逢瀬は、プラットホームで。
椎名美雪
第1章
第1話 研修期間 <すべての始まり>
<1992年 春>
この物語の主人公――私こと、
美雪を採用してくれたのは、東京の端に本社を置く、社員数約300名ほどの中小企業。電機メーカーの【
今年の新入社員は、総勢14名。
そして只今、1ヶ月の研修期間の真っ最中。期間内は、更衣室から会議室へ一直線という日々。いつも、同じ会議室で過ごしていた。
その他には、研修施設で1泊のオリエンテーションや、近郊の事業所などの関連施設の見学。とても充実した、有意義な研修をしてもらえる。社会人としての“イロハ”を教わり、叩きこまれたのも、この頃だ。
毎日のように詰めていた会議室は、本社屋の2階。建物は、かなり古くて寒々しい。
光が差し込まない階段や廊下は薄暗く、電球に小さな傘をかぶせただけの、あまり意味を成さない照明。社屋だけを見たら、絶対に入社を止めていた雰囲気だ。
社内研修での“目玉”は、各部署による、部の紹介。30分毎に入れ替わり、資料や自社製品を持ってやってくる。研修で一番盛り上がったのは、技術部による説明だった。若い男性社員が勢揃いで、新人の女子が色めき立ったのは、言うまでもない。
私の隣に座っている
次々に回されてくる製品サンプルを弄りながら、何がそんなに可笑しかったのか……。淳子ちゃんと私は、意味不明なツボにはまってしまい、俯き加減で、必死に笑いを堪えていた。
なにしろ若い頃は、“箸が転がってもおかしい年頃”だから。
目まぐるしく人が入れ替わり、手元の参考資料も増えていき、新人には疲労が見えてきた。――ようやく最後の部署。
(これで終わる……!)
気を緩めたのも一瞬で、次の瞬間には背筋がピンと伸びた。
制服姿の男性社員が続いていたせいだろうか。会議室へ入ってきた、スーツ姿の人に緊張。最後は、会社の花形・営業部。やってきたのは、女性2人と男性1人。
さっきまでの賑やかさが嘘のように、室内はとても静かになった。淳子ちゃんも、緊張の面持ちだ。
私は、子供の頃からおとなしく、自己主張など出来ないタイプ。営業に関わる仕事は絶対に無理だし、そもそも考えた事がない。でも…営業にいる人って、バリバリと仕事が出来そうで、カッコいい印象がある。自分とは正反対の場所、スタイルに、憧れもあった。
専門的な用語が出たり、自社製品の事を言われても解るはずがないのだが、息を呑むように頷きながら、真剣に耳を傾けた。
初めて、仕事をすることへの“緊張”を、感じた瞬間かもしれない。
研修期間を共にした同期は、本当に個性豊か。正直に言って、学校では絶対に友達にならないタイプが多かった。
クラスの中心にいたであろう、明るくて元気いっぱいの子、目を惹く美人のお姉さん。お兄ちゃんキャラの大卒の男子、ネクラな雰囲気の男子…など。個性はバラバラだけど、「同期」という連帯感からか、男女問わずに、楽しい交友関係を築いていった。
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