第5話 サブクエストクリア! ……えぅっ(白目)
「……おれは何を見せられてるんだ?」
あっさっきから僕の隣でフィリンさんたちのやり取りを見てたボスだ。
「……はぁ。つまりはあれか? そこの痴話げんかにおれらザルド・ファミリーが巻き込まれたと?」
あー……まぁ、そうですね。
「――ふざけんなよ?」
ですよねー。
いや、やばいよこれ。
血管がぶち切れる勢いで青筋を浮かべたボス。そしてそれと同じタイミングでかなりの数の手下が集まってきている。
はっきり言ってもうキャパオーバーだ。
「マフィアを舐めたツケ……払ってもらうぞ」
「っ……フィリンさんたちは早く転送を!」
「ご、ごめん! マーカーだれはもう気化してる!」
「え、じゃあ余りは!?」
「ルースに塗ろうとした時に全部使っちゃった!」
「えぇ!?」
そうか、塗ろうとしたら全部ルースに避けられたんだよね……。
いやそんなわけあるかい!?
「…………」
はっ!? ボスが背後で僕を睨んでいる!
「五体満足でここから出して貰えると思うなよ嬢ちゃん……」
「ぼ、僕は男です!」
「ふざけたことを抜かすなぁ!!」
「ぴぃっ!?」
ふ、ふざけてないもん!
正真正銘男だもん!
と、その時だった。
「――お待ちなさい」
『!?』
屋敷の二階側から凛とした声の女性が響いてきたのだ。
「か、カトリーナ!」
『お嬢!!』
黒く長い髪を揺らしながら白いドレスを着た女性が降りてくる。あれがザルド・ファミリーの令嬢。カトリーナ・フォーランド。
いや、え!?
ルース、あんな高貴オーラ抜群の人をナンパしたの!?
そりゃあ度胸あるって言われるよ……。
「勇敢な殿方との結婚を楽しみにしていましたが……」
ちらり、とフィリンさんたちに目を向けると彼女は微笑んだ。
「もう既に意中の方がいるというのなら、仕方がありませんわね」
『え!?』
「か、カトリーナ!? コイツの事を諦めるのか!? 数々の弾幕から身を挺してお前を守ってきたコイツを!? おれらが来るまで一人で敵対組織のボスと対峙していたコイツを!?」
ルースさん、やってることが主人公なんだけど!?
そりゃあここのマフィアが惚れ込むわけだよ!
「えぇ諦めますわ。私に人の物を盗む趣味はありませんもの」
お、おぉ……。
潔いというかハードボイルドというか。
女傑という言葉に相応しい性格をしてるよ……。
「ですが」
ぴしゃりと手の扇を畳むとカトリーナさんが楽しそうに笑みを浮かべた。よりにもよって僕の方へと目を向けながら……。
「せっかくのいいなと思った殿方がいなくなりましたし、その埋め合わせは後日いたしませんとね♪」
ねぇやっぱり僕のことを見ながら言ってるよ!?
「……はぁ、カトリーナがそう言うんなら仕方がねーなぁ」
ちょっと待とう。なんか解決する雰囲気みたいな空気になっているけど、これ僕またマフィアの問題に関わるパターンだよね? 絶対カトリーナさんから依頼が来るパターンだよね!?
「おい、とっととそこの若造を連れて行きな」
「は、はい!」
よし僕もこれに乗じて……。
「なぁそこの嬢ちゃん」
「……」
僕は男だから嬢ちゃんじゃありませーん……。
ガシィッ!
うわぁ!? 僕の頭を掴んできた!?
「いつか呼ぶから待っとけ」
「……(ふるふる)」
『ザルド・ファミリーのボス、ザルド・フォーランドからフレンド登録の申請が来ました』
『ザルド・ファミリーのボスの娘、カトリーナ・フォーランドからフレンド登録の申請が来ました』
――……すぅー。
これ、断っても……?
『(ギロリ!)』
『フレンド登録の申請を承諾しました』
はい、屈しました。
◇
「お、おい! 大丈夫か? 何かされたか?」
「イエ、ダイジョブデス」
いえごめんなさい。めっちゃ怖かったです。大丈夫って聞かれると大丈夫と返したくなるからやめてください。
「それで……フィリンさんたちは……?」
「あぁ、あいつらならそこだ」
フィリンさんのお父さんであるアイゼルさんが示した方に顔を向けるとそこには。
「フィリン……」
「ルース……」
「フィリン……!!」
「ルース……!!」
二人の世界に浸っているバカップルがいた。
「とまぁ、元の鞘に収まるって奴だ。しばらくはこんな調子だろうよ」
「……そうですか」
まぁ二人の仲がよくなったのは良いことだと思う。僕も手伝った甲斐はあったと思うよ、うん。後日面倒ごとに巻き込まれるのは別として。
「これも坊主のお陰だな。お前さんがいなければ二度とこんな二人の姿を見れなかったと思うぜ」
「ありがとうセンリ。君が来てくれてよかったよ」
「そ、そんな」
二人の言葉に僕は照れを隠すように顔を背ける。
……まぁ、悪い気はしない。確かに面倒だし、怖い思いもした。肝を冷やした場面もあったけど、こうしていい結末を迎えられたことは素直に嬉しい。意外と、こういう光景を見たくて面倒ごとに首を突っ込んできたのかもしれない。
「そうだ。俺たちの面倒ごとに巻き込んだ礼としてこれをやろう」
「おいマジかアイゼル」
「マジもマジだ。今回は出番がなかったがきっと坊主の助けになるだろうよ」
「これって……」
親父さんから渡されたのはマフィアのお宅に突入する前に親父さんが取り出したスマートウォッチ型のデバイス。
確かこれは。
『サブクエスト:理想の彼女をクリアしました』
『報酬として『小型時空注文装置』を入手しました』
『エクストラリワードの取得を確認しました』
『物理学者ハロン・アイゼルの物質転送装置に関する論文と設計書の権利がプレイヤー名:センリへと譲渡されました』
『後日、エクストラリワードに関するご案内がありますのでご確認ください』
突如として目の前の空間に現れ、そして脳内に響き渡るアナウンス。その内容を見た僕は、これまでにないほどの衝撃が全身を駆け巡った。
「エクストラ、リワード……ッ!?」
カオス・イン・ザ・ボックスが唯一にして無二と言われる要素。散々あれだけのCTuberの配信を見ていた僕でさえ数えるほどしか知らない『大型リワード』。
――それがエクストラリワード。一攫千金の宝。
「あが、あがが」
「ソイツがあればいつでもどこでもうちの寿司を頼むことができるぜ!」
「あとはマーカーだれを何かに塗れば、どこにいても取り寄せることができるから是非活用してくれ」
そう言って、仲の良い二つの家族が僕から離れていく。
それを僕は黙って見ていることしかできない。
「……」
えらいことになってしまったぞ……。
こうして、波乱万丈と衝撃的な出来事を経て。僕のカオス・イン・ザ・ボックスにおける最初の一日が終わったのだった。
◇
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キャラ:センリ
性別:男
ジョブ:吟遊詩人
アイテム一覧
小型時空注文装置(マーカーだれ×100付き)
装備一覧
手:入門用吟遊詩人のリュート
スキル一覧
吟遊詩人マスタリー:SLv.1
サウンドオブジェクト:SLv.1
フェイクボイス:SLv.1
スリーピィウィスパー:SLv.1
開幕のエチュード:SLv.1
風の音撃:SLv.1
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『小型時空注文装置』
デミアヴァロンに存在する『じくう処』から寿司を始めとした様々な料理を離れたところから注文できる装置。注文するとワープゲートが開き、中から注文した品物が配達される。ただし注文する際には通貨を払う必要がある。
また、付属するマーカーだれを特定の物体に塗ることでマーキングすることができ、三分限定でそのマーキングした物を離れたところから持ってくることができる。
『物理学者ハロン・アイゼルの物質転送装置に関する論文と設計書』
アメリカの物理学者ハロン・アイゼルが執筆した論文とその設計書。論文には一対のワープゲートを用いて、一つの場所から遠く離れた場所へと物質を転送する方法が記されており、設計書には実際に稼働するワープゲートの設計図が書かれている。
原理としては物体を粒子レベルにまで分解し、別の場所で全く同一のものとして再構築させるというもの。現状親指サイズの物体限定ではあるものの、有機物無機物問わずという段階まで成功している。使用できる範囲は現状128メートル圏内限定。
また転送する際に-0.1秒の時間差が生じており、送る時よりも届く時の時間が早い現象が起きている。
※公開時予想利益:予測不能
※内訳は後日、ご連絡いたします。
※当権利はハロン・アイゼルご本人から株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアへと移譲されています。
※当権利のエクストラリワードを入手したプレイヤーは、株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアが共同所有している当権利を入手できます。
※現在カオスチューブの配信設定を終わらせていないため、当権利に関する行使、公開、利益に関して制限をかけております。
※当権利を入手したプレイヤー及びプレイヤーの関係者に対するいかなる不利益からも、株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアがお守りいたします。
サブ1 夢見る無垢は弦を弾く
――完。
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あとがき
作中の科学、技術描写は想像と妄想そして適当によるとんでも理論になってます。
それでも大丈夫な方は僕と握手!
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