第9話 五月病

 多くの人が経験しているであろう、5月病。

 例外なく、私も発病した。


 18歳の社会人。

 いつまでも学生気分ではいられない。

 でもまだ大人ではなくて、すごく中途半端な年齢。


 本来、すごく内気で人見知りの私は、入社以前から、ずーっと緊張しっぱなしだった。


 電車通勤に関しては、学生時代も電車を利用していたから苦ではなかったけれど。

 環境の違いに、まだ完全には慣れていなくて、毎朝つらかった。

 辞めたいとは思わなかったけど、会社に向ける足は重かった。


 会社の最寄駅の目の前には、マクドナルドがある。

 薄給の私には贅沢だけど、たまに「朝マック」をする日があった。


 マックの二階にあるカウンター席からは、駅のホームが上下線ともに一望できた。

 電車が入線すると、ホームは人で埋め尽くされる。


 その人波が少し引いた頃、地下の改札からはき出される人の群れが、階段を上がって地上に散らばっていく。


「たくさんの人の、たくさんの一日が始まるんだな~」なんて、ボンヤリと見下ろしながら、オレンジジュースを飲んでいた。


 その頃の私は、まだコーヒーの味を知らない。

 もちろん、飲んだことはある。

 あんな黒くて、苦くて……なにが美味しいのか、全然解らなかった。


 でも、その “大人の飲み物” への憧れが、一番強い時でもあった。


 何気なく利用していた、ごく普通のマクドナルド。

 後に、私の人生に、たくさんの想い出を残すこととなるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る