第18話 飛竜 その9

 では、彼らの視線は俺を通り越して何を見ていたかと言いますと……


 ワイバーンだった。


 いや、ワイバーンは俺と妹がさっきチョチョイのちょいって倒したじゃん。って話なんだけど……。後ろを振り返った俺が見たものは上空を旋回する数十体の飛竜の群れだった。


「ねぇドーマさん。これっていったいどういう状況?」


 ワイバーンの事はドーマに聞けなのである。この場に今の状況を説明できるのは彼女しかいない。


「憶測ですが、おそらくさっき倒された個体が、最後に仲間を呼んだのではないかと。」


 サラリとドーマが言ってのけた。


「いや、確かに死に際に大きな声でで鳴いてたけど……それであの数が集まって来たっての?」


「だから憶測です。私も、さすがに専門家ではないので……。しかしこの状況はそれしか考えられませんよ。アレが集まってきたのは鳴き声のすぐ後ですから。」


 確かにドーマの言う通りだ。青春だとかなんとか言って呆けていた俺もようやく頭が回ってきた。レイラが飛び出していったのは、やり場のない気持ちに身を任せたのでは無い。


 このワイバーンの襲来に気がついたからだ。


 だったら、レイラはもうあのワイバーンの大群とバトルに入っているかも知れない。いくらレイラが強くともあいつ一人であの数を相手にするのは無理だ。


 ソレに気がついた瞬間。俺もレイラと同じようにワイバーンの群れに向って駆け出していた。残りの二人の弟子、エデンとドーマは俺を追っては来ない。だがそれで良かった。今の二人にこの状況は少々荷が重すぎる。


 駆出した俺に背後からドーマの声がする。


「そう言えば、さっきいい忘れていたことがあります。太古の昔からドラゴン種は一体で国一つに匹敵する力でを持っつと言います。つまりはドラゴンを一体倒す為には国が一丸となって総力を上げねば勝てないということです。もちろんそれでも勝てなかった例は沢山あります。ただ……その一国を滅ぼすとも言われる竜種の中にワイバーンも入っているのです。それは……」


「いや、もう全部言わなくてもいい。群れで襲ってきた時だと言いたいんだろ? でも構わんさ俺が行けばなんとかなる。だから、ドーマとエデンはどこかで隠れて待ってろ。」


「すまねぇ。おっさん。多分俺じゃ足手まといになるだけだ。」


 柄にもなく申し訳無さそうなエデンの声がした。


 でも謝る必要は無い。俺だって弟子達を危ない目にあわせたくはない。しかも目の前のワイバーンは、いまだ続々と集まってきているのだ。


 俺はエデンの言葉に片手を上げて答えた。もう稜線は目の前だ。そこを超えればその先には無数のワイバーンと妹のレイラが俺を待っている。


「師匠! 気休めにしかならないかもしれないけどさ、おっさん達は絶対に勝つぜ。だって、ワイバーンの大群は国一つを滅ぼすんだろ。だったら……俺も知ってるぜ。たった一人で国を滅ぼした人間をさ。」


 再び俺の背中から大きなエデンの声が聞こえた……。


 まったく師匠だなんて砂漠に雪でも降るんじゃないの? でもさ、こう言う時だけ師匠呼ぶなよ……。 いつもとしか俺のことを呼ばないお前が突然そんな事言うと、今から俺が死にに行くみたいじゃ無いか。


 しかし……


 俺はその言葉に、思わず笑ってしまった。


 そう言えば。確かにそんなやつもいた……。


 そして。


 それに加えて、今回はそいつの師匠も付いてるときた。正直言って負ける気がしない。だから二人共。アイツラは俺達兄妹に任せとけ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る