第20話 毒の姫 その2
動けるようになる――
それだけでは余りにも説明が足りない。しかし……。この状況下で『動く』と言うのなら、その意味を「二人を何処か安全な場所へと移動させて欲しい」と捉えるべきだろう。
こう言う場合、まず一番最初に思いついた行動を取る。これは剣技においての鉄則であった。その手が正しいか間違っているかなどは関係なく、その瞬間に動かない事こそが最大の愚策なのだ。
剣士である俺はその理屈に従って、レイラと同様に上空を旋回するワイバーン達に隙を見せぬように牽制しながら、迷うことなく二人が身を隠している岩陰へと滑り込んだ。
まだ
ただ気になるのはその青年から発せられる強烈な異臭であった。良くある
そんな青年は、どうも俺の到着を待ち望んでいたらしい。
「貴方があの娘のお兄さん?少し遅かったわね……待ちくたびれちゃったじゃない。」
青年は岩陰に駆け込んできた俺の言葉を待つことなく、そう言った。て、言うか……俺は一つの勘違いをしていた。青年と思っていた彼は、その言葉遣いと声色で分かる通り女性だった。
助けに来てもらったと言うのに高飛車な物言いが多少……。いや、かなり鼻に付いたりもしたが、それ以上に目鼻立の整った丹精な顔立ちと、薄汚れて異臭を放つ身なりとのギャップのほうが気になった。
そしてそのこと以上に……。
どこぞの高官の子息と見目麗しい物乞の女性と言う組み合わせが不自然を通り越して奇異にすら見え、そこには何かしらの事情がある事は一目瞭然であった。
しかし。
今の状況で、俺達が互いの事情に深入りしている暇はない。俺はさっさとこの二人を安全な場所まで連れて行き、一人ワイバーンを相手にしているレイラにいち早く合流してやらなくてはならないのだ。
既に目的の場所にあてはついていた。
少年は俺が背負うとして。問題はこの高飛車な娘がどこまで俺について来れるかである。旅装束の見た目通りなら難なくついてくる、だが高飛車な中身通りなら「走れない」などと言いかねない。
「なぁ、お前……あそこの岩の裂け目まで走れるか?」
俺は高飛車娘にそう声をかけた。走れるかでは無い。走ってもらわなければ困るのだ。
だが、その時
娘は突如として立ち上がったかと思うと背にした大ぶりの弓に矢をつがえる。そして、何を思ったかはるか上空を飛ぶワイバーンに向かってその矢を解き放ったのだ。
まさか、届くわけがない――
俺は、娘が
多分この娘は高貴の出なのだ。おそらく今は理由あって敢えて
そしてタイミングも最悪である。おそらくこの一射で俺達は、上空で様子を伺っていた奴らに目をつけられるはずなのだ。
しかし、娘が矢を射る姿は妙に様になっていた。さぞかし腕のある家庭教師に師事したのであろう。だがさすがに形だけでは……魔物を射るのに必要なのは形よりも威力なのだ。
だが、女の細腕にしては意外に威力もある……。
そして……。娘が射た矢は……あろうことかワイバーンの無防備な脇腹へと届いてしまったのであった。
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