、向かう途中振り返り、春来に話しかけた。
「春来」
「ん? どうしたの?」
「記憶の方は、どうだ。なにか、思い出せたか」
「……前と変わらずかな。思い出せない」
それを聞いた洋介は、なにかを言いかけたが、やめて別の返答を選んだ。
「そうか……今日も遅くなる。 先に寝ててくれ」
「うん。 分かった」
「では行ってくる」
「うん。 行ってらっしゃい」
洋介を見送った後、登校時間まで少し空きがあった為、少し読書をした後春来も家を出た。
「(記憶……いつ戻るのかな)」
北村春来は現在十六歳。だが生まれてから二年前の十四歳までの記憶の穴が、すっぽり空いてしまっていた。北村春来は記憶喪失だった。
道に倒れていた北村春来を現在の保護者である田中洋介が保護し、言葉や社会性を教え、今をなんとか生きている。そんな洋介を、春来は恩を感じ、洋介の事を父さんと呼んでいる。
「(今の俺があるのは、父さんのおかげだな)」
丸山高校に着いた春来は、ある集団を目にした。
その男子生徒達は、一人の女子生徒の事を見ていた。
その少女の名前は河西魔夜。学校随一の表の美少女だ。
「(今日もいる。てか人気だよなぁ魔夜先輩って。河西魔夜先輩、丸山高校が誇る表の美少女。そして裏の美少女、丸山高校三年、鷹村遥先輩)」
彼女達がなぜ表と裏で別れているのか。それは、河西魔夜は目立ち、鷹村遥は、あまり目立っていなかったからだ。
河西魔夜は明るい性格にムードメーカーで、運動が得意な女の子に対し、鷹村遥は不得意な訳ではないが、クラスの窓側の席で読書するのが趣味であり、その姿に涙を流す程感動した男子生徒達が彼女達を表と裏の美少女と勝手に呼んでいた。
そして学校に着いた河西魔夜を神を崇めるように、その場にいた男子達は挨拶をした。
「お、おはようございます魔夜先輩」
「おはようございます皆さん」
「今日もとても美しいです!」
「ありがとうございます」
そしてそれを見ていた北村春来。
「(すげぇ……まるで神様と話してるみたいな感じだな。まぁ確かに魔夜先輩ってザッ美少女って感じの人だからなぁ。俺の場合、あの輪に入る勇気もなければ話しかける度胸もない。まあ俺とは住んでる世界が違うし、ずっと関わることはないんだろうな)」
北村春来は自分の下駄箱に行き、上履きに履き替えクラスへと向かった。
そして自分の席に座り、窓から外を見ているとクラス内のある女子グループから話し声が聞こえた。
「ねぇ、昨日のニュース見た?」
「見た。 怖いよねぇ」
「(ニュース? なにかあったんだな)」
聞こえてしまった北村春来は、心の中で反応する。
「山中京也って人が死んじゃったやつでしょ?」
「そうそれ、死に方が凄くグロかったらしいよ」
「うわぁ、想像したくない」
「しかもその場所って、ここからそんなに遠くないんだよね?」
「うん」
「それにしても居眠り運転で電柱に衝突して死ぬって、怖いよね」
「事故とは言え、ヤバすぎでしょ」
「(居眠り運転での事故、今回はそういう処理か)」
北村春来は、今まで数多くの非能力者に命を狙われてきた。
北村春来はそれられを全て一人でどうにかしてきた。
そしてそれを実行した後は、当たり前のように、目撃者がその死体を見つけ、警察へと連絡がいき、ニュースで流れる。
今回北村春来が殺した山中京也は、居眠り運転での事故と言う形で処理されていた。
「トラックが爆発するって、スピード早すぎるよね」
「だよね。帰る時周り見なきゃね」
「うん、ん?」
「どうしたの?」
「ね、ねぇ!」
「なに?」
「あれって」
「ん?」
その女子グループは、クラスに入ってきた一人の少女の方を向いた。
「あれって、魔夜先輩だよね」
「!」
「魔夜先輩!」
その声に、北村春来を除いたクラス全員が、河西魔夜に視線を向けた。
「あの~」
「(ん? 今誰かに話しかけられた。それも女の子。 いや……まさかな)」
北村春来は、女の子の声が聞こえたが、まさか自分に話しかけないだろうと思いこんだ。
「北村春来くん……だよね?」
「(あ、これ僕に話しかけてくれてる。にしても誰だろう。女の子の友達なんていないし、てか聞いた事ある声だな)」
北村春来は、声が聞こえた後ろへと振り向く。
「(って)え」
「この後、ちょっと……時間いいかな?」
「(え、えぇぇぇ!!!)」
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