第42話 『――全部君たちのせいだからね』

『認証、確認』


 条件はプレイヤーが外にいること、そして空が見えること。それによって例え今いる時代が違えど、ラファの魔法を参考に博士が開発した超時空ゲートによって、亜空間に格納されていた巨大な戦士が遥か上空から降下し始める。


「なんだ……あれは……!?」


 位置的に僕たちより下にいるダイハツが僕たちの遥か後方に見える『何か』に驚愕する。


 そう、あれぞ僕たちの勇者。


「『天空勇者メタトロンMk-II』……!」


 背中に付けられていた降下加速器によって僕たちを追い抜いたメタトロンは瞬時に減速のための逆噴射を開始。落下していく僕たちに向かって徐々に近付いてくる。


 見ればメタトロンの背中には大きなスペースがあり、それに合わせて僕たちが乗るバードボルテージバイクが変形する。


「ボルテージ、オン!」


 タイヤが折りたたまれ、まるでコクピット席のような姿になったバイクがメタトロンの背中へとドッキングする。その瞬間、僕たちと合体し完全体となったメタトロンの瞳に光が宿った。


 ズズゥン……!!


 メタトロンが地上に降り、その衝撃で地響きが鳴る。舞い上がる土と降り注ぐ財宝を背にゆっくりと立ち上がる。その威容は浮遊するダイナマイトで降りてきたダイハツすら喉を鳴らし、引き攣るような笑みで見上げるほど。


「それがお前の切り札か……!」

『……』

「その力……俺に見せて見ろ……! 『ビッグダイナマイト:オーバー』……!!」


 ダイハツの手から巨大なダイナマイトが放たれる。どんなものでも爆破させる威力を持つダイナマイトだが、メタトロンに当たる直前……僕たちを守るようにキャンピングカーがやってきて代わりに爆発を受ける。


「……!」


 しかし、爆発を受けてもなおキャンピングカーが壊れることはなかった。傷や窓が破損しようとも、まだ原型が残っていて動くこともできていた。


「行くよマナナン」

《はいデス》


 マナナンの言葉にメタトロンのコアが鳴動する。

 そして僕と同じ座席に座っていたマナナンが言葉を放つ。




《――『MIXフラガラッハ』、起動デス》




 跳躍する二つの塊。メタトロンの背にキャンピングカーが回り、展開されていく。腕へ、足へ、胴へと広がり、メタトロンの鋼の体を包んでいく。


 元からキャンピングカーには車体を展開してロボットをメンテナンスするための機能が存在する。その機能を使い、僕たちはメタトロンとキャンピングカーを合体させるのだ。


 当然、キャンピングカーにそのような機能はない。


 だがここに進化したマナナンがいる。

 水色のボディに金色の模様。更にはマナナンの背中から一対に伸びる銀色の機械の巨大補助腕がある。それこそマナナンが得た新しい力。


 ――マッドメタルゴーレムのコアを取り込んだ姿。


 これによりマナナンには周囲の金属を操り、強制的に合体させる力を手に入れた。マッドメタルゴーレムの浸食能力によりキャンピングカーがメタトロンの装甲となって合体していく。


 だがそれだけじゃない。


 周囲の金属財宝すら取り込んで、更なる装甲としてメタトロンを進化させていく。これが僕とマナナンとマッドメタルゴーレム……そしてメタトロンとキャンピングカー、ティル・ナ・ノーグの財宝を取り込んだ超戦士の姿。


 これぞ天空勇者。


『これぞメタトロン――』


 理不尽を超える理不尽の神。


『これぞMIXフラガラッハ・アームズ――』


 その強大なる存在の中から僕は言う。




『――全部君たちのせいだからね』




 曲が鳴る。


 まるで罪人を処刑する音楽のようにメタトロンの体内から音楽が奏でられる。BGMボルテージによりメタトロンの力も上がり、周囲に齎す圧力が増していく。


「くっ……っ、クク……! クッハッハッハ! 凄いなぁ……! 他の二人と戦い久しく感じてなかった威圧感……! それをお前相手から感じるとはなぁ……!!」


 だが。


「それが見掛け倒しでないことを祈るぞ……! 行け分身たち……!」

『『フルダイナマイト:OVERLOAD』』


 無数の分身たちが飛び掛かり切り札を発動しようとする。しかし、その前にメタトロンの前身から無数の針が飛び出して分身たちを串刺しにしていった。


「なんだと……!?」

『この装甲は全部取り込んだ財宝を変化させた物……つまりまた変化させて武器にすることもできる!!』

「だが分身を倒せても一度起動した切り札は止められない……!!」


 その言葉通り串刺しにされた分身から切り札が発動し、破滅の光がメタトロンを包んでいく。


 しかし――。


「な……!?」


 装甲が破壊され、溶かされても、メタトロンは無事。それどころ僅かな時間で消滅した装甲が元に戻っていく。言ったはずだ、この装甲は取り込んだ財宝から変化させたものだと!


『ティル・ナ・ノーグの財宝が僕らを生かしてくれる……!!』

「それでいてサブクエ産のアイテムは通常のアイテムよりも遥かに頑丈……確かにそのロボットを木っ端微塵に爆発させるには骨が折れる……」


 しかし彼はまだ諦めない。


「ならばその財宝をまとめて消し飛ばすだけ――」


 ダイナマイトを取り出す。

 だがその次の瞬間一筋の雫が空から落ちてきて、ダイナマイトの火を消火した。


「!? 雨だと……?」


 空を見上げると、そこには巨大な黒雲が猛スピードで渦巻く空が見える。おかしい、いくらこのゲームの中とはいえこうも急速に天気が荒れるなんてことは……と考えるに違いない。


 そう、普通なら。


 だけど、今この場には普通じゃない存在がいる。その事実に気付いたダイハツは、目を見開いて僕たちを見た。


「何をした……!?」

『――ただ音楽を』


 コクピットの正面に立てかけられている金色の竪琴。ティル・ナ・ノーグの財宝から見つけた吟遊詩人専用の楽器がBGMボルテージの曲と合わせて、僕の脳波をスキャンしながら独りでに音色を奏でている。


 金の竪琴は感情を操る。

 そしてそれは空の感情すらも操ることができる。


 天候を操る神が如き力。

 それこそがメタトロン。

 それこそがMIXフラガラッハ・アームズの力!


 周囲一帯に豪雨が降り注ぐ。

 最早並みのダイナマイトでは着火すら不可能。それでもダイハツは笑みを浮かべて次の対抗策を文字通り懐から取り出してくる。


「例え雨の中だろうと使えるダイナマイトが俺には……なにっ!?」

『言ったでしょ……全て君たちの責任だって』


 天候を操り、周囲の環境を変える。吟遊詩人として成長した僕のスキルによって金の竪琴による能力も増幅されていく。


「うぷっ……!?」


 豪雨によって生まれた洪水がダイハツを飲み込んでいく。水の中でダイナマイトを起爆させる以前の問題だ。荒れ狂う流れに呑まれて、今の自分の状態でさえ把握できないだろう。


「『フルダイナマイト:OVERLOAD』!!」


 瞬時に切り札を行使する判断によって、ダイハツを飲み込んでいた周囲の水を蒸発させる。そして浮遊するダイナマイトに乗り、洪水から離れる。


 そして見えるのは、生成された歌詞の道によって宙に行く巨大な神。その神が、胸に手を当てて一本の剣を生み出しながら引き抜く。


「なんでもありか……!」

『なんでもありだよ』


 剣を振り下ろす。だけどダイハツはその剣に対してもう一つの切り札を発動させる。


「『フルダイナフィスト:OVERLOAD』!!」


 これまでとは比べ物にならないほどの巨大なダイナフィストが剣とぶつかり合う。そして巨大な爆発によりダイハツは吹き飛び、メタトロンの腕も損傷する。


「ぐぅ……!」


 それでも。


 例え腕が損傷しても財宝によって再生していく。最早新しい切り札を出されても今のメタトロンを完全に破壊するには


『食らえ……!』


 手を上げる。

 その瞬間、黒い空に雷鳴が走る。


「まさか……!?」


 金の竪琴は雷すら操る!


「ぐあああああああああああ!!?」


 ピシャアアアン!! と轟雷がダイハツの元へと落ち、彼の体を黒く染め上げていく。だけどそれでも彼は死なない。


「くっ……!! 『ダイナマイトハート:OVERLOAD』!! 例え胸を貫かれても黒焦げにされても俺は死なんぞ……!」


 本当に彼はしぶとい。でもだからこそ彼が頂点プレイヤーと言われる所以だろう。スキルの発動を宣言したにしてはどこかに爆発が起きたような気配はない。だけどそのスキルの発動をした瞬間、彼の体は回復していた。


『……』

 

 恐らくは回復の効果を持ったダイナマイトによる蘇生。それも外側じゃなく体内からの爆発だと、先ほどのスキル名から推測をする。多分だけどそのスキルのせいで、マナナンの攻撃を受けても倒せていなかったのだろう。


『だったらやることは一つ』


 原型を保てないほどの攻撃を繰り出す。きっと頭を飛ばすぐらいしないと生き残るから徹底的にだ。


「うおおおおおお……!!!」


 ダイハツが繰り出す攻撃を次々と回避して、防御して、迎撃する。ダイハツの攻撃は最早火力不足に陥っている。


「ぐぅ……!」


 もう実力差があった戦いではなくなっている。


「これなら……!」


 頂点による理不尽ではもう覆せない。


『潰れてしまえ――!!!』


 彼に向かって足を振り下ろす。


「『フルダイナマイト:OVERLOAD』!!」


 悪足掻きのように切り札を繰り出す。

 しかし切り札を受けても消えはしない。


「『ビッグダイナマイト:オーバー』!!」


 爆発を受けてもビクともしない。


「『ガトリングダイナマイト:オーバー』……!!」


 決してその結末から逃れられない。


「『ダイナフィスト――」


 全部こうなったのは君たちのせいだから。


「――……ハッ」


 迫り来る絶対的な暴力を前に、彼は諦めて顔を引き攣らせた。




「化け物め……」




 その瞬間メタトロンの足はダイハツを踏み潰し、蘇生を与える暇すらなく粒子へと還させる。叩き付けた際に地面が大きく割れ、周囲の建物を倒壊させた。


『……』


 金の竪琴が曲が終わり、黒雲が散る。そして黒雲から差し込む光がメタトロンを照らし、豪雨によって浸水していた水も引いて行った。


 だけど。


 ガラ……ガラガラとタワーの方から音が聞こえる。


『――終わったのかな』

《もう、わっちゃあたちにできることはないデス》


 タワーが徐々に崩れる。

 それと同時にティル・ナ・ノーグの島が崩壊を始める。みんなはどうなったのだろう。ハツモはリワードを手に入れたのかな。ダナンたちはどうしたのか。


 それを今の僕たちに、知る術はなかった。




 ◇




 時は遡り、ハツモの視点へ。


 彼は今――。


「いい加減諦めろハツモォ!!」

「諦めるのはお前の方だグエッコー!!」




 何故か生きていたグエッコーと殴り合っていた。

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