黒月

第1話

ある公立中学校で理科を教えていたY教諭から聞いた話。


 彼は少年時代を北関東の山中で過ごした。学校へは山を下り麓の分校へ通う。分校のそばには小さな寺があり、その境内や墓地も格好の遊び場だ。

 あるときから、その境内にある小池のなかにおびただしい数のヒキガエルが繁殖のために集まるようになった。住職は「きっと水神の使いだろうよ」とさして気にもしていなかったが、女子などは気味悪がり、寺の境内で遊ぶのをやめたほどである。

 そうなると男子のガキ大将は友人を引き連れ怖いもの見たさにわざわざ足を運ぶ。Yも引き連れられその池を見に行った。

池を覆い尽くすほどのヒキガエルの群れ。これは女子でなくとも気持ち悪さを覚える。

ボチャン

ボチャン

ボチャン

嫌な水音が響く。

見るとガキ大将は池の中、それも蛙目掛けて石を投げつけている。逃げる蛙、石に当たって潰される蛙で池は混乱している。

当然数名の友人が制止するが、すでにこの遊びを楽しんでしまっているガキ大将には届かない。

ボチャン

ボチャン

と、不快な音を立てながらなお、池に石を投げ込む。

耐えきれずYが「用事があるから」とその場を立ち去ろうとしたその時、あまたのヒキガエルたちの目が一斉にギロリとこちらを睨んだ気がして一目散に帰路についた。


 翌日登校すると例のガキ大将は休みだった。風邪だという。

しかし、その後2週間以上経っても学校に来る様子はなかった。

家が近所だったYは担任教師より、プリントなどを家に届けるよういいつかった。

 家は静まり返っていた。インターホンを鳴らそうと手を掛けたその時、のそりと縁の下から黒っぽい何かが現れた。

一匹の大きなヒキガエルだった。ヒキガエルは縁の下から這い出るとギロリとこちらを睨んだ。その目は恨めしそうにじっとこちらを見ていたように思えた。Yはたまらず、手に持っていたプリント類を郵便受けに突っ込むと慌てて自分の家へと駆け出した。


 ガキ大将の亡くなった知らせを受けたのはその晩だった。高熱が一向に下がらず、県庁所在地にある大きな病院で見て貰おうかと、家族が相談していた矢先だったらしい。


 友人の死と、あのヒキガエルになんの関係があったかはわからない。

が、あれ以来種類に関わらず蛙を見ると冷や汗が止まらないという。

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黒月 @inuinu1113

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