ドルチェプレートカラーセラピー

おゆたん

第1話 じゃりン子

『レッド×グリーン』


 この色は、お互いを補い合う色の組み合わせでございます。

 心の内側の情熱的なエネルギーと、外側は平穏に自然体でありたいという相反するメッセージ性がございます。

 しかし、どちらも生命力という共通のキーワードがございます。

 生き抜く生命力と維持する生命力。

 言うなれば、アクセルとブレーキの関係性でございます。


 故に、良い面も悪い面も一方に振れやすく心身のバランス感覚が試されるようでございます。


 そういえば、お嬢様今朝手紙が届いてございましたよ?

 忌々しい、あのじゃりン子からでございます。


 何があったか知りたいですか?


 ここから始まるお嬢様の武勇譚

 とくとお愉しみあれ


 お嬢様は、バレエの特訓に打ち込んでございました。


 そのさなか、稽古中の事故によりお嬢様は、ご友人をケガさせてしまいました。


 よりによって、部内でお嬢様と一二を争う犬猿のライバル。


 お嬢様がワザとやったと心無い噂まで立つ始末。


 アスリートにけがは付き物、お嬢様のせいではございません。


 正義感と責任感が重くのしかかり、お嬢様は完全にメンタルが病んでしまい、大会はおろか稽古すらままならなくなってしまいました。


 お嬢様は彼女を傷つけた責任を取って、みずから退部の意思を告げましたね。


 部室を去るお嬢様の寂し気な背中、重い足取り……


 私、かける言葉も見つかりませんでした。


 そこへ突然……

 怒鳴り声が聞こえて参りました。

『フザケンナッ!』

『ドサッ!』

 罵声と共にトゥシューズをお嬢様の顔面にぶつけたのは、何を隠そうケガをしたご友人でございます。


 これだから私は、野蛮な庶民どもと一緒に居たくないのでございます。


 もう髪の引っ張り合いで収拾が付きません。


 お互い息も絶え絶えになったところで、お嬢様がボソッと本音を漏らします。

「ライバルと戦えなかったら意味がない」と……


 すると、ライバルのご友人からとんでもない言葉が返ってきました。

「同情するなら、一生恨んでやる!」


 これだから育ちの悪い庶民は、かないません。


『クソ生意気なじゃりン子め、私が呪い返してやる!』と心の中で暴言を吐かせて頂きました。

 これからは、“生意気な小娘”を意味する、じゃりン子と呼ぶことと致します。


「私が履けなくなったトゥシューズあんたが履くのよ!!」と、じゃりン子。


 さっきから、誰に向かって口をきいてるのかと、私も我慢の限界、一言言わなきゃ気が済みません。

「どこぞの貧相な店で買った安物。お嬢様のおみ足にそんなおボロを履かせるわけにはいきません……」


『ボフッ……』


 と言いかけたとこで、私お嬢様より有難い鉄拳を頂戴いたしました。


 私が腹部を押さえうずくまっていると、二人の会話が聞こえてきます。


「いつもアンタが居なけりゃ一番なのにって思ってた……ケガしちゃえば良いのにって思ってた……そんな良くない事ばかり考えてから私がケガしたの」

 流れる涙を堪え、じゃりン子は、続けました。


「あなたの小さくなった背中見るの私だって辛いのよ……それくらいわかりなさいよ!!

 絶対あなたより上手くなってやるんだから。だから……私のケガが治るまで、バレエ辞めるなんて絶対に許さないんだから!

 ムカつくけど、あんたは私のヒーロー……ヒロインじゃなくて、ヒーローよ。(ヒロインの座は譲らない)

 ヒーローは、後ろなんて振り向いちゃダメ。私がサポートするから、前だけ向いてなさいよ。それがあなたの責任よ!」


 先程から、自分勝手な事ばかり口走ってるじゃりン子を止めようと、顔を上げると……


 二人は握手を交わしておりました。


 仲の悪かった二人の二人三脚の始まりでございます。


 稽古中、些細な事でいざこざはありましたが、いざ組んでみると、お互い頂点を目指すもの同士、ウマが合いました。


 時に厳しく、時に険しく。それでもじゃりン子はお嬢様を献身的にサポートして参りました。


 しかし、一度だけ大喧嘩しましたね。


 本番が近くなり、思い通りに捗らず焦るお嬢様。

 疲労をおして休むことを拒否したお嬢様にじゃりン子は、ガチギレしました。


 じゃりン子は、事故が起こる前に既にけがをしていたこと、それをおして稽古をしていたこと。

 事故がなくても、じゃりン子の足はもうダメかもしれないと言う事。


「無理してケガをして後悔してほしくない……」


 その言葉に、頑固なお嬢様が珍しく言う事を聞きましたね。


 その後、じゃりン子のサポートに応えるお嬢様の努力により、大会は優勝。

 プレーヤーとサポート。

 立場は違えど、切磋琢磨とはこのことでございましょう。


 じゃりン子は、お嬢様の溢れんばかりの才能にいつも嫉妬しておりました。

 嫉妬とは、ある意味相手を認めているからこそ、沸き起こる感情でございます。

 今思えば、じゃりン子が、一番お嬢様の理解者であり応援者だったのかもしれませんね。


 あれから、ケガから復帰したじゃりン子は、お嬢様のサポートに回った経験を糧に、あっと言う間にお嬢様を追い抜き、今では世界的なバレリーナに


 今回ばかりは、じゃりン子に完敗でございます。

 ささやかながら、エールを送りましょう。


 真っ赤なバラが綺麗に咲くのは、グリーンの支えあってこそでございます。


 このお話、どちらが花咲くバラで、どちらがそれを支えるグリーンなのか……どっちだったのでしょうね?

 きっと、それもいろんな見方、立場によって変わるのでございましょう。

 もちろん、私にとってはいつだってお嬢様が花咲くバラにございます。


 ライバルの苦しみやもどかしさを理解することで、お二人とも心身ともに成長なさったのでございましょうか。


 さて、お手紙の中身でございますが、バレエチケットが入ってございました。


 演目は、みにくいアヒルの子。プリマ・バレリーナ(主役)は、Jyarinko(生意気な小娘)ですって……


 幼少の頃、お嬢様が主役をやった演目ではございませんか。

 じゃりン子は、主役の座を奪われたことを今でも根に持ってるのでしょうか?


 こんな、子供のお遊戯会でやるような演目、多忙なお嬢様が行くはずがございません。

 チラシの裏にもならない物をよこして、まったく相変わらず生意気な小娘め!

 こんなもの処分致します。


 はいっ?!

 直ちにご出発でございますか??


 はいっ!直ちに準備致します。

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