ー通学路は旅路となり帰路となるー

 目的地など何もない。

日は暮れて、街灯が点き始めたので、夜七時くらいといったところだろうか。

 私は、人目のないところないところと歩を進めていたら、いつの間にか山の中に迷い混んでしまっていた。

 雨のせいで足元はぬかるんでいて、滑って足を挫きそうにもなった。

暗いからよくわからないが、きっと制服も泥だらけになるくらい、険しい道に入ってきた。

--少し、疲れたな……

 私はその場に座り込んだ。

誰も見ていないのだから、地べたに座って汚れても今更である。

 そういえば、お腹も空いてきた。

お母さんが作ってくれたお弁当以降、何も食べていない。

 自分で選んだ道だが、お母さんの優しさを思い出して少し後悔する。

そろそろ心配して、警察にでも連絡をいれているだろうか。

 私は溜め息をつく。

 五月で暖かくなってきたと言っても、雨に濡れた身体は芯から冷えてきた。

 山の中は天然の木葉の屋根で、少し雨よけができた。

 見上げると、空は見えず。雨なので星も見えず。

でもここ最近、ずっと下ばかりみていたので、うつ向き加減から前向きになった気がする。

 次に前を見ると、少し先に岩肌がむき出しになった小さな崖があった。落石注意の看板が目を凝らすと見える。

 私は何故かそこに引き寄せられるかのように、ゆっくりと立ち上がり、岩肌へと近づいていった。

 街灯はとうになくなり、辺りは真っ暗だが、近づくと若干の風景は感じ取れた。

 濁りのない綺麗な水。

岩肌からは、そんな湧き水が流れていた。

 私は透明な湧き水に指をつける。

山からの湧き水は酷く冷たく、でも柔らかかった。

--もう疲れたのだ。

 だから、もう最期にしようと、この人気のない山の中に入った。

でも、ここには人の手のおよんでいない、綺麗な自然があって、こんなふうに綺麗な水もあって、綺麗な空気が漂っている。

 透明な水から指先を離す。なんだか、少しだけ心が透明になった気がしたから。

--もう少しだけ、生きてみようかな。

 適当に歩いてきた山道を私は戻る。

辺りが白むにはまだ早い。まだ夜は始まったばかりで、帰り道などわからないが……足元には透明な水が帰り道を示してくれていた。

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