第9項
西日が部屋を橙に染める。
服を脱ぐことも、束ねた髪を解くこともせず、ベッドに横たわる。
両手を広げて、十字をかたどる。
橙の幻想的な雰囲気がいびつな十字架を神秘的なものに変える。
眩しさから目を背けるよう、首を横にひねる。
飲み終えたまま放置されたコップが机の上に置かれている。
もうすっかりグラスの汗は乾いていた。
グラスごしの薄ぼけたピントは部屋を抽象的な空間として映す。
薄曇りの空間、不安定さと一体化しそうになる自分を現実世界に必死に留める。
考える。思いを巡らす。思い出すのは後ろ向きなことばかりだ。
「いつもこうだ。やってみても結局だめなんだ。自分は変われない。」
自己嫌悪が体中を支配する。
そんな時、ふと、あの日の言葉を思い出す。
「ここはきっとまだ途中なんだって信じたい。」
浮きも沈みも結果ではない。事実ではあるが、過程でしかない。
何も終わっていなければ、何も始まっていない。
気づいた頃、十字架の神秘性はすっかり失われていた。
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