第39話 《当然デス!》
『BGMボルテージがレベルアップしました』
『サウンドオブジェクトがレベルアップしました』
『サウンドビジュアライズがレベルアップしました』
『BGMボルテージ:SLv.3 → SLv.4』
『サウンドオブジェクト:SLv.4 → SLv.5』
『サウンドビジュアライズ:SLv.4 → SLv.5』
「オノマト爆弾!」
「『ダイナマイトウェーブ:オーバー』……硬いな……」
この戦いで僕が所持している吟遊詩人のスキルレベルも上がってきている。基本的にスキルレベルが5になれば、そのスキルの効果に変化や派生スキルが生まれる。
サウンドオブジェクトで生成されるキューブは『粘着』『移動』『拡縮』『代理行使』の性質を選べるようになり、それらを組み合わせることができるようになった。
一方同じレベルに到達したサウンドビジュアライズは生み出せる音の具現化に『自由変形』と『擬音属性』の機能が追加された。
「『びゅおおお』!!」
「くっ……風が……!」
サウンドビジュアライズの『擬音属性』は対応する擬音を具現化させることでその擬音に沿った属性による現象を起こすことができるようになった。『びゅおおお』は暴風の擬音。つまり暴風を起こすことができる!
「踏ん張れないな……」
浮遊するダイナマイトの上にいたダイハツが僕が生み出した風によって吹き飛ばされる。
そうして先ほどいた穴の上から地面に着地した彼は、僕に向かって楽しそうに笑みを浮かべた。
「楽しそうな顔をしやがって……!」
確かに僕はプレイ歴一ヶ月の初心者だ。
数々のサブイベントで成長する機会はあまりなかったけど、それでも僕はまだまだ成長できるし、戦いの中で成長しやすい。
つまり使い込めば使い込むほどレベルが上がっていくのだ。
「絶対倒す!」
僕は引き続きバードボルテージバイクに乗りながら、地雷原の上に生み出した歌詞の道を生成しながらその上を走る。
ダイハツと戦う上で注意すべき点は四つ。
一つ、様々な効果を持ったダイナマイトとそれらの効果を拡張、別の効果を付与させるジョブ:ボマーのスキル。
二つ、それによる周囲に設置された透明な地雷。
三つ、対応をミスれば即死レベルの広範囲攻撃がやってくる切り札の存在。
そして四つ目、それらの爆発に対する爆発耐性もしくは爆発無効を持っていること。
最後の二つのせいで実質、唯一の高火力攻撃手段であるロケランが使えなくなった。あと炎を噴出する機能を持ったマッドフレイムギターや炎を生み出す『ボーボー』の擬音属性も同様だ。
(つまり火気厳禁……!)
ダイハツの切り札の発動条件は、ダイハツの体に括り付けられているダイナマイトに火を付けること。例え一個でもダイナマイトに火が付いてしまったら同様に切り札が発動する。
かといって起爆させないように対応しても恐らく駄目。自分の切り札なんだから任意に発動できることも考慮すべきだ。
「『風の音撃』!」
「効かないなぁ……ダイナマイトだから……!」
「防御すらしないや……」
ダイナマイトだから云々の話よりそもそも吟遊詩人の初期攻撃スキルである『風の音撃』がクソ雑魚スキルだと思うんですけどそれは。
このスキルのレベル上げをしたいと思ってるけど、クソ雑魚過ぎるせいで使い道がないな……。
もう風による攻撃もサウンドビジュアライズでお株を奪われている始末だ。
まぁそれはともかく、これまでの攻防で僕はダイハツが持つ切り札について色々予測を立てていた。
「……恐らく」
切り札は一度発動条件を満たしたら自分では途中解除ができないはずだ。
階段でのチェイスの時、ヤスが投げた爆弾ひよこを前にゴスロリ少女が前に出てダイハツを守った光景が記憶の中にある。
また爆弾ひよこを前に彼自身も爆弾ひよこを寄せ付けないように対応した記憶もあるのだ。
ダイハツは爆発によるダメージを受けない。そこから爆発耐性ないし爆発無効があると考えられるというのに、彼は爆弾ひよこから身を守っていた。
多分だけど、あそこで爆発ひよこの爆発を受けていたら切り札が発動してしまう可能性が高かったんだ。そうなった場合、切り札が発動して味方が消滅するから、爆弾ひよこの爆発を受けないようにしていたんだ。
「いいな……その観察に徹した目……!」
「っ!」
「この戦いが終わったら対人コンテンツにのめり込む気はないか……!?」
「一つのコンテンツに集中する気はないよ!」
時間は有限。
楽しみは無限。
はっきり言って全てを楽しみ尽くしたい僕に一つのことを集中する余裕はない!
「ならこの瞬間を最大限に楽しもうか……!」
迫り来る無数のダイナマイト。
それらを前に僕は歌詞の壁を展開しながら防御していく。
「『インビジマイト:オーバー』……『ガトリングダイナマイト:オーバー』……『ホーミングマイト:オーバー』」
「まさか!?」
聞こえたスキル名からしてダイハツが発動したのは『透明』『ガトリング』『ホーミング』の三つ。だけどいずれもダイナマイトの姿が見えない。
ハッタリ? いいや、直感が違うと告げる。
恐らく『無数の』『透明化したダイナマイト』が僕を『追っている』と考えるべきなのだ。
:反則だろおい!?
:理不尽すぎぃ!
:それで今大会二位はおかしい
「『サウンドビジュアライズ』!」
歌詞の壁を展開し『自由変形』で歌詞の厚みとサイズを大きくする。それによって歌詞の壁の表面に無数の爆発が起きた。
「ほう……完全に破壊には至らないか……」
だけど僕はまだ警戒をし続けている。
試しに後方にサウンドオブジェクトのキューブを投げ入れると――。
ドカアアアンッ!!
――何もないところでキューブが爆発した。
「まだ残ってるぅ!」
「一応言っておくが……まだまだ透明なホーミングマイトは残ってるからな……!」
「この陰湿アフロ!!」
「湿気る訳ないだろこの俺のダイナマイトアフロはよぉ……!」
水を掛けて物理的に湿気らせてやろうか!
(――だけど)
実際問題として僕はいつまで逃げ続ければいいのだろうか。歌詞の道の下には地雷が、後方には追尾する爆発物が、更には虎視眈々と僕の隙を付け狙う陰湿野郎が。それらの対処に掛かり切りで反撃する隙が見当たらないのだ。
一つでも対応を怠れば即爆発だ。
(どうする……? 反撃方法は思い付いてるけど実行する隙が見当たらない……僕一人じゃ対応が間に合わない)
足りない。
選択肢が、レベルが、人が。
あと一個のピースが足りない。
「さぁどうする……まだまだ抗うか……?」
「っ……!」
「さぁ……さぁ……!」
その瞬間。
キキィーッ、ドンッッッ!!
「ぶげらっ……!!!!」
巨大なキャンピングカーが突っ込んできて横からダイハツを吹き飛ばしたのだ。
空を舞うアフロ。
衝撃によってきりもみ回転する爆発頭。
その光景を、僕は唖然としながら目で追った。
「えぇ……?」
キャンピングカーから機関銃が展開し、僕の後方に向かって撃つと透明なダイナマイトに当たったのか次々と爆発していく。
「うっ……! な、なにが!?」
《こっちデス》
「その声、マナナン!?」
キャンピングカーの窓に近付くと、窓を開けたマナナンが飛んで僕の乗っているバードボルテージバイクに乗り移った。
「どうしてここに!?」
《光が見えたので心配になったデス》
「だからって……!」
心配してくれるのはありがたいけど、それでもこんな頂点プレイヤーという頭のおかしい相手の近くに来るとか危険すぎる。
――だけど。
「……っ」
《どうしたのデス?》
色々言いたい気持ちがあるけど。
早くこの場所から離れて欲しい気持ちもあるけど。
「――ありがとう、マナナン」
《……デス!》
僕はマナナンに助けられたのは事実。そしてマナナンがいたことでようやく僕は見えたのだ。
――反撃するための、最後のピースが。
「……ねぇマナナン」
《なんデス?》
「僕に……力を貸してくれるかな?」
そんな僕の言葉にマナナンは。
《当然デス!》
両手を上げて了承したのだった。
◇
「すげぇ……衝撃だったな……」
流石頂点だろうか。あの巨大な質量による衝突でもダメージはなく、なんともないというように普通に立ち上がった。
「まさかの文字通りの横やりとは……このハプニングもまた戦いの醍醐味だな……」
無事ではあるが、無意識の内に調子を確かめるために肩を回すダイハツ。
「それで……?」
そして彼はゆっくりと笑みを浮かべながら僕らの方を見た。
「準備はできたのか……?」
『……』
ダイハツの視線の先。そこにいるのは、バードボルテージバイクに乗る僕と僕の前に座るマナナンの姿があった。
「ここで君を――」
《――倒すデス!》
「いいぞ……!」
僕たちの宣言に彼はいつも通りに笑みを浮かべるだけ。そういつも通り。きっと戦いに勝っても負けてもただ笑みを浮かべるだけ。
それならそれで。
「今だけ笑えばいいよ……!」
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