姉、戻る(6)
……という捨て台詞を残して去っていった国外追放中の姉が、なぜか今、目の前に立っている。
追放から一年。
殿下の『変わってほしい』という切実な願い叶わず、少しも反省のない顔で。
それどころか、まさかの『悪化』という悪い方向への変化を遂げて。
おまけに――。
「ルシア。君が追放されたことも、この国が荒れていることも、なに一つ君の責任ではない。そのことを、この僕――オルディウス帝国第一皇子、テオドールが保証しよう!」
なにを血迷ったのか、隣国皇子なんてものまで引き連れて。
フィデル王国、王宮の回廊。
仮にもよその宮中で、隣国皇子テオドールは姉を抱き寄せて顔を上げ、周囲に聞こえる声で高らかに言い放った。
「宣言しよう。彼らは、自らこの結果を招き寄せたのだと。見た目が可愛いだけの無能な妹に騙され、聖女である君を追放した報いを、彼らは受けているのだ――と!」
…………。
…………。
…………えっ。
響き渡るテオドールの宣言に、私は危うく手にしていた書類の束を落としかけた。
この書類の束は、新しく雇用予定の魔術師たちの身辺調査結果の山だ。
姉が王宮で猛威を振るってから一年。このフィデル王国は、未だに人手不足に悩まされていた。
魔術師も足りない。魔術師を雇うための書類仕事をする人手も足りない。人手をよそからかき集めるため、また別の場所で人手が足りなくなる。
その不足を補うために、バークリー侯爵家は相当の私財を投入した。
姉の責任は、バークリー侯爵家の監督責任。こちらがどれほど姉に手を焼いていたかなど関係ない。
同じ家のものとして、最低限、原状回復までは力を尽くさなければ周囲の人間は納得しないのである。
侯爵家は金で魔術師をかき集め、自らが保有する魔術師団も差し出して、それでもなお足りずに今は国外にまで魔術師探しの手を伸ばしていた。
領主仕事との掛け持ちで目が回るほど忙しい父に、母も寝込んでいられず病弱ながらも仕事の手伝いをしているという。
そして私は、人手不足と新規雇用の手続きで大忙しの王宮で、今まさに胃を痛めながら駆け回っているところ。
私は落としかけた書類を抱え直し、頬を引きつらせながら目の前の二人を見た。
――……まさか、その「可愛いだけの無能な妹」って……。
今! まさに!
お姉様のために後始末をしている、私のことを言っています!?
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