北村くんは秘密主義

雨宮結城

学園編 Battle 1

「(僕は昔から、平和を愛するごくごく普通の高校生。クラスで目立つこともなければ頭が良い訳でもない。ホントに、ただただ普通。平凡と言えば、それは僕なんじゃないかと、自分でも思うぐらいだ)」


「なあ北村」


「__! あ……どうしたの田中君」


 クラスの隅っこの席に一人の北村に話しかける田中、クラスメイトだ。


「さっきの数学で分からない所あってさあ、ここなんだけど」


「そ……そうなんだ(なんで僕に聞いたんだ。僕数学のテスト平均点より下だったんだが)」


「北村頭良いだろ?」


「そ……そんなこと……ない……よ(バカにしてんのか、僕頭悪いわ)」


「嘘だぁ~……授業中先生に当てられてもすぐ答えてんじゃん」


「た、たまたまだよ(マジで偶然なんだって。たまたま前日に読んだ漫画に出てくる好きなキャラクターの誕生月が5月でそれを適当に答えたら合ってたんだ)」


 北村は授業中、常に漫画やアニメ、映画の事を考えていた。当然授業の内容も先生の話もまともに聞いていない。


 だがいつも、偶然が彼の味方をする。適当に答えたのにも関わらず、いつも正解する為、クラス内で北村は頭の良い人だと思われている。


 だがクラスの人とは違い、先生は逆に不思議に思っている。それもそのはずで、授業中の正解率はまさに百点なのにも関わらず、テストではいつも平均点より下だからだ。


 さすがにテスト問題には、偶然の力も手を貸せない。


「ここの答え分かるか?」


「え、え~と(これは逆にチャンスか?頭が良くないと分かれば、田中君も僕に聞いては来ないだろ)じゅ、十二、かな」


もちろんこの返答も適当だ。


「十二か、えーと十二、さてさて答え合わせ。ここの正解は、十二だ!」


「(え!)」


「やっぱスゲーよ北村!」


「お、お役に立てて、よ……良かったぁ~(マジかよ、適当に昨日読んだ漫画の巻数言っただけだぞ!)」


 このように、彼は正解を答える行為をずっと繰り返してきた。今日もまた、彼は正解してしまい、頭が良い人と言うイメージが染み付いていく。


 一日の全ての授業が終わり、帰宅部と言う部活動に所属していた彼は、すみやかに帰宅する。


「はぁ~」


 今日も頭が良い人物というイメージが広まったと感じ、無意識にため息をする。


「(今日も疲れた。なんでいつも答え合ってるんだろう。適当って凄いな)」


 下校する時、北村はいつも一人。コミュニケーション能力は平均以下、人付き合いも得意ではない。


 高校に入学し、自己紹介の時に上手く話せず

、噛み噛みで自己紹介を終え、高校デビューは失敗かと思われたが、授業中の正解率の高さのおかげで、なんとか話相手はできた。


 だが、六月になった今も、同クラスに友達は一人もいない。


 最初は一人の帰宅も悲しく思っていたが、六月にもなれば、徐々に慣れていき、今は当たり前になり、特になにも考えなくなった。


「(僕の能力って、偶然なのかな。う~ん、まあなんでもいっか)」


 北村の帰宅ルートは、皆と少し違い、同じ高校生などが歩いている大通りとは、少し外れて、あまり人がいない歩道を歩いて帰っていた。


「(友達百人できるかな。これ小学生の時に聞いた歌だぞ、今僕は高校生。百人なんて夢物語。十人どころか一人もいない。まあ人付き合いが苦手な僕の影響もあるけど、一人ぐらい、ほしかったな)」


 北村はいつも通りの道を歩き、いつもの様に一人頭の中で考え事をしていた。


 視界は良好、目に見える光景は良いが、聞くことの方は、いうまでもなく。


 そんな中、全速で北村の方に向かっているトラックが一台。


「(でも、ある意味できなくても良かったかもな)」


スピードが速くなっていくトラック。


「(だって)」


トラックと北村の距離、約十五メートル。


「(これの言い訳、思いつかないからな)」


北村の視界にトラックが映った。


「死ねー!!!」


北村に向け叫ぶトラック運転手。


「断る」


 その瞬間、北村は右手の人差し指と中指のみを伸ばし、それと同時に、北村を轢く所だったトラックが、なにかに当たったかのように、前から徐々にペチャンコになっていった。


 ペチャンコになったトラックは爆発し、北村は透明な何かに守られてるかのように、爆発の炎から身を守った。


「これで何回目かな。殺されかけるの」


 北村は能力を使い、周りに人がいない事は確認した。


「トラックを運転してたアイツは」


 トラックを運転していた人間の生死を確認する為、爆発している中、炎の中に入っていった北村。


そんな中、ドサッという足音が聞こえた。


「まあ、そりゃあ生きてるよね」


「はぁ……殺してやるぞ」


「ガスマスク、それのおかげか」


トラック運転手は北村を轢く直前に、トラックから飛び降りていた。


そしてあらかじめ持っていたガスマスクを被り、炎の中身を潜めていた。


 そしてトラック運転手はナイフを両手に持ち、構えた。


「ナイフ……ね。アンタ名前は?」


「答える訳ねーだろうが」


「ふーん……あっそ……う~ん……山中」


「! なんで俺の名前を!?」


「なんでって、服に名札あるし、用意周到そうに見えて、そこは気づかなかったんだね。あとその見た目からして、二十代前半ぐらいかな。仕事着だし、仕事抜け出して来たの?」


「お前には関係ないだろ」


「うん……無いよ」


「じゃあなんで名前なんて聞く!」


「え、そりゃあさあ、今から殺す相手の名前ぐらいは、覚えなきゃ、失礼じゃない?」


「! 舐めやがって!」


 北村の言葉に怒り、トラック運転手の山中は、両手のナイフを握りしめ、北村に襲いかかった。


「...…(おっそ)」


 山中の走る速さや腕の振りは、一般的な速さ。だが北村から見ればその動きは、まるでスローモーションを見ているかのように、とてもゆっくりだった。


「(このガキ、マジで舐めやがって、ピクリとも動かねぇ)」


 北村はトラックの時と同様に、二本指を伸ばし、心で語り始める。


「(山中さん)」


「(首にぶっ刺して、終わりだ!)」


「さようなら」


 その瞬間、山中の意識は飛び、山中の身体は磁石のエス極とエヌ極のように、壁に吸い寄せられ、勢いよく壁に張り付いた。


「即死(まあ当然か。山中さんは普通の人間だし)」


北村は死亡した山中に近づき、合掌した。


「...…(僕の名前は北村春来。普通の高校に通う、普通の高校生。でも僕には、誰にも話せない秘密がある。それは僕が、特殊な能力の持ち主であること。僕と同じように、特殊な能力を持った人間は、会ったことないけど、多分いる。そして僕の様な存在を殺す人間もいる。正体とかは全然知らないけど、山中さんのような人間だ。どうやら彼らは、僕ら能力者を裏の世界で知り、能力者リストに載っている者を殺して、多額の報酬を受け取っている。ゆえに僕は、誰が狙っているか知らない為、誰にも話せないし、言う訳にもいかない。秘密主義の僕は、超能力者として、これからの人生を、生きていく)」

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