鏡、鑑。

@Gpokiu

異常愛

「ねぇねぇ、この世で1ばんきれいなおんなの人はだれ?」


「あぁ、アサ。お前だよぉ、アサ。お前がこの世で1番きれイダヨゥ」


記憶が歪む。


「違う……、」


この世で一番美しい女性は誰?


「瑞希ちゃん。そう、瑞希ちゃんだ、この世で一番美しいのは……」


じゃあ、どうするの?


「瑞希ちゃん……、あの子さえ……。んふっ、んふふふふ……」




「ミキィー。あの女の子、ミキの知りあい?」


そう言われ、指さされた場所を向く。

そこには、同い年くらいに見える、ショートカットの、制服を着た女の子が立っていた。

こちらの方をじっと見つめていたが、少なくとも私は、その女の子に見覚えはなかった。


「ウウン、知らなーい。ユリの知り合いじゃないの?」


ユリは、私の幼馴染で、親友で、いわゆる陽キャで、クラスのリーダー的存在だ。

そんなユリは顔が広いので、てっきり知り合いと思ったのだが、


「え?違う違う!あんな子、見たことないもん。」


私たちがその女の子の方を見ても、一向に目線を外す気配がない。


「なんか……、ちょっと怖くない?こっち見過ぎでしょ。」

「うん、なんか……、怖いね。」

「うーん、もう行こいこ。なんか怖いし、スタバはまた今度でいいや。」

「う、うん。行こっか。」


その子は、私たちが移動している最中も、私たちから目を離さなかった。





『ショートカットでボブの女の子ぉ?』

「うん。多分、北高の子なんだけど、ジュンくん、知らない?」

『うーん。ショートボブの女の子ってだけだと、情報がなさすぎるなぁ。』

「まぁ、そうだよねぇ。」


ジュンくんは、北高1のチャラ男で、それはもう数多の女の子と、そういう関係を持っている。


(だから知ってると思ったけど、流石にショートボブってだけだとなぁ、)


『他になんか特徴はなかったの?』

「うーん、身長はそんな高くなくてぇ、えっとぉ、顔、可愛かった気もするかなぁ。」

『まだ曖昧すぎるなぁ。もっとこう、一眼でわかるような特徴、ないの?』


と言われましても、なんか地味〜な感じの子だったしなぁ。


『じゃあわかんないよ。もしかしたら俺が知らない子かもしれないし。』

「そっかぁ〜。ありがとね、ジュンくん。」

『ああ、いいよ。て言うかミキ、今度どっか』

「ばいばーい。」


ブチッ


うーん。誰なんだろ、あの子。気になるなぁ………




ゴシゴシ、ゴシゴシ


「おはよ〜、ミキ、何してんの?って、それ上履き?」

「うん……、上履き、私の。」


朝、学校に来て下駄箱を開けると、泥だらけの上履きが、私をお出迎えしてくれた。


「げ、これ上履き?何これ、誰かのイタズラ?」


にしては悪質すぎるだろう。少なくとも、こんなことをされるようなことをした覚えはない。

ふと脳裏によぎるのは、


(昨日の女の子……)


いやいや、まさかそんなこと……。

でも、じゃないとしたら、誰が、なぜこんなことをしたのか。


「ミキィ……、いじめとかじゃないよね?大丈夫?」

「いじめ?いや、そんなことはないはずだけど……。」

「ふーん。じゃあよかったけど、何かあったら、ウチに相談してね。」

「うん、ありがと。」


急いで上履きを洗い終えなければ。

はぁ、だるいなぁ。なんでこんなことに……、




「ねぇ。あなた、高木瑞希?」


帰宅中、後ろから声をかけられ、


(綺麗な声、)


振り返る。


「はい、そうですけど?」


と同時に気づく。


(!!!ショートボブ!?この子、昨日の!)


「な、ナに?」


動揺して、声が裏返る。


「瑞希ちゃん、とっても綺麗な顔してるよね?ふふっ。」

「は、はぁ。」


だからなんなんだ。


「私ね、知ってるよ。ミキちゃんにこれから起こること。」

「これから起こること?」

「うん。今朝、瑞希ちゃんの上履き、泥だらけになっちゃったでしょ?」


コイツか、と思った。


「ミキちゃん、聞いて。これからね、瑞希ちゃんに対するそうゆう行為は、どんどん激しくなる。今日は上履きだけだったけど、明日はお弁当かも。体操服かもしれないし、その綺麗にデコレーションしてあるカバンかも。」

「……何が言いたいの。」

「瑞希ちゃん。これは警告だよ。ミキちゃんが大変なことになる前に、助けてあげようと思って。」

「……あんたが何をしたいかわからないけど、こんな気持ち悪いこと、もうやめて。」

「………そっか。でも瑞希ちゃん、くれぐれも気をつけてね。警告はしたからね……。」


そう言い残すと、そいつは早足でいなくなった。




「もぉ〜!めっちゃ怖かった!」

『ほぉ、昨日の女の子がねぇ。』


家に帰った後、急いでジュンに電話する。


「そいつね、ショートボブで、なんかめっちゃ綺麗な声だったの。」

『綺麗な声……、高め?低め?』

「高い。高くて、なんかこう、透き通ったような声。」


褒めたいわけではないが、とにかくそいつを特定するため、ジュンに特徴を伝える。


『えーっとね。その子、神木亜沙かも。』

「カミキアサ?」


知らない名前だ。


『俺が実際に付き合ってたわけじゃなけどね、北高の声楽部に、ショートヘアーで、チビだけどめっちゃ可愛くて、すごい歌がうまい子がいるってウワサ。』

「……そんな噂、ジュンくんならすぐ飛びつきそうなもんだけどね。」

『おいおい、前にも言っただろ。俺は背が高い子が好みなの。あいにくロリは守備範囲外なんでね。』


別に、同じ高校生なんだからロリってわけじゃないだろ。


「まあ、わかった。ありがと。」

『別にいいよ。って言うか俺が聞きたいのはなんで昨日』

「ばいば〜い。」


ブチッ、ツー、ツー、ツー


カミキアサ。名前はわかったけど、だからどうするとゆう話だ。


(どんどん激しくなる、かぁ。)


あいつの言うことが本当なら、面倒くさいことになったなぁと思う。


(まぁ、もし今後も続くようなら、早めに先生に相談して、解決でしょ。)


私は、そう気楽に考えていた。




恋は、罪悪だ。

それは、人を不幸にする魔法。

一度魔法にかかれば、永遠に醒めることはない。

でも、この魔法をかけたいと思ってしまう。

その人を、不幸にしたとしても。その不幸を一緒に背負って生きていきたいと思ったから。

きっと、許してくれるよね。私たち、友達だもん。




(なるほど……。)


学校に来ると、すぐに異変に気づいた。

机の上に置かれた、細切れの教科書たち。


「ミ、ミキ?大丈夫?」


過呼吸になる。

私は、勢いよく教室を飛び出した。

西校舎の2階。そこに声楽部がいつも朝練で利用している、音楽室がある。


(カミキ、アサ……)


ガターン!


勢いよく、音楽室のドアを開け、カミキアサを探す。

ショートボブで、チビの、顔の整ったやつ。


(いた。)


カミキアサに向かっていく。


「あ、瑞希ちゃん。おはよぉっ!?」


腕を引っ張って、音楽室の外に連れ出す。


「私、こんなことやめろって言ったよね。」

「こんなこと?ああ、またやられちゃったんだね。」


白々しい。


「だから私、警告したでしょ?これからも続くって。」

「だから何?警告したら、なんでもしていい訳?」

「うーん。瑞希ちゃん。瑞希ちゃんはね、何か大きな勘違いをしてると思うんだ。」

「何?」

「それはね、私のやったことじゃないの。」


いきなり何を言い出すかと思ったら、自分が無罪だって言いたいの?


「そんなの、信じられるわけないでしょ。」

「でも、違うものは違うんだよ。そもそも瑞希ちゃんは、なんで私が犯人だと思ったの?」

「それはあんたがいきなり私がやられたことの内容について、話し始めたからでしょ。」

「それだけ?」


「それだけ?」、って


「それで十分でしょ!?そうじゃなかったら、なんで違うクラスの、関わったことのないやつのいじめの内容を知ってるのよ!」

「なんで知ってるかって言われたら、それは……、おっと、もうこんな時間だ。教室に戻らなきゃ、瑞希ちゃん。」

「もうっ!」


私は、カミキから手を放し、教室に戻る。


「瑞希ちゃん、最後に。」

「?」

「明日、朝早く学校に来てみて、確かめてみたらいいよ……。」




結局、その日の放課後に、カミキと会うことはできなかった。


「マジでキモくない?そいつ?」

「うん、マジでキモいと思う。」

「でしょ。もう、何が目的であんなことしてるんだよ〜。」

「そうゆうやつはマジで頭おかしいから、きっと私たちには理解できないようなことだよ。」


今日起きたことを、ユリに話す。


「ミキ、マジで大丈夫?ウチがそいつ、とっちめてこようか?」

「ユリ〜。持つべきはいい友だよ〜。」

「はは……、ありがと〜。」

「でも、大丈夫。私だけで解決するから。絶対許さない。」

「気合い入ってるね〜。でも、マジでヤバくなったら、ウチ呼んでね。絶対。」




人間、愛されることだけが全てではない。

そもそも、「愛される」にも様々な種類があるし、必死になって「恋愛」をする必要もないのかもしれない。

でも、愛してしまったのだから。

愛されたいと思うのはおかしなことだろうか。

きっとわかってくれるよね。おんなじ人間だもん。

恋は、罪悪なんかではないはず。

それでもダメだった時は、

一緒に死んでくれる?

きっとわかってくれるよね。おんなじ人間なんだから。




(今日こそ、あいつの正体を暴く!)


あいつの言われたとおりにするのは癪に障るけど、いつもより早く学校に登校する。昨日は放課後ギリまであいつを探していたから、今日またやってくるとしたら、朝にやってるはず。


学校に着く、そこでふと気づく。


(あ、ユリ、来てるんだ。)


なぜだろう。


(やってるとしたら、教室?)


何か、違和感がある。


(みんな、意外と早く来てるんだなぁ。)


もし、あいつが犯人だとして、


(あいつがいたら……)


他の生徒にバレずに、そんなことができるのだろうか。

朝早くに、教室に来て自習を行なっている生徒はいる。

当然、私の教室にも。


(もしあいつがいたら、写真でも撮って、先生に晒してやる。)


違う教室の、知らない生徒が、いきなり教室に入ってきて、クラスメイトの教科書を取っていく。

私に伝えないことがあるだろうか。

確かに、私の友達に、朝早くに自習しに来るような生徒はいない。


(私のことを嫌いな生徒が、わざと隠してるのか)


あるいは、




「ユリ?何してるの?」


それ、私の体操服なんだけど、


「ユリ……?」




『ユリ。私たち、ずっと友達でいようね!』


……うん、そうだね。


『ユリ、どうしたの?なんか元気ない?大丈夫___




「あんたのせいでしょ!!!」


苦しい……


「放して、ユリ……」

「あんたがずっとずっとずっと私の思いに気づかないからぁ!!」


ああ、ユリ、こんな力強かったんだ、


「苦しいよ……ユリ……」

「あんたがずっと、友だちでいるとか言うからぁ!!」


じゃあ、ちゃんと伝えてよ……


「ウチはミキのこと、こんなに思ってるのに!!」


私だって、大切に思ってるよ……


ただ、少し違っただけ。あなたと私は。


(あぁ、やばい。これ、死ねる……)


助けて……


「瑞希ちゃーーーん!!!!!」


(カミキ……?)


「その手を放せー!!!」

「うわっ、誰だよ!お前!」

「いいから、はなせー!!」


ドンッ!


カミキが、ユリに体当たりする。


「はぁ、はぁ、はぁ」


首から、手が放れる。


「瑞希ちゃん、大丈夫!?」

「あんた、なんで?」

「それはね、瑞希ちゃん。私が瑞希ちゃんのことを、愛してるからだよ!」



??????



「……そうじゃなくて、なんでわかったのってこと。」

「え!?ああ、そっちね!まあ、それは後で話すから!」


ユリが立ち上がる。


「あんた誰!?なんで邪魔するの!?」

「お前こそ!自分が何しようとしてたのか、わかってるの!?」


なんか、ドラマの1シーンみたいになってきた。


「そこ、どいてよ!ウチはミキと話してたの!」

「嘘つけぇ!完全に首絞めてたじゃないの!」

「うぐっ、」

「そう言う奴にはぁ、」


すぅーーーー………


「せんせぇーーー!!!!助けてーーー!!!!」


コイツ……、

はぁ、とりあえず、助かってよかった__




『ミキちゃん……、私、ミキちゃんのこと……好き、なの。』


うん!私もユリちゃんのこと、好き!


『……うん。ありがとう、ミキちゃん。』




___おはよ、瑞希ちゃん。」


神木……、


「……おはよう。」


保健室だ。


「瑞希ちゃん、急に倒れちゃうから、焦ったよ〜。」

「うん。」

「……瑞希ちゃん。ユリさんはね、本気で瑞希ちゃんを苦しめたくて、あんなことしてたわけじゃないの。」

「……、」

「ユリさんはね、瑞希ちゃんのことがずっと好きだったの。友達的な意味じゃなく、恋愛的にね。」

「うん……、」

「でも、瑞希ちゃんはいつまで経ってもその思いに気づかなかった。そこで、ユリさんは考えたわけ。瑞希ちゃんがいじめで苦しんで、誰かに助けを求めた時。その時に、私が手を差し伸べてあげたら、瑞希ちゃんは、私のことを好きになってくれるんじゃないかってね。」

「そうだね……。」

「瑞希ちゃんのせいじゃないよ。でもね、私、ユリさんの気持ちもわかるかも。」


そういえば、神木、愛してるだのなんだの言ってた気がする。


「私ね、瑞希ちゃんのことが好きなの。」

「……いきなりだね。」

「瑞希ちゃんからしたら、そうかもね。」


そうだ。いつも、周りはいきなりなことばかりだ。

なぜか、私には伝えられずに、全てが進んでいく。


「ありがとう、言ってくれて。」


伝わらない思いは、どちらの責任だろうか。


「どういたしまして。」


ただ、今伝わった思いを大事にしようと思う。




ごめんね、ユリ。私、鈍感だから、ユリの気持ち、全然わかんなかった。

だからね、私。ユリの気持ちを理解したいの。

こんなのは、罪滅しになるかわかんないけど。もしかしたら、もっと苦しめてるだけかもしれないけど。

そしたらさ、また、友達からやり直そうよ。ユリ。




「んふっ、んふふふっ」


全部、思い通りだ。

瑞希ちゃん。ごめんね?いや、謝るべきはユリちゃんの方かな?

でも、私のことは恨まないでね。


私、ずっと前からあなたのことを知っていたの。あの日、あなたの友達に見つかっちゃって焦ったけど、でも、その時気づいたの。

ユリちゃん、瑞希ちゃんのことが大好きなんだね。

なんではやく気づいてあげないの?かわいそうだよ。かわいそうで、かわいそうで。

でも、だから奪いたくなったってわけじゃないよ。本当に。


瑞希ちゃんは、本当に可愛いね。

無知で、純粋で。

だからこそ、あなたに惹かれる人はいっぱいいるの。

でも、瑞希ちゃんは何にも気が付かない。

相手が気を遣ってくれるから。相手が理解してくれるから、

あなたは、相手のことを何にも知ろうとしない。


綺麗で、純白のお姫様は、毒林檎を食べて眠っちゃうの。

でも、白馬の王子様がキスをして眠りから醒める。


瑞希ちゃん。私ね、本当は全部わかってたの。あの日、瑞希ちゃんを助けれたのも、偶然じゃなくて、そうなるように待ってたの。

でも、私のことは、恨まないでね。




わたし、おとおさんのこと、だいすき!


『ああ、ありがとう。お父さんも、アサのことが大好きだよぉ。』


大きくなったら、おとうさんと結婚する!




恋は、人に呪いをかける。

誰か、この呪いを解いてくれないだろうか。

この呪いから、目を覚ましてくれる白馬の王子様はどこにいるの?

そしたら、王子様も一緒に引き摺り込んであげる。

恋するって、そう言うことでしょ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡、鑑。 @Gpokiu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る